ブラジルは日本の反対側にあるから、マンガのように地面を掘り進めるとブラジルに到達するーー。
そう思う人がいるいかもしれないけど、それは沖縄など一部の地域だけだ。実際には、日本のほとんどはウルグアイに到達する。
日本では、この南国について「サンバ」や「サッカー」が盛んで、陽気で開放的なイメージがある。しかし、それもブラジルのごく一部で、知人の日系ブラジル人はそういう見方があまり好きではない。
これから、日本ではあまり知られていない「保守的な素顔」を紹介するので、ブラジルの全体像を正しく理解するための手がかりにしてほしい。
日本人がブラジルに抱くステレオタイプとは?
「日本人はブラジルに対してどんなイメージを持っているのか?」とAIに聞いたら、だいたいこんな答えが返ってきた。
・人びとはカーニバルが好きで、陽気で明るくノリがいい。
・開放的で、サンバでは露出の多い格好をする。
・サッカーが強い。
・アマゾンの密林など豊かな自然がある。
・世界的に有名なコーヒー大国。
・日系人が多い。
・治安が悪い。
この結果を知人の日系ブラジル人に見せて、意見を聞いてみた。
彼はブラジルで生まれ育ち、現地の大学を卒業したあと日本の大学院で学び、今は日本で働いている。
日本に10年近くいて、両国の事情をよく知っている彼からすると、上記のリストで同意できるのは「サッカーから治安」まで。
上位の2つ、「ノリがいい」と「開放的」には首をかしげてしまう。間違いではないけれど、日本ではこの面が強調されすぎているから、彼はそんなステレオタイプと接すると戸惑ってしまうという。
日本人の頭の中にあるイメージと違って、現実のブラジルは意外なほど保守的な面をもつ国なのだ。
文化の違いによる衝突:スキンシップと開放的なイメージ
日本とブラジルでは価値観が違うから、両者が同じ空間で生活すると、「文化の衝突」が発生することがある。
たとえば、浜松市の小学校で、転入してきた日系ブラジル人の子どもが、異性の同級生へあいさつとしてキスをしようとして、問題になった。
ブラジルでは親しい相手に頬へのキスをすることが珍しくない。ブラジル人の子どもも、両親が日常的にそうしているのを見て育ったから、同級生と仲良くしたいと思ってキスをしようとした。
しかし、彼に悪意はなくても、その行為は日本の文化に反するから、激しい拒否反応が起きて、その子がビックリしてしまった。
ブラジルはキスやハグなど身体的な接触をよくするし、カーニバルではきらびやかな衣装を身に着け、お尻を丸出しにしてダンスをするから、日本では「自由で開放的な国」と思われがちだ。
しかし、これは一面に過ぎず、実際のブラジル社会には「じゃない方の一面」もあるのだ。
偏ったイメージはどこから生まれたのか
日本人のブラジル像は、おもにテレビ報道やネットの記事や動画によって作られてきた。サッカーの強豪国としての活躍や国民の熱い反応、派手な祭りの映像は印象に残りやすい。
また、アマゾン川に生息するピラニアや巨大なヘビなど、日本にはない自然もよく話題にあげられる。
つまり、日本に伝わるブラジルの姿は「非日常の切り抜き」になりがちで、人びとの日常生活や社会の価値観はあまり伝えられていないのだ。
実は保守的なブラジル社会
ところが、日常生活の価値観を見ると、ブラジルは保守的な側面が強い。宗教的な道徳観が生活の基準になっていることも多い。
ブラジルではキリスト教を深く信じていて、結婚するまで性行為をしない若者も一定数いる。
以前、キリスト教の福音派の影響を受け、政府が10代の若者に性行為をさせないためのキャンペーンをしたこともある。
もし、日本政府が同じことをしたら?
首相が「結婚するまで童貞(処女)を守りましょう」なんて言い出したら、列島を揺るがす空前絶後の騒ぎになることは確実。
しかし、ブラジルではそれに賛同する人もいる。
英BBCの記事(2020年2月5日)の中で、ある女性が「性行為をする瞬間は、結婚という非常に重要な時に取っておくべきだと思う」と話している。
she says. “So I think you’re saving that moment for when you marry, when it’s very important.”
