英国人が見た明治の日本人
明治時代にイギリス人の女性旅行家・イザベラ・バードが来日し、北海道や東北など日本のさまざまな場所に足を運んだ。
その経験から、彼女は日本人について「ほかの国の人間とは違うゾ」と感じた。
外国の女性が一人旅をすれば、無礼や侮辱を受けたり、ボッタクられたりすることは珍しくない。しかし、彼女は日本で一度も失礼な目にあうこともなければ、不当な料金を請求されたこともなかったという。
多くの日本人と出会い、その気質にふれてバードはこう評価した。
「お互いに親切であり、礼儀正しい。それは見ていてもたいへん気持ちがよい」
日本人の本質は変わらない。
21世紀の現代でも、外国人が日本へ来るとバードと同じ感想をもつことが多く、「親切&礼儀正しい」は日本人を表すキーワードになっている。
しかし、日本人が怒らないということは決してない。
一定の限界を超えると一気に爆発し、外国人をア然とさせることがある。
外国人が経験した衝撃的な体験
SNSを見ていると、日本に住んでいる外国人男性が新幹線の中で、次のような経験をしたことで全身が硬直し、心臓だけが激しく動いたと報告していた。
「It was the first time anyone had ever screamed at me like that, and the shock of it cut right through me.」
(あんなふうに誰かに怒鳴られたのは初めてで、その衝撃はまっすぐ私の心に突き刺さりました。)
こうなった原因は彼の「ミス」にある。
新幹線にある「特大荷物スペース」を使うには、事前にその座席を予約しないといけない。しかし、彼はそのルールを知らず、近くにいた日本人に確認したうえで大きなスーツケースを置いた。
しばらくすると、そこを予約した日本人女性がやって来て、大声で彼を怒鳴りつけた。
そのとき不幸にも、「OK」を出した日本人の乗客はすでに目的地で降りてしまっていた。
「特大荷物スペース」には英語の注意書きがあったはずだが、この外国人は気づかなかったらしい。悪意はなく、本当に知らなくて失敗してしまったようだ。
そのとき彼には正確な事情がわからず、目の前で叫び声を上げている女性を見て頭が真っ白になり、謝ることもできなかった。
その態度が女性をさらに熱くさせたのかもしれない。
彼は全身の力を失い、空虚な心のまま新幹線を降りた。
その後、ネットで調べて自分がおかした間違いに気づき、もうそんな経験をする外国人が現れないように、つらく悲しい経験をシェアすることにしたという。
「怒鳴る」ことを嫌う外国人
この投稿に対して、外国人からは、「次は荷物を宅急便で送ればいいよ。面倒も減るし怒鳴られないから」といったアドバイスが多く寄せられた。
ほかにも次のように、日本人女性の態度に嫌悪感を抱く人も多かった。
・怒鳴る必要はありません。単に間違いを指摘すればよかっただけです。その女性には問題があったように思えます。
・日本人があなたに怒鳴ったなんて信じられない。どんなに不快でも、彼らは本来まったく怒鳴らないのに。
・もし、オーストラリアの列車で同じことが起きたら、地元の人が外国人観光客に怒鳴ることはないと思います。まったくその必要はありません。
・私なら、その女性にこう言い返しますね。
「スペースを使ってしまってごめんなさい。観光客でルールを知らなかったんです。でも怒鳴る必要はありません。それは失礼です」と。
「突然キレる」日本人に戸惑う外国人
なぜその日本人女性は「指摘する」という段階を抜いて、いきなり外国人に「怒鳴りつけた」のか。
外国人は日本人に対して、「静かで礼儀正しい人たち」と好意的に評価していることが多い。
だからこそ、日本人が急に怒り出すとその善良なイメージが崩れ、ワケがわからず戸惑うことになる。
「突然キレる日本人」については、日本人でも思い当たる場面があると思う。
カンボジア人ガイド「日本人は“風船”と思え」
