フランスを代表する民族学者で、何度か日本を訪れた経験があり、日本の文化を高く評価したレヴィ=ストロースはこう言った。
「私が非常に素晴らしいと思うのは、日本が最も近代的な面もおいても、最も遠い過去との絆(きずな)を維持し続けていることができるということです。」
日本では、いまも古代の歴史が生き続いている。
その代表例と言える奈良・正倉院の「開封の儀」がきのうから始まった。
756年に、光明皇太后が夫である聖武天皇の遺品を、東大寺の大仏に奉献(ほうけん)した。
これらの貴重な品々はその後、正倉院に収められて現在まで保管されている。
ただ、現代では、9000件に及ぶ宝物は「宝庫」という別の建物へ移された。
毎年この時期になると、宝庫の扉が開かれ、収蔵品の点検や調査、防腐剤の交換が行われる。
これにネットの声は?
・他国では遺跡として土の中から出てくるような物が、しっかり保管されて残ってるんだから凄い
・配信してよ
・そのうち闇バイトに強盗されそう
・平成や令和の文化遺産って遠い未来では何が貴重な品として残るんだろうな
・今はもうあの正倉院自体が立派な宝物だわ
赤漆文欟木御厨子(せきしつぶんかんぼくのおんずし)
始まりは、飛鳥時代の天武天皇にさかのぼる。
金銀山水八卦背八角鏡(きんぎんさんすいはっけはいのはっかくきょう)
銀薫炉(ぎんくんろ)
蘭奢待(らんじゃたい)
この香木は最高の香りを放つとウワサされている。
足利義満、足利義教、織田信長などがこれを切り取って香りを楽しんだという。
ちなみに、「蘭奢待」という漢字の中に「東・大・寺」の文字がある。
以前、中国を旅行した際、40代の日本語ガイドにあちこちを案内してもらった。
彼は、中国へ来た日本人のガイドをすることもあれば、添乗員として、中国人の客を日本旅行へ連れて行くこともある。
日本を旅行した中国人がどんな感想を持つのか聞くと、店員のサービスが良いことに感動することは鉄板だとか。
また、日本では古い建築物がとても良い状態で保存されているから、それに感心したり、逆に残念に思う人も多いらしい。
感心するのは分かるが、なんで「残念」なのか?
歴史を学んだというガイドによると、中国の歴史は日本より古いけど、隋・唐・宋・元…と王朝が何度も替わってきた。
王朝の交代は一度もなく、古代から現在まで続いてきた日本と比べると、中国は、レヴィ=ストロースの言う「遠い過去との絆」を維持していない。
中国では新しい王朝が始まる際に、前王朝の建物や文物を徹底的に破壊することが何度もあった。
たとえば、京都のモデルになった唐の都・長安だ。
10世紀に朱全忠が唐を滅ぼすと、彼は住民を洛陽に強制移住させるため、長安を完全にぶち壊し、中華文明の中心地を「さら地」に変えてしまった。
未練を断つために、長安を徹底的に破壊し、壊した宮殿、邸宅の木材は渭水から東へ流しました。
大唐の長安はこのとき、地上からすがたを消したといってよいでしょう。
(中略)大雁塔や小雁塔だけが、壊しにくいだけの理由でそのままにされ、辛うじて現存しています。「中国五千年 (講談社文庫) 陳舜臣)」
かろうじて生き残った大雁塔
長安が消滅した後、その跡地に西安が建設さたから、現在の西安には唐の面影はほとんど残っていない。
そのため、中国人が京都を見ると、「長安もきっとこんな都市だったんだろうな」と感慨にふけることがよくあるらしい。
さらに中国は、モンゴル人が建てた元のように異民族の支配も受けたから、漢民族の伝統や文化が失われたり、異民族の影響を受けて変質したりしたという。
そして、20世紀まで残されてきた歴史的な建造物は、文化大革命の時期に破壊されまくった。
ということで、ガイドによれば、中国人が日本を旅行すると、古い文化や歴史がとてもよく保存されていることに感心し、逆に、中国では多くの文化が失われてしまったことを残念に思うらしい。
日本にいた20代の中国人にガイドの話をすると、彼もそれに完全に同意した。
彼も京都を旅行したとき、やっぱり唐王朝の影響を感じ、なんで西安はこうならなかったのかと悲しくなった。
そもそも中国人には歴史を大切にする考え方が薄く、自分の利益を優先する傾向が強かったらしい。
だから、多くの王や貴族の墓は泥棒に荒らされ、貴重なものが奪われ、もうどこかへ消えてしまった。
彼は正倉院については初耳で、飛鳥時代の宝物が21世紀の現在まで保存されていることに驚いて、「本当ですか? それはスゴイですね」と笑う。
彼の考えでは、もし中国にそんな宝物庫があったら、すぐに盗まれて中は空っぽになるだろうし、建物の材木に価値があれば、それも奪われて空き地になる。
彼からしたら、なんで日本ではそうならなかったのか不思議。
日本人からしたら、この事件は想像を超えている。
朝日新聞の記事(2023年9月6日)
万里の長城を掘削機で破壊、中国山西省 「近道つくるため」2人拘束
中国にある歴史文化遺産の中でも、最も重要なもの一つが「万里の長城」。
ある日、工事現場で作業していた2人の人間が、遠回りをするのが面倒になり、近道をつくるために、人類の宝を掘削機で豪快に破壊しやがりました。
写真を見ると、「万里の長城」の壁が壊されたところに新しい道ができて、車が通った跡がある。
中国メディアは「取り返しのつかない損壊」と頭を抱える。
「万里の長城」については、以前から、住民がれんがを勝手に取って自宅の壁に使うことが問題になっていた。
21世紀に生きる現代人でも、平気でこんなコトするのだから、中国では歴史を大切に保存しようと考え方は確かに希薄だったのだろう。
日本が最も近代的な面もおいても、古代との絆を維持し続けてきたことは奇跡的だ。
おまけ
西安にある兵馬俑では、中国史のスゴサを実感できる。
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