ゴールデンウイーク真っ最中の5月4日、愛知県で電車が無人の車に激突する事故が発生。
つまり、車を置いたままドライバーはどこかへ移動したことになる。
その後の警察の調べで、20代の女がこの車を運転して線路上に侵入し、電車がぶつかる前に逃げたことがわかった。
電車にはたくさんの乗客が乗っていたから、これはもう”テロ”と言っていい。
「人生がどうでもよくなり、死んでもいいやと思った」と話しているから、この女は”自殺志願者”だったようだ。
ただでさえ詰んでいた人生が、天文学的な賠償金でさらに追い詰められる未来しか見えないのだけど。
さて、石を置いて電車の運行をジャマする事件はたまに聞いても、あえて線路に車を放置するというのは記憶にない。
ここまで悪質ではないけれど、世界には、こんなコトが日常風景に近い国があることを最近知った。
このゴールデンウイークに知人のバングラデシュ人が車で伊豆を旅行して、その感想をSNSにこう書いた。
・Tragedian trip 😂
・sorry for the drivers 🤣 but the place was magnificent 🤩
悲劇のような旅行になったというドライバーに、「お気の毒さま。でも場所は素晴らしかった!」と一緒に行った人が返事をする。
ゴールデンウイークと大渋滞は友だち同士だから、「magnificent」というほどの観光地へ行ったらこれは避けられない。
バングラデシュ人とナイジェリア人を連れて植物園へ行った帰り、ボクもプチ渋滞に巻き込まれた。
1分で50m進むような状況に、「これがゴールデンウイークだ。どうすることもできない」と言うと、「いやいやいや、これぐらいの渋滞なら母国じゃいつものことです。まったく問題ないですよ~。」と彼らが笑う。
バングラ&ナイジェリアの人たちはしゃべることが好きで、渋滞中もそれなりに楽しんでいるから、こっちも特に気にする必要はない。
*そんなバングラデシュ人でも「Tragedian trip 😂」と半泣きになったのだから、ことしのGWの伊豆の混雑は空前絶後だったのか。
このとき助手席にいたナイジェリア人が、
「渋滞は世界のどの都市にもあるけど、日本ではクラクションを鳴らす人がいなくて、すごく静かなところが印象的だ。西アフリカの人間と違って日本人はとても寛容だね」
と感心すると、バングラデシュ人も同意。
「それはたしかに。うちらの国でも、クラクションの音が全方向から聞こえてくるから、いつもすごくうるさい。そういう環境に慣れていたから、日本人の静かな運転にはマナーの良さや他者への配慮を感じる」
そうは言っても、この状況でクラクションを鳴らしてもまったく無意味では?
そんなことは分かっていてもバングラデシュやナイジェリアでは、イライラすると”腹いせ”でクラクションを鳴らす人がいるらしい。
*ちなみに「クラクション」は日本語だから外国人には通じない。
このとき彼らは「ホーン」と言っていた気がする。
このナイジェリア人が生まれ育ったラゴスは、西アフリカ最大の都市で約2000万人が住んでいる。
人・車・バイクがとにかく多いから、日本の観光地レベルの渋滞なら平常運転(いつものこと)。
そんなナイジェリアの渋滞にはのろのろ運転の「ゴースロウ」と、まったく動かなくなる「ホールドアップ」の2種類があるという。
*植物園の帰りに巻き込まれた渋滞はゴースロウのほう。
彼が言うには、ラゴスは秩序と無縁の都市で「カオス」、「クレイジー」、「ジョーク」と表現するのがふさわしい。
渋滞なんていつものことだから、自分の店を持たない人たちがお菓子やサンダルなどの日用品を売り歩いて、お腹の減ったドライバーがそれを買って渋滞に耐える。
そんな国では、日本では聞いたことがないような原因で渋滞が発生する。
トラックのドライバーが突然、車を捨ててどこかへ行ってしまうのだ。
道路上に車が放置されるのだから当然、ゴースロウになるのだけど、そういうことは珍しくないから、なんだかんだ処理して1~2時間で解消される。
困るのは、片側一車線の道でこれをやられること。
こうなると道が完全にふさがれてしまい、反対車線に入って追い越そうとすると、前から来る車とにらみ合いになるから、両車線でホールドアップになるという地獄が発生する。
こうなると処理に5時間ぐらいかかる。
ドライバーが車を道に放置すれば、そうなることは想像できるとしても、その動機がまったく思いつかない。
それを聞くと、彼はこう言う。
「仕事でストレスを抱えていたんだろ。それで渋滞に怒ったり、まわりのドライバーとトラブルになったりして、キレたドライバーが車を捨てて出て行く。オレも正確には知らないよ。もちろんドライバーには仕事を失う覚悟ができていて、ムカつく会社に迷惑をかけるためにそうするかもしれない」
ラゴスの一般人はみんなストレスをかかえていて、何かがきっかけになって”爆発”する人はよくいる。
クレイジーなことが起こるのがラゴスだから、その理由なんていちいち考えないらしい。
大きな川にかかる橋で渋滞中、ドライバーが車から降りてそのまま川に飛び込んで自殺したという話を聞いても、「ラゴスだからね」と思っただけで彼は特に驚かなかったという。
ラゴスの交通事情を説明する海外メディア「Global Voices」には、ここでは誰もが怒っているように見えて、気づくと自分も激怒していると書いてある。(8 August 2022)
When you move around Lagos, it seems as though everyone is angry or mad, and soon enough, you notice yourself acting mad too.
The sweltering traffic congestion on the roads of Lagos in Nigeria
ナイジェリア人の作家は、「この街で生きていくためには、人はクレイジーでなければならない」と言う。
ラゴスで通勤する人は、1週間の労働時間の75パーセントを交通渋滞のために失っているらしい。
ということでナイジェリア全体は別としても、ドライバーが路上に車を放置してどこかへ消える現象は、ラゴスの住民には驚くほどのことじゃない。
(バングラデシュ人にとってもこれはビックリ)
日本人なら、「人生がどうでもよくなって、死んでもいいやと思った」と自暴自棄になってするようなレベルのことが、ラゴスでは日常的に起こる(らしい)。
そんな環境で生まれ育ったナイジェリア人の彼は、来日してキレイで秩序正しい社会を見て、別の惑星に来た思いがした。
突然ドライバーが川に身投げするなんて、ボクの感覚では『PSYCHO-PASS(サイコパス)』や『攻殻機動隊』の最初のシーンにありそう。
日本人がラゴスへ行ったら、異世界に転送されたと思うかも。
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