八田與一と台湾での評価
きのう5月8日は八田與一(1886~1942年)の命日だった。
日本統治時代、八田は台湾に巨大なダムを建設し、人びとの生活を豊かにしたことで、今でも現地では「恩人」として尊敬されている。

毎年5月8日になると、八田の像がある台南市で慰霊祭が開かれている。
きのうは頼清徳総統が出席し、八田について「日本人であり台湾人でもある」と話し、日本と台湾のきずなの深さを強調した。
台湾と韓国、日本統治への評価の違い
さてここからの話は、日本のもうひとりの隣人である韓国だ。
韓国も台湾と同じように、日本に統治された歴史をもっている。
しかし台湾と決定的に違うのは、韓国ではあの期間を肯定的に評価することが事実上「禁止」されているという点だ。
法的には「言論の自由」が認められているから、そう主張することはできるが、それは国民感情に反するため、「国民情緒法」という見えない罪に問われることになる。
たとえば、大学教授の朴裕河(パク・ユハ)氏が韓国社会で定説とされる「慰安婦の強制連行」説を否定したところ、とんでもないことが起きた。
世間は彼女を「売国奴」とののしり、裁判所は有罪判決を下し、大学は給料を差し押さえた。

朝鮮日報の記者は朴氏へのバッシングを「全体主義的暴力」と表現し、韓国社会で「親日」のレッテルが貼られると「生き埋め」にされると指摘した。
韓国の歴史認識では、日本統治時代は「全面悪」とされているため、たとえ部分的にでも肯定的に評価すると激しく叩かれてしまう。
しかし、台湾における「八田與一」のように、韓国で高く評価される日本人も例外的に存在する。

朝鮮の民族衣装(たぶん)を着た布施辰治(ふせたつじ:1880年 – 1953年)
韓国で評価される日本人・布施辰治
以前、『オーマイニュース』(OhmyNews)にこんな記事があった(2014.01.27)。
조선인의 벗, 일본인 변호사 후세 다쓰지를 아시나요?
(朝鮮人の友、日本人弁護士・布施辰治をご存じですか?)
今の日本で、布施辰治を知っている人がどれだけいるのだろう。
彼は宮城県出身の弁護士で、日本人として初めて大韓民国建国勲章を受章した人物だ。
朝鮮人を弁護した活動と朴烈事件
統治時代、布施は日本政府の朝鮮政策を批判し、多くの朝鮮人を弁護したことで知られている。
とくに有名なのが1923年の「朴烈事件」だ。
朴烈(パク・ヨル)は大正天皇と皇太子(後の昭和天皇)を殺害しようとしていたと供述し、大逆罪で告発され、1926年に死刑判決が下された。
しかし、天皇の意向により、後に無期懲役へ減刑された。
この際、朴の弁護を務めたのが布施だ。
それにしても、暗殺しようとしていた相手から恩赦を受けるというのは、朴にとっては屈辱的だったのでは?
朴は民団(在日本大韓民国民団)の初代団長を務めたあと韓国に帰国したが、朝鮮戦争で捕虜となって北朝鮮に連行され、そこで処刑されたと言われている。
また、布施は「朝鮮青年独立団」の青年の弁護も担当した。
1919年2月8日、東京で朝鮮人留学生が「二・八独立宣言」を発表し、これが3週間後に朝鮮で起きた大規模な独立運動(三・一運動)につながった。
現在の韓国憲法には、「3・1運動で建立された大韓民国臨時政府の法統を継承する」と明記され、この運動は建国精神のひとつとされている。
しかしこの時代に、植民地で独立宣言を叫べば違法行為として扱われるのは、当時の世界では珍しいことではなかった。
その裁判で布施辰治は朝鮮人学生を全力で弁護した。
そのため、朝鮮人は誇りをもって「朝鮮人の友」「私たちの弁護士」と呼んだという。
ちなみに、朴の妻で大逆罪で起訴され、死刑判決を受けた金子文子も現代の韓国では高く評価されていて、2018年に大韓民国建国勲章(愛国章)が贈られた。
金子も天皇の慈悲を受け、無期懲役に減刑された。
韓国での評価と日韓関係
オーマイニュースでは、布施は日本の植民地主義を批判し、朝鮮の独立運動を擁護したと好意的に書かれている。
ただし、これは韓国側の「願望」も含まれた見方だと思われる。
布施がポツダム宣言を受け入れた昭和天皇に感激し、1946年に皇居前広場で感謝集会を開いたことは、韓国ではきっと知られていない。
ほかの韓国メディアの記事を見ても、「日帝が犯した蛮行を決して忘れてはならないが、良心的な日本人もいた事実は知らなくてはいけない」として布施は高く評価されている。
そうであるなら、台湾における八田與一のように、布施辰治の命日には韓国でも大々的に慰霊祭が開かれ、あの時代に「朝鮮人の友」がいたことを国民に広く知らせればいい。
もし、大統領が「日本人であり韓国人でもある」と語るようなことがあれば、日韓関係にも良い影響を与える。
韓国の記者も懸念した「全体主義的暴力」をおさえることになるかもしれない。
それは無理だとしても、韓国で毎年3月1日に行われる独立運動の記念式典で、さりげなく言及してくれると日本人としては嬉しい。

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