ドイツ人日本にがっかり W杯で表れた欧州との価値観の違い

 

サッカーの女子ワールドカップの試合で、日本女子代表はスウェーデンに「1-2」で敗れ、今回の挑戦はベスト8で終わった。
でも、日本は世界に強い印象を残すことはできた。

フットボールゾーン(8/12)

「素晴らしい人間であることを改めて証明」 日本人ファン、W杯敗戦後のスタンド清掃に海外脚光「本当に心が温まる」

試合が終わると、スタジアムの掃除を始めた日本のファンに、海外からは称賛の声が相次いだという。
たとえば、米メディア「FOXスポーツ」のサッカー版公式X(旧ツイッター)はこんなメッセージを公開した。

「彼らは素晴らしいサポーターであるだけでなく、素晴らしい人間でもあることを改めて証明した」

海外のファンからも、「世界は日本文化をもっと必要としないと」とか「日本の文化はW杯で最高のものだった」といった声が寄せられ、この新しい日本の文化に拍手が送られる。
同じ現象は去年もあった。
カタールで行われたサッカー男子のワールドカップでも、試合後に日本のファンがビニール袋を持てゴミを拾い集めて、世界から注目&称賛されたと日本の各メディアが伝えた。
日本では、こうした「お掃除」を冷ややかに見る人もいるが、好意的に評価する人の方が多いから、日本のメディアはこの手の話題をよく取り上げる。

 

「なでしこジャパン」は試合には負けたけど、ファンにお辞儀をして「class act(一流の人間)」と称賛された。

 

知り合いに、日本に住んでいたことがあって、日本が大好きなドイツ人がいる。
親日家の彼に上の話をしたところ、「そういう敬意や配慮は、日本人の素晴らしいところだね。でも、個人的には残念に思ったことがあるんだ」と言う。
彼の失望の理由は、日本がこの動きに距離を置いたことだ。

NHKニュース(2022年11月24日)

ワールドカップ “差別反対”でドイツ連盟が改めて抗議の意思

W杯の開催国であるカタールでは、同性愛行為が違法とされていて、移民労働者への差別的な待遇が問題視されていた。
それでヨーロッパのイングランド、ドイツ、オランダなどのチームは、このW杯でカタールの人権問題を世界にアピールしようと考え、各チームのキャプテンが「ONE LOVE」と書かれたキャプテンマークを腕に巻いて試合に出場しようとした。

カタール側は、自分たちの名誉が傷つくことになるから、この動きに強く反発する。
国際サッカー連盟(FIFA)はヨーロッパのチームに、それを着用した場合は警告を出すと伝えると、ドイツサッカー連盟は「検閲だ」とFIFAを批判した。
結局、反差別を表すキャプテンマークの着用は認められず。
怒ったドイツの選手たちは FIFAに抗議の意思を表すため、日本との試合の前、全員が手で口を覆い、「表現の封殺」をアピールした。
ドイツのサッカー連盟は、公式のホームページやツイッターでこんな声明を発表する。

「人権問題は譲れない。腕章を着けないということは声を上げないということと同じだ。私たちは自分たちの立場を貫く」

 

知人の話によると、ドイツ社会では、人権の尊重や言論の自由は「一番」と言っていいほど尊重されている。
だから、彼はドイツ人として、選手やサッカー連盟の行動を 100%支持していた。
サッカーW杯では政治的な主張は禁止されているが、人権を守ることは人類にとって重要なことだから、それを訴えるのは当然で、政治的主張に当たらない。
彼はそう考えていて、日本もヨーロッパの立場に共感し、支持してくれるのではないかと期待していたらしい。

日本としても、人権を尊重し差別に反対することには賛成だ。
でも、このテンションにはついていけない。
スポーツの国際大会で、ホスト国を怒らせるような抗議活動をする必要はないと考える人が圧倒的に多かった。
もちろん、「日本代表も『ONE LOVE』のキャプテンマークをつけよう!」と主張する人や、ヨーロッパの動きとは一線を引く日本の態度に「人権問題への鈍感さ」を嘆く人もいたが、それは本当に少なかった。
普段は、「日本は難民の受け入れに消極的だ。ヨーロッパの人権を重視する姿勢を見習うべきだ」 と主張するメディアも、この時はヨーロッパの立場を支持する報道は少なく、その動きを冷静に淡々と報じていたように思う。
言ってる内容が正しくても、言い方によっては毒にも薬にもなるし、やり方は重要だ。

日本人の価値観では、まわりに敬意や配慮を示すことが大切とされているから、スタジアムの掃除や観客へのお辞儀はそれに合っている。
一方、ヨーロッパ人の価値観では、まわりに自分の権利を主張することは大切とされているから、たとえ相手が嫌がるとしても、それをアピールすることは正しい。
日本も人権尊重や差別反対の理念には賛成しても、スポーツ大会でそれを世界に主張するやり方にはついていけない。
もし、今回の女子ワールドカップが別の国で開催され、ヨーロッパのチームが「ONE LOVE」の腕章をつけたとしても、なでしこジャパンは男子と同じように距離を置いたはずだ。

 

知人のドイツ人にとっては、W杯の結果よりも、それを通じて多様性や人権がもっと尊重される世界になることの方が重要。
だから、ドイツ代表の行動を支持して、FIFAの決定には腹が立った。
親日家の彼としては、日本人がスタジアムの掃除をするのもいいことだけど、この考え方に賛同してほしかったらしい。
もちろん、自分が勝手に期待し、勝手に失望したことは分かっている。

「素晴らしい人間でもあることを改めて証明した」のニンゲンについては、いろいろな見方がある。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。