以前カンボジアを旅行中、日本語ガイドに、日本人とカンボジア人の性格や行動の違いについて話を聞いていると、彼は日本人を「風船」と表現した。
彼はツアーをはじめる時、お客さんに向かって「不満があったら、遠慮なく私に言ってください」と言う。
日本人は何も言わないから、彼はみんなツアーに満足していると考えて、密かに「自分には才能がある」と思い込んでいた。
もちろん、これは不幸フラグだ。
しかし、ある日いきなりお客さんが怒り出して、数日分の不満を一気に吐き出すから、彼は言葉を失ってしまった。
彼もまた「その衝撃はまっすぐ私の心に突き刺さった」という気分だっただろう。
後で先輩ガイドに事情を話すと、こんな話を聞かされた。
「それが日本人なんだ。彼らは私たちと違って、不満や怒りを感じてもため込んでしまう。そして、小さなきっかけで限界点を超えると、いきなり爆発する。日本人は突然『バン!』と割れる風船と同じだ」
日本人は怒りを感じないのではなく、何も言わずに我慢するから、日本語ガイドなら“空気”を読まないといけない。小さな変化に気づいて、自分たちが「ガス抜き」をする必要があると先輩にアドバイスをされた。
ほかのガイドに聞いても、欧米人や中国人などは怒りや不満をその場で吐き出すから、日本人みたいに「豹変」することはない。
この怒り方は日本人に特徴的だから、カンボジアの日本語ガイドはその現象を「風船」と呼んでいたという。
日本人は初対面の人に注意することが苦手(下手)で、良くも悪くも忍耐強いから、ギリギリまで我慢を重ねる傾向がある。
そして限界を超えた瞬間、「怒り」という名の巨大ダムが決壊し、外国人が圧倒されることがある。
日本に住んでいる欧米人や東南アジアの人たち、アフリカ人などに聞いても、彼らは「その場ですぐに意見を言って解決する」スタイルで、日本人のような「風船型」にはストレスを感じる人が多い。
日本に住むインド人女性が驚いたこと
日本に住んでいた知人のインド人女性も「いきなりキレる日本人」と出会い、恐怖を感じた経験がある。
彼女はパーティーが好きで、週末になると友人を呼んでご飯を食べたり、おしゃべりをしたりしていた。
でも、ここは日本だから、周囲の人の迷惑にならないように、話し声は小さく、控えめに楽しんでいた。
それにもかかわらず、ある日彼女が仕事から戻ると、アパートのドアに「声がうるさい! しずかにしろ!」と大きな文字で書かれた張り紙が貼ってあって、彼女はショックを受けた。
彼女の感覚だと、インド人ならドアをノックして「少し声が大きいですよ」と注意して、こんな正体不明のモヤモヤしたやり方をしない。
我慢に我慢を重ねる前に、ひとこと言ってくれれば、「すみません」と言って終わることだった。
彼女はそれまでの経験から、日本人は直接的なコミュニケーションを嫌い、間接的で遠回りに伝えようとすることは分かっていたが、いきなり警告文を貼るやり方はまったく想像できなかった。
まさに「インド人もビックリ」だ。
新幹線で外国人に怒鳴って「フリーズ」させた女性も、原因は彼女の個人的な性格よりも、今まで外国人の迷惑行為を経験したりSNSで見たりして、怒りを蓄積させていた結果である可能性のほうが高いと思われる。
何の前提(積み重ね)もなく、外国人をいきなり怒鳴りつける日本人は、「この外国人は前世で何をしたんだ?」と思ってしまうほどのレアケース。
ほかにも、親しく付き合っていた日本人から、急に連絡がなくなって戸惑うバングラデシュ人やトルコ人もいた。
彼らはそう「思っていた」だけで、きっと大切なことが見えていなかった。
日本人が「風船」のように溜め込んで爆発する3つの理由
日本人が「風船」のように、ため込んで一気に爆発する理由には次の3つが考えられる。
① 「和」を重んじる伝統
飛鳥時代、聖徳太子は『憲法十七条』で、
「和を以て貴しとなす、忤(さから)うことなきを宗(むね)とせよ」
と定めた。
