きのう5月10日の記念日は「May・10(ド)」ということで、メイドの日。
ということは「冥途(冥土)の日」でもある。
本来は死者の霊魂の行きつく世界、いわゆる「あの世」が冥土で、そこへ通じる道が冥途だった。
でも、いまでは冥土も冥途も死者の世界やそこまでの道程を指すから、漢字が違うだけで同じ意味と思ってヨシ。
死者は冥土へ行くために、途中で「三途の川」を渡らないといけないというのが仏教のお約束。
でも、「三途の川」は日本人が創造したオリジナルの川で、中国やタイなどの仏教にこんな川はない。
生前にどれだけの良い/悪いことをしたかによって、渡る川の場所がイージー、ノーマル、ハードモードの3種類に分かれるから三途の川と言われる。
または、三途は「餓鬼道・畜生道・地獄道」に由来するという説もアリ。
善人は馬に乗って橋をラクラクと渡り、悪人は恐ろしい竜のいる激しい流れに投げ込まれる。
すべてはカルマだ。
三途の川を越えると、奪衣婆(だつえば)が待ち構えていて、「よくきたなワレ」と死者の衣服をはぎ取りやがる。
この老婆の姿をした鬼はあの世で会う最初の役人(獄卒)で、奪った服をすぐ近くにいる懸衣翁(けんえおう)というジジイに渡す。
懸衣翁が死者の服を木の枝にかけて、どれだけ枝が下がるかによって生前の罪の重さが分かるという。
*これをやってから、三途の川の渡る場所が決まるという説もある。
日本にいる外国人をお寺や神社へ連れ行くと、ベースとなる文化や歴史が違うから、いろんな発想が出てきておもしろい。
上の絵を見せてこの三途の川には、あの世(彼岸:ひがん)とこの世(此岸:しがん)を分けるパーティションの役割があると話すと、たまにこんなことを言う外国人がいる。
「驚いたな。ギリシア神話にもそれとソックリな話があるんだ。ひょっとしたら仏教とギリシア神話には、どこかでつながりがあるかもしれない」
経験上、こんなことを言ったのはドイツ人、スロヴァキア人、アメリカ人、リトアニア人、トリニダード・トバゴ人でやっぱり欧米を中心にした、西洋文化の影響の強い国の人たちだ。
*トリニダード・トバゴは南米のベネズエラの近くにある国。
ヨーロッパの国に支配されていたから、キリスト教徒が多くて国民は英語を話す。
ギリシア神話では人が死ぬと「ステュクス」という川を通って、死者の国を支配する神・ハデスのいる冥府へ到達することになっている。
Styx(ステュクス)について、英語版ウィキベテアにはこんな説明がある。
「a river that forms the boundary between Earth (Gaia) and the Underworld」
(地球(ガイア)と冥界の境界を形成する川)
日本の仏教でいうなら、ステュクスが三途の川でハデスは閻魔だ。
ただギリシア神話では冥府の周囲にはステュクス以外にも、その水を飲むと一切の記憶が消去されるレーテー(忘却の川)、プレゲトーン(火の川)、コキュートス(悲嘆の川)、アケローンの4つの川がある。
ちなみにコキュートスはダンテの「神曲」では地獄の最下層として出てくるし、アニメ『オーバーロード』のキャラとしてもファンの間では有名だ。
このなかで最も有名な川がこの世とあの世を結ぶステュクス川で、カローンというほぼ全裸のじいさん(下の絵では)が死者の魂を小舟に乗せて運ぶ。
ステュクス川を渡って死者(の霊魂)を運ぶカローン
ミケランジェロが描いたカローン
ただしこれはボランティアではない。
だから古代ギリシアでは、カローンへの渡し賃として死者の口にコインを含ませる習慣があったのだ。
三途の川にも有料の渡し船があるから、その料金である六文銭を死者に持たせる(棺に入れる)ことがいまの日本のお葬式で行われている。
大地を流れる川を見て、生者と死者の世界の境界線に見立てる発想はほかの国でもありそう。
でも、衣服をはぎ取る奪衣婆は日本の、カローンはギリシア神話のオリジナルキャラだし、そこから作られるストーリーはその民族の文化や伝統によってそれぞれ違う。
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