イギリスでは国王に不幸が訪れると、
「The king is dead, long live the king!」
という特別な言葉を使う。
前者の「The king」は亡くなった去った王で、後者の「The king」は新しく即位する王のことで、「王は死んだ。しかし王政はこれからも続く」といった意味になる。
「The king is dead, long live the king!」にみる日英の違い
昨年9月、エリザベス女王の死去と同時に、チャールズ3世がイギリス国王として即位して、先日5月6日にロンドンのウェストミンスター寺院で戴冠式が行われた。
王になった(即位した)ことと、王冠をかぶり、王位に就いたことを国民に知らせる戴冠式は別ものだ。
日本のメディアは見た限りではお祝いムード一色だったけど、世界にはそうもいかない国もある。
まえに知人のインド人とこの戴冠式について話をしてると、彼はこんなことを言う。
「そりゃ素晴らしいことだし、イギリス国民にとってはとても大切なコトなんだろうね。でも、インドはイギリスの植民地だったから、インド人としては微妙で複雑な気持ちもあるわけですヨ」
植民地支配には光と闇があって、イギリスが鉄道を導入したことなどでインドは近代化した一方で、インドは貴重な鉱物をイギリスに略奪された。
そんな屈辱の象徴に、ペルシア語の「光の山」に由来する「コイヌール」という大きなダイヤモンドがある。
ウィキベテアには1849年に、パンジャーブという国がインド帝国の皇帝だったヴィクトリア女王に献上したと書いてあるが、知人のインド人は「イギリスに奪われた」と認識していた。
当時は世界最大と言われたこのダイヤは、いまはロンドン塔で展示されている。
「カエサルの物はカエサルに」でインド政府はこのダイヤの返還を要求し、それに応じないイギリスと対立している。
でも”完全スルー”ではなく、イギリスもインドに配慮はしていて、今回の戴冠式ではカミラ王妃が着ける王冠で「コイヌール」は使われなかった。
これを使えば、ダイヤの所有権はイギリスにあると全世界にアピールするようなものだから、インドを怒らせて面倒くさいことになる。
*1937年のジョージ6世の戴冠式では、エリザベス王妃(故エリザベス女王の母親)の王冠にコイヌールが付けられた。
むかしイングランドが奪ったスコットランド王家の守護石「スクーンの石」は、元のスコットランドへ返還されたけど、インドが相手だとそうもいかないらしい。
インドだけでなく、イギリス国民のあいだでも「コイヌール」はインド植民地支配の象徴でもあるから、それを返して過去の歴史の清算をするべきという声もある。
ダイヤは返還すればいいとしても、もう取り返せないこともある。
カルカッタの路上で餓死した子供とおそらくその母親(ベンガル飢饉)
戴冠式を見つめるインド人の思いがビミョウになる原因は、ダイヤモンドのほかにも飢饉がある。
時事通信(2023年05月06日)
印メディア、英国王の戴冠式を詳報 「冷酷な支配者」に複雑さも
植民地時代、インドで起きた大飢饉(ききん)に適切に対処しなかった「冷酷な支配者に対する恨み」はいまもインド人一般に残っているという。
これは500万人以上が餓死したという1876~78年のインド大飢饉か、それとも、少なくとも300万人が死亡した1943年のベンガル飢饉のどちらを指しているのか分からない。
でも、きっと後者と思われる。
食べる物が無くなって多くの人が餓死し、地面に転がっている死体を犬やハゲタカが食べていた(下の動画)。
そんなベンガル飢饉は、チャーチル首相のインド人に対する反感や人種差別(racism)によって、あえて食料を送らなかったことが原因にあったと考えられている。
Churchill’s animosity and perhaps racism toward Indians decided the exact location where famine would fall.
ウィンストン・チャーチル(1943年)
80年前のことだから、この地獄を生き抜いていまも存命中の人がいるだろう。
それでもいまのインド人に話を聞くと、イギリスのことが好きだと答えるし、今回の戴冠式にも拍手を送る人が多いはずだ。
ただ植民地として支配され、世界最大のダイヤモンドを奪われて、飢餓を与えられた過去を考えると歓迎一色というワケにもいかない。
チャーチルはイギリスの英雄ではあるが、彼の負の遺産はいまもインド人に苦痛を与えている。
日本とイギリスの関係 19世紀の日英同盟と重なる21世紀のいま
日本とイギリスの季節(四季)の違いや特徴。あること・ないこと。
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