昭和の日本では、病院の待合室や電車の中でタバコが吸うことができた。
そんな常識は令和の今では、迷惑系ユーチューバーが非難するレベルの非常識だ。
同じことに対する見方が変わるのは、人々の価値観は時代の流れとともに変化するから。
では今回は、評価が激変したアメリカと日本の有名人を通じて、両国の価値観の違いを探っていこう。
まずは、アメリカ社会で転落したコロンブス。
ここでの記述はこの記事と重なるから、「もう知ってる」という人は足利尊氏までスキップしてくれ。
コロンブスは大西洋を船で横断し、1492年に、ヨーロッパ人にとっては新世界であるアメリカ大陸を「発見」し、世界の歴史を変えた。
ここまでならワールドクラスの偉人なんだが、彼には”続き”がある。
当時のヨーロッパ人としては常識的な行動だったのだろうが、コロンブスはアメリカ大陸で多くの先住民を殺害し、奴隷にした。
最近のアメリカ社会の価値観では、マイノリティの人権が特に重視され、人種差別は強く非難されている。
そんな背景から、コロンブスの暗黒面がクローズアップされるようになってきた。
彼を嫌悪する国民が増えた結果、「アメリカ発見」の偉業をたたえるコロンブス・デーを廃止する州が増え、コロンブスの像が撤去される動きも広まっている。
偉人として称賛されていた彼の名声や評価はいまや完全に失墜した。
見る人の価値観が変わると、冒険者が虐殺者になることもある。
関係ないのだけど、コロンブスの評価を知ろうと思ってググったら、
【モンスト】コロンブス(獣神化)の最新評価!
みたいに、モンストばっか出てきて困った。
日本人が気になるコロンブスの評価はこっちらしい。
米連邦議会議事堂には1844年から1958年まで、の「アメリカの発見の像」が設置されていた。
地球儀を掲げるコロンブスの隣に、うずくまった先住民の女性がいる。
これは、知的・道徳的に劣った先住民に対する白人の勝利や優位性を表す。
そんな150年以上前の常識は、現代のアメリカでは最悪の人種差別と見なされる。
数年前まで、日本に住んでいた友人のアメリカ人(20代・女性)は、天皇に興味をもっていた。
アメリカは王や貴族といった「特権階級」を否定し、自由や平等を理念に掲げて、1776年には建国された。
アメリカは新しい国で歴史が浅いから、彼女の目には、天皇や世界最古の王朝(天皇家)が謎めいて見えたらしい。
現在、世界中で「エンペラー」と呼ぶことができるのは天皇だけだから、「ラストエンペラー」と言ってもいい。
皇帝はアメリカ人の価値観と矛盾していて、映画の中で出てくるような存在。
誰もが平等に天皇になるチャンスがある社会なら、それはアメリカ的だと言う。
そんなことで彼女からすると、日米の最大の違いの一つは天皇の存在だから、その歴史や背景には興味があった。
日本人の価値観では、天皇はとてつもなく重要な存在だ。
だから、天皇に対する国民の見方が変わったことで、評価が急上昇した人物がいる。
この馬に乗った武者はこれまで足利尊氏と思われていたが、いまでは別人という説が有力だ。
ウィキペディアでは、下の人物を尊氏として紹介している。
江戸時代、武士の価値観では「忠義」が特に重要視され、主君に忠誠を誓い、従うことが美徳とされていた。
だから、主君の敵を討つ『忠臣蔵』のストーリーに人々は心をぶち抜かれる。
そんな考え方からすると、足利尊氏のようなヤツは許せない。
後醍醐天皇は鎌倉幕府を倒した功労者として、彼を特に高く評価し、自分の名前「尊治(たかはる)」から「尊」の一字を授けた。
これはとてつもないで、足利高氏は尊氏と改名する。
しかし、尊氏はその後、後醍醐天皇と対立し、天皇を京都から吉野に追いやってしまった。
江戸時代の武士たちに大きな影響を与えた水戸学では、皇統の伝統を尊重していたから、後醍醐天皇に反旗を翻した尊氏はまさに「逆賊」になる。
主君に刀を向けるような人間は徹底的に嫌われ、憎まれた。
幕末の1863年に起きた「足利三代木像梟首(きょうしゅ)事件」に、尊氏に対する人々の気持ちがよく表れている。
尊皇攘夷派の人間が京都の等持院に侵入し、尊氏・義詮・義満の木像を持ち出して首を引き抜き、「正当な皇統たる南朝に対する逆賊」という罪状で、三つの首を三条河原にさらした。
江戸時代が終わって明治の世の中になり、西洋文明の影響から人々の価値観や考え方は大きく変わったが、「天皇の敵」という足利尊氏の評価は相変わらず。
彼は安定して憎まれていた。
1934年(昭和9年)にはこんな出来事があった。
当時、商工大臣をしていた中島 久万吉(くまきち)が、以前、足利尊氏を再評価すべきだと文章を書いたことが分かり、批判を受けて大臣辞任に追い込まれた。
足利尊氏を「後醍醐天皇に背いた謀反人」とする見方は鉄板で、これに異論を唱えることは許さない空気があったのだ。
戦後、天皇の立場は大きく変わる。
1946(昭和21)年に昭和天皇は「天皇を現御神(アキツミカミ)とするのは架空の観念である」と述べ、自らの神性を否定した。
*現御神(=現人神:あらひとがみ)とは「この世に人間の姿で現れた神」のこと。
もっとも、戦前から国民は、天皇を神の化身と考えていなかったが。
こんな「人間宣言」の影響もあって、日本で天皇を神格化する雰囲気が薄れると、やっと尊氏が再評価されるようになってきた。(足利尊氏)
「動乱の時代を生き抜き、室町幕府を創設した尊氏はやっぱりスゴイ」、「尊氏はとても強く、カリスマのある将軍だった」と持ち上げられ、足利尊氏を主人公とするNHKの大河ドラマもつくられた。
手首が千切れそうなほどの手の平返し。
現代では、そんな国民の認識の変化から尊氏の評価も上がっていき、戦前までは「逆賊」や「国賊」とボロクソ言われていた彼を「英雄」とたたえる人もいる。
日本の歴史で、尊氏ほど評価が激変した人物もめずらしい。
ということで、本日のまとめ
移民大国のアメリカで、国民の価値観において「人種」は特に重視される要素だ。
日本人にとってのそれは「天皇」になる。
コロンブスの評価が冒険者から侵略者や虐殺者へダダ下がりし、逆賊だった足利尊氏が英雄に持ち上げられたことから、日本とアメリカ社会の価値観の変化が浮かび上がってくる。
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