日本と中国では毎日さまざまなイベントが開かれているから、告知の日はどちらにもある。
しかし、中国にあって日本にないのが「国恥の日」だ。
歴史的な恥を記念するという文化や価値観は、日本にはない。
なぜ中国は、過去の敗戦や不平等条約を「国の恥」としてわざわざ記念日にし、強く意識し続けるのか?
その理由を数人の中国人に聞いてみると、「歴史の継承」「国民の団結」そして「共産党の正当化」という3つの大きな目的が見えてきた。
これを日本の考え方に当てはめてみると、共通しているのは「歴史の継承」くらいしかない。
日本に「国恥日」という文化がない理由もよく分かる。
中国が「国恥日」に過剰反応する背景
中国は過去に受けた「国の恥」を決して忘れないーー。
3週間ほど前、そのことをあらためて感じさせる出来事があった。
4月17日、日本の海上自衛隊の護衛艦が台湾海峡を通過した。
国際法上は問題がなかったにもかかわらず、中国メディアは「意図的な挑発である」と強く非難した。
これは共産党からのメッセージと考えて間違いない。
海上自衛隊の艦艇はこれまでも台湾海峡を通ったことがあり、そのたびに中国側は抗議してきたが、今回は反発のレベルが違った。
ほとんどの日本人は気づかないだろうが、中国がここまで強く反発した理由は、「4月17日」が国恥日のひとつだったからだろう。
1894年にはじまった日清戦争で日本が勝利し、翌年のこの日に講和条約である「下関条約」が結ばれ、清は日本へ台湾を割譲することを認めた。
中国にとって4月17日は、自国の領土を奪われた「国恥」の記憶と直結しているのだ。
そのため軍の機関紙は、「(日本が)あえてこの日を選び、中国人民の感情を深く傷つけた」と怒りをにじませ、日本の「新型軍国主義」を強調した。
中国側の視点からすると、この日に日本の自衛艦が台湾海峡を通ることは、「歴史的な傷をわざとえぐる行為」として映る。
実際には「偶然」で、日本(海上自衛隊)側は「へ〜、下関条約って4月17日だったのか」と思っただけかもしれないが。
中国のカレンダーにはほかにも、5月4日や6月5日、7月7日などさまざま「国恥の日」がある。

中国人と交流のある人なら、この国恥日を覚えておいて損はない。
中国でビジネスをしている日本企業なら、この日が近づくと「反日感情」が高まりやすくなるため、絶対に知っておくべきだ。
実際、2021年にソニーが中国で7月7日に商品発表会をおこなうと告知したところ、この日は1937年に盧溝橋事件が起きた「国恥日」だったため、批判が殺到する事態となった。

中国が「国恥日」を制定し、教育で強調する3つの理由
日本でも8月15日の終戦記念日など、過去の敗戦や悲惨な出来事を「慰霊」や「平和への祈り」として記憶にとどめることはある。
しかし、「国の恥」を記念日として定め、国を挙げて忘れないようにする文化はない。
過去の歴史を「恥」としてナショナリズムと結びつける教育もしない。
中国が「国恥」を強く意識する理由について、中国人に聞いたりして調べてみると、3つの大きな理由が見えてきた。
理由1:悲惨な歴史を語り継ぎ、二度と繰り返さないため
最も基本的な理由は、歴史の教訓として「不幸な出来事を二度と繰り返さないため」だ。
19世紀半ばのアヘン戦争以降、中国は欧米列強や日本の侵略によって国土を蹂躙(じゅうりん)され、数々の不平等条約を結ばされた。
いわゆる「屈辱の100年」だ。
中国には「落後すれば殴られる」ということばがある。
「他人に遅れをとれば、容赦なくいじめられる」といった意味だ。
これをスローガンにし、「国が弱ければ再び侵略される」という危機感を国民に植え付け、徹底した“国恥教育”をおこなって国防意識を高めている。
そのために年に数回の「国恥日」を定め、記念行事をすることはとても有効なのだ。

三方ヶ原の戦いで負けた直後の徳川家康。
このときの恥辱や困難を一生忘れないように、あえてしかめっ面の「ブサイク」な顔を描かせたという。
中国が国恥日を定めた理由もこの感覚に近い。
理由2:愛国心を高め、広大な国の国民をまとめるため
日本では、「日本国民統合の象徴」である天皇が国民をまとめている。
知り合いの外国人に「国をまとめる象徴は何か?」と聞いたところ、アメリカ人からは「戦争」、インド人からは「独立記念日」という答えが返ってきた。
そして、中国人が挙げたのは「国恥日」だった。
中国は人口「世界一」の座をインドに譲ったものの、それでも14億人もの人口を抱え、56の民族が存在し、経済格差の拡大が深刻な社会問題になっている。
そんな巨大で複雑な国を一つにまとめるには、「愛国心」を刺激することが効果的だ。
「過去に外国から受けた屈辱」という悔しさを共有することで、人民を団結させることができる。
学校では意図的に国民がそう感じるような教育を行なっているため、広大で多様な国民を一つにまとめる手段として非常に有効に機能している。
1994年の『愛国主義教育実施綱要』にも、愛国主義について「中国人民を動員し鼓舞して団結奮闘する一つの旗印」であり、「各民族人民の共同の精神支柱である」と明記されている(中華人民共和国の愛国主義教育)。
ただし、知人の中国人の場合は国恥の日になっても、日本への敵意や憎悪を感じることはない。
「弱い国が屈辱を受けるのは当然。だから、中国を今よりもっと強大な国にしていく」という思いを新たにするだけだという。
この発想の根底にあるのも「落後すれば殴られる」の考え方だ。
ということは、日本が弱体化すれば、容赦なく中国に殴られることになるのだろう。
理由3:現在の中国共産党体制を正当化するため
そして3つ目の理由はとても中国らしいもので、「共産党の支配を正当化するため」だ。
「国恥教育」では、過去と現在を意図的に対比させているという。
19世紀の終わりから20世紀のはじめにかけて、弱々しい清朝や中華民国は強大な欧米や日本の列強に対してほとんど抵抗できず、領土を奪われるなどいいようにやられてしまった。
しかし、共産党が外敵を打ち破り、国家に自由と独立をもたらした。
共産党政府が、以前の政府がおかした失態(国恥)を打ち消し、経済的・軍事的な繁栄を実現させたのだ。
現在の体制(中国共産党)は、そんな鮮やかな「ビフォー・アフター」を描くことで自身の立場を正当化し、権力基盤を強めている。
その考え方に立てば、「国恥」を強調すればするほど共産党の偉大さが際立ち、国民に強くアピールすることができるのだ。
まとめ:中国が「国恥」を忘れない理由
中国が「国恥の日」を設けることには、以下の3つの理由があった。
歴史の教訓: 弱かった過去の悲劇を二度と繰り返さないため
国民の団結: 共通の怒りや悔しさで愛国心を高め、14億の人民をまとめるため
体制の正当化: 「共産党がどん底にあった中国を救った」とアピールするため
日本の文化や価値観にあるのは「歴史の教訓」くらいなものだ。
政府が国民をまとめ、現在の体制を維持するという戦略的で合理的な目的で特定の記念日をつくり、他国を激しく非難することはない。
日本に「国恥の日」は必要ないが、中国共産党にとっては不可欠なシステムだ。

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