1492年の10月12日、コロンブスが「新世界」であるアメリカ大陸へ到達した。
「知ってる! コロンブスは初めてアメリカへ来たヨーロッパ人!」と思った人は情報をアップデートしておこう。
アメリカ社会で、この人物ほど評価や名声が天から地に落ちた人物はレア。
その原因は人々の価値観の進化だ。
クリストファー・コロンブス
目が疲れてるっぽい。
コロンブスが危険で困難な航海を乗り越えて、アメリカ大陸を発見してくれたおかげで、いま自分たちがここにいる。
ということで、1792年の10月12日、コロンブス到着の300周年を記念し、ニューヨークで初めてコロンブス・デーが祝われた。
それ以降、この日はアメリカのお約束となり、1937年には連邦政府によって祝日に指定される。
アメリカ人にとってコロンブスは超重要人物で、首都ワシントンD.C.の正式名称「コロンビア特別区」は彼にちなんで付けられた。
しかし、ここ20~30年で、アメリカ市民の意識や価値観は大きく変わり、コロンブスやコロンブス・デーに対する視線は一気に冷たくなる。
コロンブスが新大陸を「発見」したことで、多くのヨーロッパ人が移住し、アメリカ合衆国が建国された。
彼には、そんな輝かしい面があるいっぽうで、多くの先住民を虐殺し、奴隷としてヨーロッパへ運んだというダークサイドがある。
そのことから、コロンブスを「奴隷貿易の父」と呼ぶ歴史家もいた。
そんな差別意識はその後も続き、19世紀のアメリカでは、白人は多くの先住民を動物のように殺害し、その土地を奪っていった。
次の言葉は、この時代の白人サイドの考え方をよく表している。
「良いインディアンとは、死んだインディアンのことだ」
「アメリカの発見の像」
連邦議会議事堂には1844年から1958年まで、この「アメリカの発見の像」が設置されていた。
この像では、コロンブスが地球儀を高く掲げ、インディアンの女性がうずくまり、畏敬の目でコロンブスを見る。
これは、知的・道徳的に劣ったインディアンに対する白人の勝利や優位性を表現している。
アメリカ独立宣言にも「非情で野蛮なインディアン」(merciless Indian savages)と書かれていて、この見方は当時では常識だった。
でも、現代のアメリカ社会では、こんな価値観や見方は激しく嫌悪され、全身全霊で否定される。
こんなことを言ったら、最悪の人種差別主義者として社会的に抹殺されてしまう。
20世紀の終わりごろから、アメリカ社会では人種差別を強く否定する風潮が広まり、コロンブスについても負の歴史がクローズアップされるようになる。
その流れの中で、彼を偉人や英雄ではなく、侵略者や殺戮者、文化の破壊者と見なし、彼より先にこの地を発見した先住民に注目するべきだと主張する人が増えていく。
2020年に黒人男性のジョージ・フロイドが殺害され、人種差別への批判が強まると、コロンブスが「敵」と認定され存在を否定された。
CNNニュース(2020.06.11)
全米で相次ぐコロンブス像の破壊、先住民虐殺の歴史に矛先
そもそも「インディアン」(インド人)という先住民の呼び方は、コロンブスのカン違いから生まれた差別的な表現だったから、批判が高まって「ネイティブ・アメリカン」と呼ばれるようになる。
でも、「いや、それよりも“ファーストネーション”の方が適切だ」と主張するアメリカ人もいれば、「いや、インディアンが正しい」と言う先住民出身のアメリカ人もいて、何が正解かよく分からない。
普通は「ネイティブ・アメリカン」でいいと思うが。
呼び方は置いといて、コロンブスがアメリカ先住民の部族を虐殺し、彼らの世界を破壊したことを考えると、コロンバス・デーを祝う気分にはなれない人もいる。
彼らは、ヨーロッパ人が先住民に与えた苦しみにこそ注目すべきだと主張する。
そんな声を受けて、現在ではハワイ、アラスカ、オレゴン、バーモント、サウスダコタ州などではコロンバス・デーを認めていない。
カリフォルニア州のバークレー市のように、視点を180度変えて、コロンバス・デーを先住民を記念したり、祝ったりする日に置き換えたところもある。
「Columbus Day」
そのいっぽう、ニューヨークやサンフランシスコでは、今でもコロンバス・デーを盛大に祝っている。
コロンブスはイタリア出身ということで、イタリア移民をルーツに持つ住民が多い地域では、コロンバス・デーの人気は高い。
知人のイタリア系アメリカ人は、コロンブス個人ではなく、彼の「アメリカ発見」という功績は記念するべきだと話す。
簡単に言うと、イタリア系アメリカ人はコロンバス・デーを大切に考えていて、先住民の子孫たちはこの日を嫌う。
その折衷案として、「コロンブス・デー/アメリカ先住民の日」と呼ぶ州もある。
ベトナム系アメリカ人に意見を聞くと、「コロンバス・デーには特に反対も賛成もしない。その日は私には関係ないから」と素っ気ない。
多様性あふれてるアメリカ社会には、さまざまな価値観や立場があるから、1つの問題に対して反対や賛成、異論反論が噴出してなかなかまとまらない。
1つ確実に言えることは、「良いインディアンとは、死んだインディアンのことだ」という白人の勝利や優位性はもう完全に崩壊した。
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