遅延証明書でわかる、日本人とアフリカ人の時間感覚・責任感の違い

映画「コイサンマン」の「神の贈り物」

1980年代に、世界的にヒットした映画「コイサンマン」はこんなふうに始まる。

アフリカの砂漠でほぼ裸の部族が、現代文明と切り離された生活をしていた。
ある日、その部族の男性が不思議なものを見つける。
それは、上空を飛行していた白人パイロットが捨てたコーラの瓶だった。

水を運ぶことができるし楽器にもなるから、部族の人たちはそれを「神の贈り物」と呼んで大切にした。
しかし、やがてその瓶をめぐって、集落の中で争いが発生するようになってしまい…、以下ネタバレ禁止。

The Gift from the Gods? – Hilarious Coke Bottle Scene

この映画を「ブッシュマン」と記憶している人もいるかもしれない。
「ブッシュマン」だと「藪(やぶ)で暮らす人」という差別的なニュアンスがあるから、「コイサンマン」に変更された。

白人のゴミをアフリカ人が「神の贈り物」とありがたがる内容も、今の人権感覚だと世界的に大炎上しそうだが、この時代は「OK」だった。

 

ナイジェリアの街なみ
ナイジェリアは西アフリカにある国で首都を「アブジャ」という。

目次

日本でナイジェリア人が見つけた「宝物」

A国の人間にとっては価値のないものでも、価値観や文化の違うB国の人間にとっては、プライスレス(かけがえのないもの)になることもある。

SNSを見ていたら、日本人ならゴミ箱に捨ててしまうようなものを、大切に保管しているナイジェリア人がいた。
その小さな紙は日本人の誠実さや強い責任感を象徴していて、それはナイジェリアに欠けているものだったから、彼は額に入れて部屋に飾っているという。

日本人にはまったく価値がないけれど、彼にとっては「宝物」になったものとはいったい何なのか。
その背景には、日本とナイジェリア(アフリカ)の社会や人の大きな違いがあった。

 

彼は東京に住んでいるナイジェリア人だ。
ある日、電車に乗っていたところ、日本語と英語でこんなアナウンスが聞こえてきた。

「本日も、〇〇線をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。ただいま、〇〇の影響により、約3分の遅れが発生しております。お客様には大変ご迷惑をおかけしておりますことを、深くお詫び申し上げます」

日本人なら右から左へ聞き流してしまうこの情報の中に、彼にとってはとても大きな衝撃と感激があった。
ナイジェリア人の常識からすると、公共交通機関が乗客に「ありがとうございます」と感謝の言葉を述べることはレアだから、まずその配慮や丁寧さに感動した。

それに彼の感覚では、3分の遅れは「定刻どおり」の範囲内で遅延にはあたらない。
ナイジェリア人なら誰も気にしないような、とても小さなことにお詫びをするところに、日本人の責任感の強さと仕事への誇りを感じ、彼は心から感心した。

ナイジェリアで同じことが起きても、公共交通機関が乗客に謝罪をすることは天地がひっくり返ってもあり得ない。

そして、本当に3分後に電車が動き出したから、日本人らしい正確さを感じた。
しかも、また遅れを詫びるアナウンスが流れた。

たった3分の遅れと「遅延証明書」

日本でこれは常識的なことだ。

数年前には、JR西日本の琵琶湖線で新快速列車が25秒早く発車するという“失敗”が起こり、公式ホームページで「お客様には大変ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません」と謝罪したことがあった。
このときも、外国人に大きな衝撃をあたえたことは言うまでもない。

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話を先ほどのナイジェリア人に戻すと、このあとも日本の丁寧さに驚かされた。

彼が目的の駅で降りると、ホームには駅員がいて、お辞儀をして乗客に紙を渡していた。
「なんだろう?」と興味本位で1枚もらって確認すると、それは電車が3分20秒遅れたことを証明する公式文書で、署名と印が押されていた。

