【上海・アイス事件】中国人をいちばん見下すのは中国人?

 

世界中の自動車メーカーが最新の自動車を披露して、勝負をかけるのがモーターショー。
国の内外のメディアに大きく注目されるこのモーターショーでは、どの会社も気合いが入っているから、多くの来場者を自分たちのコーナーへ呼び寄せるには工夫が必要になる。

中国の上海で行われたモーターショーで、BMWがアイスクリームの無料配布をしたのはそんな理由と思われる。
なんでそれが「事件」になったのか?

 

 

BMWのブースにいた女性が「アイスくれ」という中国人には「もう配り終わった」と追い返すのに、外国人が同じことを言うと、笑顔でアイスを渡して開け方まで教える。
この様子がネットで拡散すると「差別だろ!」と批判が殺到し、中国メディアでは「アイス事件」とよぶ。
民衆の怒りは怒り収まらない。
鉄(?)の棒でフロントガラスをたたき壊す、ボンネットに「ドイツへ帰れ」とスプレーで書く、アイスクリームを投げつけるといった行動に出て、不買運動にまで発展した。

たかがアイスで…と思うけど、自分だけもらえないとやっぱり腹は立つ。

この“アイス事件”について、テレビでコメンテーターとしても活躍しているある日本人がこんな見解を述べた。

「我々アジア系は人種差別を受ける側なのに、日本人はこれに鈍い人が多いことを以前から危惧している。日本で同じことが起きていたら、あのように民衆は激怒しないのではないか」

そうか?
アジア系が人種差別の加害者になることはあるし、あそこまでの激しい怒りは日本人にはイラナイ。
この一件を知り合いの中国人(30代の男性)に聞いてみたから、これから彼の見方を紹介しよう。

 

まず彼に言わせるとこれはクリスチャン・ディオールの件と違って、中国人による中国人差別だから外国人はほぼ関係ない。

*2021年にクリスチャン・ディオールが公開した写真について、モデルの中国人女性を”醜く”表現したと中国人から批判が殺到。
でも外国人(おもに西洋人)からすると、写真の中国人女性はとても美しいと評価する人が多い。
これは美の基準が違ったということだろう。

この女性は中国人差別か?時代や人によって違う「美の基準」

 

とにかく知人に言わせると、これは「我々アジア系は人種差別を受ける側なのに」ということではない。

そもそもこのブースにいた女性って、BMWの従業員ですかね?
このイベントのために外部から派遣されたスタッフだったら、BMWはとんでもない炎上事件に巻き込まれた”被害者”になります。
BMWの人間がこの2人に「中国人は無視しろ。アイスは外国人だけに渡せ」と指示したのなら、不買運動がおこるのは当然ですけど、あの責任者が誰かは分かりません。
配布をまかされたあの2人は上海人で、彼女らが勝手にやったと思いますよ。
とても広い中国では「自分は〇〇省の人間は嫌い」ということがよくあるんですけど、上海人はエラそうだから、ほかのすべての中国人から嫌われているんです。
上海は中国一の経済都市でお金があって、カネさえあれば何でもできるから、財力のない人間は相手にされないか、バカにされるかのどっちかです。
上海人はとても打算的で、自分のメリットを中心にして人と付き合うところがあって、カネにうるさくて冷たいからわたしも苦手です。
上海が国際都市であることに誇りを持っていて、外国人にはコビを売って中国人を軽視する人もいますよ。
あの2人もそうじゃないかな?
実際のところ、中国人を見下すのは中国人なんです。
特に上海人にその傾向が強いから、あれは外国企業ですけど、外国人による中国人差別ではないですね。

 

こう話す彼には、嫌いなタイプの中国人が別にいた。

車をたたき壊してネットにその様子をアップするのは、一部の民族主義で目立ちたがりの中国人です。
最近の中国では愛国心を大事にする教育が行われていて、社会的にもそれが重視されています。
健全な愛国心ならいいんですけど、過激な人もいて中国人のヒンシュクを買うこともあります。
10年ほど前の「反日運動」でも日本車を破壊する人がいましたが、それを批判する人もたくさんいました。
あんな乱暴な行為を、一般的な中国人の発想と思われたら残念ですね。

そんな彼の話を聞いて、頭に浮かんだのが「小粉紅」(しょうふんこう)とよばれる人たち。
彼らは若いネット世代の民族主義者で、共産主義者としてはまだ未熟(=完全に赤く染まっていない)という意味で「ピンクちゃん(小粉紅)」とよばれる。

こう見るとこの「上海・アイス事件」は、中国人を見下す中国人と過激な愛国主義がおもな原因で、外国人による中国人差別ではない。
我々アジア系は人種差別を受ける側で、日本人は差別に鈍感という指摘はどこかズレてるし、やっぱり日本の民衆はあそこまで激怒しなくていい。

 

以前、中国を旅行した時に日本語ガイドから、「2012年の反日活動の時、我々は散々でしたよー」という話を聞いた。
日本旅行を扱う旅行会社に電話がかかってきて、受話器を取ると「そんな商売はすぐにやめろ!この売国奴!」と言われてガチャ切り。
日本人のお客さんと空港にいるガイドには、「日本人の狗(犬)め!」と吐き捨てる。

「日本人に比べて中国人は個人主義で、自分と違う価値観を攻撃して排除しようとするところがあるんですね。ある意味、中国人の最大の敵は中国人なんです」

そんな話を聞いたことがあったから、「中国人を見下すのは中国人」という指摘はわりと刺さった。

 

中国で見た「反日愛国タクシー」

 

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。