これは日本の伝統的な精神となってその後も受け継がれ、明治時代の『五箇条の御誓文』の第一条でも「広く会議を興し、万機公論に決すべし」と話し合いが重視されている。
そんな伝統から現代の日本人も、個人の主張よりも集団の調和を優先しようとする傾向が強い。
だから、直接的なクレームや抗議をして「和」を乱すことを避けたがる。
その結果、外国人ならその場で注意して解決するようなことでも、ついつい我慢してしまい、限界を突破した瞬間、突然“キレ”てしまう。
② ハイコンテクストな文化
日本人は言葉にしないで、文脈や態度で意図を伝えようとすることが多い。
それを「ハイコンテクスト文化」という。
相手に直接文句を言う代わりに、少し迷惑そうな顔をしたり、遠回しな言い方をしたりすることで、相手に「気づいてほしい」と無言の要求をしているのだ。
日本はそんなハイコンテクストな文化や社会であるのに対し、海外では、言葉にしてハッキリ伝えるローコンテクスト文化の国が多い。
もちろん、これは特徴で上下優劣はない。
個人的な経験では、カナダ人やタイ人は「察する文化」がわりと通用するが、アメリカ人やインド人、韓国人には微妙なサインが伝わりにくい。
後者の3つはローコンテクスト文化の国だから、「日本人が本当は何を考えているのかよく分からん!」とストレスを感じる人がよくいる。

③「自制心」が重視される教育
今年の冬、東京ドームで野球の国際試合が行われ、中継で日本の幼稚園児が会場で観戦していた様子が全世界に放送された。
みんな席に座って応援している姿を見て、多くの外国人が「信じられないほど行儀が良い…」と驚いた。

日本の学校では昔から、「クラス全体の調和」や「みんなが同じペースで進む」といったことが重視され、秩序を保つ存在として先生がいた。
こうした価値観が強い環境にいたら、自分の意見を強く主張しないで周囲に合わせたり、感情を表に出したりしないで、コントロールする力が自然と身につく。
だから、日本では普通の幼稚園児の行動さえ、外国人には「奇跡」のように見え、自制心の高さに感心することになる。
知人のタイ人女性がアメリカに移住して、教育の違いを実感した。
子どもの授業参観をしたとき、先生が小学3年生に「あなたの言葉で言いなさい」と伝え、子どもたちが「わたしはあなたの意見に賛成できません。なぜなら〜」と言うのを見て、心から驚いた。
タイの教育では、先生の言うことに従うことが素直な態度で「美徳」とされ、「逆らう」ことは認められないという。
日本もこの教育観に近い。
最近は日本でも西洋式の教育を採用し、ディスカッションやアクティブラーニングなど自分で考え行動する活動が重視されるようになった。が、それでも小学生が先生に「わたしの意見はあなたとは違います」と言うことはない。
もともと日本では、おおぜいの人に自分の意見を伝える習慣がなかった。
明治時代、福沢諭吉が欧米の文化を学び、これからの日本人にはその能力が必要だと考え、「Speech」を「演説」と訳しこの概念を広めたのだ。

「スタート」が遅かったせいか、欧米人に比べて日本人は今でも、自分の考えや気持ちをはっきり伝えることが苦手だ。
ちなみに、韓国人は友人など対等な立場だとストレートにものを言うけれど、先生や先輩など目上の人には自己主張をおさえる傾向がある。
個人的には自我が強いけれど、社会的には抑圧が多いから、強度のストレスを感じやすい。それが自殺率の高さにつながっていると思う。
まとめ:礼儀正しい日本人が“豹変”する理由
ということで、日本の伝統や文化、教育によって自分の気持ちや考えを外に出さず、内にため込めがちになった。
そして、いきなり怒り出す「風船メンタル」が形成された。
外国人にとって日本人は、お互いに親切であり、礼儀正しく、それは見ていてたいへん気持ちがよいが、突然噴火することがあるから要注意だ。

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