彼はこのとき初めて、この世には「遅延証明書」というものがあることを知った。

これを勤務先に提出すれば、遅刻したのは自分の責任ではないことが認められ、「罰」を回避することができる。
ナイジェリアの会社で数分の遅れなら、上司も同僚も誰も気にしない。むしろ、それを謝罪するのはとんでもなく不自然だ。

日本人はまじめで責任感が強いから、たった3分の遅れでも重大な出来事としてとらえる。鉄道会社は時間どおりの運行を当然と考えているから、少しでも遅れたら謝罪し、客には遅延証明書を渡すことになっている。

ナイジェリア人の彼が日本で生活していて、とても快適で便利だと感じる理由は、こんなふうに、それぞれの日本人が責任とプライドをもって働いているからだと実感した。

この小さな遅延証明書は、日本人の強い責任感や誠意、真面目さを象徴している。
そう感じた彼はそれを捨てず、額に入れて部屋に飾ることにした。

それを見ると、世界のどこかには「3分」という時間を大切にする人たちがいる、ということを思い出させてくれるという。

「I kept the certificate. It’s framed in my apartment now. A reminder that somewhere in the world, people care about three minutes.」

ナイジェリア人の反応

彼の感想は、ナイジェリアでの生活をベースとしている。
日本人がその様子を想像することはほぼ不可能だ。

でも、ナイジェリア人のコメントを読めば、あちらの社会事情が見えてくる。それを内容ごとに分類して紹介しよう。
以下の話はアフリカ全体に通じる。
「遅延証明書」はアフリカ人の常識のはるか斜め上にある。

時間に対する意識と日本への驚き

・ナイジェリアでは、空港でさえ予定どおりフライトが離陸しない。私たちは日本のように細部にまで気を配る必要がある。

・以前、私と家族が東京駅に午前10時05分に着く新幹線に乗って、京都へ移動しようとしました。
10時に新幹線が来たので、私がそれに乗ろうと立ち上がりましたが、父が「それは別の新幹線だから、乗ってはいけない」と警告してくれました。

日本では1分単位で電車が正確に運行されるため、彼らが「午前10時05分」と言えば、それは本当に午前10時05分なのです。
遅れる場合は必ずアナウンスがあります。

・興奮しながら話を読みました。
私の生涯で、こんなことが起こるかどうか気になります。

・時間を大切にすれば、あなたの時間はいつも祝福され、人生でより良いことを達成できる。

・私たちが本当に必要としているのは、この時間厳守の感覚だ。
「アフリカ時間」を続けていれば、世界から取り残されてしまう。

・ことしの3月、日本の女性大臣がほんの少し遅れたために、まるでオリンピック選手のような勢いで、閣議がおこなわれる部屋へ走っていくのを見ました。
彼女の表情にはイラ立ちが表れていました。

※小野田紀美大臣が交通渋滞のために首相官邸に到着するのが遅れ、猛ダッシュしたが閣議に約5分遅れた。
閣議後、「本来あってはならないことで大変申し訳ない」と陳謝した。

ナイジェリアにおける時間意識の問題

・アフリカの政治指導者たちは、人びとを太陽の下で果てしなく待たせ続けるでしょう。
まるでイエスの再臨を待っているかのように、時間に対する敬意がまるでないのです。
わたしたちより発展している国では、必ず時間が尊重されています。

・ナイジェリアの列車は数時間遅れて到着します。
すると、乗客たちは神に感謝をささげます。なぜなら、時には列車が現れないからです。

・ナイジェリアの銀行に行きたくない理由が、まさにこれなんだ。
行員たちは、わたしたちが時間を使ってするべきことは何もないかのように、長々と待たせる。

・ナイジェリアで修理工を呼ぶとこうなる。

わたし:いつ来る?
修理工:30分以内に着くよ。
ー1時間後ー
わたし:今どこにいるの?
修理工:(家で服を着ながら)今、すぐ近くの通りを歩いているよ。こっちからあなたの家が見えるくらいだ。