All in good time: Why Brazil wants its teens not to have sex
若者に早すぎる性行為を控えさせようとするキャンペーンの背景には、貧困層にいる10代の少女たちの早期妊娠が社会問題になっていたことがある。
日本では考えられない経済や教育の格差もブラジルを理解するキーワードだ。
こうしたことはブラジルでは一般的なことなのに、彼がその話をすると、「結婚するまで性行為をしないの?」と意外に感じる日本人がけっこういるらしい。
常識に驚くという現象は、日本人のブラジル理解が一面にかたよっていることを表している。
サンバのダンサーが露出の多い派手な格好をしていても、それは「性的に自由」と誤解してはいけない。
生活の土台となる宗教観と日本の「不道徳」
ブラジル社会で大多数を占めているのがキリスト教徒だ。
キリスト教は伝統的に、ブラジルの個人や家族のあり方、社会のルールに大きな影響を与えてきた。
今でも、結婚や出産、教育などに関して、道徳的(キリスト教的)な考え方が重視される傾向がある。
日本では宗教を意識しないで生活する人が多いが、ブラジルでは宗教が日常の価値判断の土台になっていることが多い。
日本に住んでいる知人から見ると、日本の社会はブラジルと違って「不道徳なものが堂々とある」という。
街なかのパチンコ店
日本では駅前や繁華街にパチンコ店が並ぶ光景は珍しくない。知人のアパートの近くにもパチンコ店があって、いつも駐車場が車でいっぱいだから、日本人のギャンブル好きには驚かされる。
「景品と交換するという手順が含まれているから、パチンコはギャンブルには当たらない」という、日本独自の三店方式の理論は彼には通じない。外国人に聞けば、きっとパチンコを「いや、あれはギャンブルだろ!」と言う。
ブラジルでは、キリスト教の影響からギャンブルは違法とされているから、パチンコ店のような施設はない。知人がいうには、もしブラジルでギャンブルがあるとしたら、高級ホテルで密かに行われている。
だから、パチンコ店が目立つ場所にある光景は、完全にブラジルの価値観や常識と反している。
街なかの風俗店
性風俗店もそうだ。
ブラジルでは、個人的に性行為をして金を得ることは合法だが、それは「裏社会」の存在で、人びとが普通に行き交う公共空間からは隠されているという。
日本ではパチンコも風俗店も合法的だから、街なかや駅前に大きな看板をかかげて普通に営業している。しかし、ブラジル人の彼にその光景は、違和感どころではなく衝撃的に映った。
彼は日本に10年近く住んでいて、驚くことも無くなったが、これには今でも慣れないでいる。
ブラジルでは「不道徳」と見なされ、人目を避けて存在するものが、日本では公共空間で堂々と宣伝をしている光景には配慮不足を感じ、どうも納得がいかない。
カーニバルは非日常!
ブラジルで行われるカーニバル、とくにリオのカーニバルは世界的に有名だ。しかし、あれは年に数日だけの特別なイベントで、普段のブラジル人の生活とは大きく異なる。
その非日常の場面だけを見て「ブラジル人は踊りが好きで、いつも派手に騒いでいる」と考えてはいけない。
彼はお祭り騒ぎが嫌いだから、カーニバルに参加しないで、その期間中は出前で頼んだピザを食べながら、ネットフリックスでドラマや映画を見て過ごしていた。
こんなブラジル人の日常生活は日本人と同じで退屈だから、日本のテレビやネットメディアが取り上げることはない。だから、「死角」になる。
直接ブラジルを体験することなく、派手で分かりやすい映像が繰り返し紹介されるから、断片的な情報がそのまま国全体のイメージになってしまう。
だから、現実のブラジルではキリスト教の宗教的な価値観が重視されていて、日本人以上に「貞操に厳しいブラジル人」の存在を知ると、意外に感じて驚くことになる。
ドイツ人の勘違い
日本でそんな体験をしたドイツ人もいる。
彼はドイツのテレビやネットで日本に関する番組を見て、「スーパーで四角いスイカが数万円で売られている」とか「メイドカフェでは派手なコスプレをした女性がユニークなサービスをする」といったことを知って、それが日本の全体像になった。
でも、実際に日本で生活するようになったら、スーパーではドイツと同じ丸いスイカが常識的な値段で売っているし、メイドカフェは例外的な店だと分かった。
彼は、日本をクレイジーな国だと思っていたら、実は「普通の国」と知ってガッカリしたという。
外国を正しく理解するために
日本の一部を切り取った情報を知って、それを「全体」と考えたら、期待を裏切られるのは当たり前だ。
しかし、日本人もブラジルに対して、同じような錯覚をしているかもしれない。「南国=自由で開放的」という単純な印象を持っている人は多いと思われる。
「自分の持っているイメージは、その国の一部の特徴だけで作られたもので、現実の社会はもっと複雑で多様だ」という前提で接したら、外国を正しく理解するようになるはず。
AIに日本語で「日本人はブラジルに対してどんなイメージを持っているのか?」と聞いて、「キリスト教の影響が強い」という答えが返ってきたら、知人は偏見と直面することが減り、日本に住みやすくなる。
参照:「Prostitution in Brazil」「Gambling in Brazil」

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