・この国では時間に価値がない。
しかし、時間と資源に価値を見出さないかぎり、わたしたちは決して進歩しない。

インフラ・サービスへの不満

・私はアビジャンの空港で、19時間の遅延に直面したことがある。
謝罪は一切なく、受け取ったのはコーラとポテトチップスだけ。

・アフリカの航空会社はひどい。
フライトが5時間も遅れ、さらにその後5時間遅れて、夜になって説明もなしにフライトがキャンセルされた。

・空港での時間の無駄についてナイジェリア政府に苦情を言えば、彼らはきっとこう言います。
「おまえは政府に嫌がらせをするために、野党から送り込まれのだろう」と。

・ナイジェリアの停電にはうんざりする。
ここではもう3日目も電気が使えない。
1時間の停電を国家非常事態にするべきだ。

ヨーロッパとの比較

・ここベルギーでは、5分の遅れなんて言及すらされません。
毎日5分から10分、いやそれ以上の遅れがあります。
10両編成の列車を、1両が故障しているという理由で、3両に減らすこともあります。
わたしの乗る路線では常に乗客がたくさんいて、10両でも足りないというのに!

・日本で素晴らしいのは、電車の中も外もすごくきれいなところだ。
ここオランダでは、電車はまるで線路の上を走るゴミ収集車だよ。

日本社会への称賛と憧れ

・正直、次に生まれてきたら日本人になりたい。
ワールドカップのスタジアムで、彼らが喜びと幸せをもって掃除をしている様子を見てそう思った。

・それが日本の話ならわたしは驚きません。
彼らは規律と敬意に関しては最高のモデルです。

・死ぬ前に絶対に訪れなきゃいけない国のリストに、日本を追加したよ。

・日本に留学していたときのことを思い出した。
先生はいつも授業の前に教室にきていた。しかしある日、教室に彼の姿はなく、2分遅れて教室に駆け込んできた。
驚いたことに、彼はたった2分の遅刻を謝罪したんだ!

・新幹線の場合、遅延の基準は秒単位で、1分すら許されないんだって。
彼らはまったく別の世界に住んでいる。主よ我々をお導きください。

・この話で最も興味深いのは、「謝罪しなければならない」という点です。
これがサービス改善における本当のレバレッジだと私は思います。

レバリッジとは、小さな力で大きな効果(成果)を生み出すこと。

日本社会への批判的な見方

ナイジェリア人のコメントは、日本のシステムに対する驚きや称賛がほとんどだったが、少数ながら否定的な見方もあった。

・その時間厳守の文化を社会のあらゆるものに広げてみると、日本で彼らが大きな問題を抱えていることに気づきます。

・そのレベルの統制を人間にあてはめるのは、捕虜のように生きたり、ロボットのように動いたりするのと同じです。
日本人は退職した後、ようやく人生を楽しむようになるでしょう。

・人生では柔軟性を持ち、ものごとに固執しないことが重要です。
日本の硬直性は高いコストや摩擦を生み出します。

「ポレポレ」文化

ケニアやタンザニアなど東アフリカには「ポレポレ」の文化がある。
スワヒリ語の「Pole pole」は「ゆっくり、のんびり」という意味で、時間に縛られないアフリカ人らしい自由な生活を象徴している。

しかし、それに問題視するアフリカ人も多い。
そんな人にとっては、遅延証明書は「神の贈り物」ほどではなくても、額に入れて飾る価値はある。

 

 

アフリカ 「目次」 ①

外国人から見た不思議の国・日本 「目次」

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ドイツ、トルコ、ナイジェリア人の話:日本の桜・変わった食材

日本人と中国人:お互いに「ありえない」と思う食べ物あれこれ

アフリカから貧困がなくない理由 「国に貧しさが必要だから」

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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