日本に住むパキスタン人の増加と「イミズスタン」
最近、パキスタンからやってくる人が増えていて、いま日本には2〜3万人のパキスタン人が住んでいる。
日本とは文化や価値観が違うから、トラブルが発生することもあるけれど、異文化を「強み」に変えるところもある。
たとえば、富山県射水市には大きなパキスタン人コミュニティがあって、「イミズスタン」とも呼ばれるほどだ。
ここでは本場のカレーを食べられるから、「カレーフェア」が開催されたこともある。
※「スタン」とは「~の土地・国」という意味のペルシャ語で、たとえばウズベキスタンは「ウズベク人の国」という意味になる。
日本の大学に通っている知人もそんな在日パキスタン人の一人。
彼は20代の男性で、日本にはもう1年半ほど住んでいる。
ここでは彼を「アリ」と呼ぶことにして、これからアリさんに日本で気に入ったことを紹介してもらおう。
日本のここが好き①:「静かな空間」
ーーアリは日本の文化のどんなところに、パキスタンとの違いを感じた?
アリ:日本で生活するようになって、「とても静かな国だな」ということを強く感じましたね。
ーーパキスタンには10年以上前に行ったことがある。
たしかにパキスタンの街はめっちゃにぎやかで、「静かなところは墓場だけでは?」って思った。
アリ:それは言い過ぎ。
でも、私が住んでいたラホールは、車のクラクション、話し声、音楽なんかが聞こえてきて、とても活動的なのは確かですね。
それが日本に来ると、たくさんの人がいて車が動いているのに、「音」があまり聞こえてきません。
映画のシーンみたいな感じがして、パキスタンとのギャップが印象的でした。
※パキスタン(ラホール)の日常。
「Insane Traffic of Lahore City – Pakistan」
ーー静岡の地方都市に住んでいた台湾人も、そんなことを言っていた。
台湾では夜市が開いていて、深夜まで人の声やバイクが走る音が聞こえてくるのに、日本では午後7時になると街が静まりかえる。
だから、最初は落ち着なかったんだって。
アリ:そうなんですか、それには私も同感です。
台湾には行ったことがありませんが、ラホールと似ているかもしれません。
今は日本の静かな環境に慣れたので、とても快適に感じています。
日本のここが好き②:きれいな空気
ーーアリが日本に住んでいて、「ここはポイントが高い!」って思うことはある?
アリ:毎日、新鮮な空気を吸えることです。しかも冬に!
私が住んでいたラホールは、空気の質が本当に悪いのでこんなことは考えられません。
ーーインド北部に住んでいた人も、日本に来てそこに感激していた。
大気汚染の苦しみから解放されて、もうインドに戻りたくないって思ったらしい。
アリ:それ、すっごく分かります。
空気の質は「快適/不快」というレベルを超えて、人間の命にかかわる重要な問題ですから。
残念なことに、「大気汚染が激しい国ランキング」でパキスタンはいつもワースト5位に入っています。
ーーパキスタンとインドは3回も戦争をして、関係はとても悪いけど、その点では「友人」だよな。
デリーは「世界でもっとも大気汚染の激しい首都」に選ばれたこともあると、デリー出身のインド人が言ってた。
冬になると、大気中の「PM2.5」の量が世界保健機関の定める基準の20倍にもなるんだった。
アリ:ラホールもそんな感じです。
ひどいときは、近くにいる人の顔がかすんでよく見えなくなります。
ーー顔がハッキリ見えなくなるんだ。
(それでホッとする人もいたりして。)
※「PM2.5」を吸い込むと肺や血管にまで入り込み、脳卒中や肺がん、心筋梗塞などを引き起こすと言われている。

インド北部で撮った一枚。
大気汚染のせいで、背景が蜃気楼のようにかすんでいる。
ーー大気汚染が冬にひどくなることには、どんな理由があるんだ?
アリ:古い自動車の排気ガスや工場から出る煙のせいで、パキスタンでは一年中、大気汚染に悩まされています。
さらに冬になると、農家の人たちが収穫が終わった畑で「野焼き」をするんですよ。
ーー日本では、冬のほうが空気がきれいになるから、イルミネーションが冬の風物詩になっている。
パキスタンとは逆だな。
アリ:パキスタンのいちばん大きな問題は、環境保護に対する人びとの意識がとても薄いことですね。
私は日本に来て、生まれて初めて「きれいな冬」を体験したので感動しました。
日本の空の写真を撮って見せると、みんな「うらやましい…」って言います。
ーー日本の空気にはそんなに高い価値があったのか。

愛知県の魚市場で見たメガ盛りの「シラス丼」
欧米の食文化では「生卵と魚の目」に馴染みがないから、シラス丼に高いハードルを感じる人もいる。

日本のここが好き③:から揚げと食文化
ーー日本は空気だけじゃなくて、食も美味しい。
ミシュランガイドの「星」の数が、世界でいちばん多い都市は東京なんだ。
アリが日本で気に入った食べ物はある?
アリ:私はイスラム教徒で豚肉とアルコールはNGなので、日本で食べられるものは限られてきます。
ーー知ってる。
「ふかひれスープ」もダメというのは完全に死角だったけど。

アリ:サメはダメですね〜。
私が日本で好きになったのは「から揚げ」です。
近くにローソンがあるので、必要がないのに「からあげクン」を買ってしまいます。
ーーそうなんだ、アリもあのトラップに引っかかるのか。
それにしても、また「から揚げ」か。
日本でこのスナックにハマる外国人は本当に多いな。
アリ:から揚げより美味しい食べ物はあります。でも、から揚げは安いので、今のところいちばん好きです。
世界でもっとも売れた「揚げたてからあげ」として、「からあげクン」がギネス世界記録に認められたのも納得です。
ーーすごいニッチな情報を知ってるな。
アリがそれだけ「からあげクン」のファンになったのは、宗教のハードルを越えたことだけが理由じゃないだろ?
※すべてのイスラム教徒が日本のから揚げを食べられるわけではない。
アリ:もちろんです。
パキスタンの人たちは基本的に「揚げ物LOVERS」なんです。
サモサやパコラは代表的なストリートフードで、私も子どものころから食べてきたので、あのサクサクの食感には親しみを感じます。
※サモサはコロッケ、パコラは天ぷらみたいな、安くて手軽な食べ物。
※サモサはコロッケ、パコラは天ぷらみたいな、安くて手軽な食べ物。
ーーなるほど。
「宗教的にOK、食感に慣れている、安くて美味しい」という理由でから揚げがナンバーワンだと。
それはほかの外国人も同じだろうな。

ーーところで牛丼はどう?
あるドイツ人は、「薄い肉を食べたことがない」という理由で牛丼のファンになった。

アリ:牛丼ですか。
美味しいと思いますけど、ファンになるほどではないです。
ーーパキスタン料理に「薄い肉」ってある?
アリ:薄い肉ですか…、思い当たりませんね。
パキスタンの食文化では、『肉が厚いこと』がサービスになっているので、あんなにお肉を薄く切ることはないと思います。
ーーそのあたりの「肉の食文化」は欧米と同じだな。
日本や中国の「箸と鍋の文化」とは違う。

パキスタンでも大人気の「タンドリーチキン」。
この肉の塊を箸で食べるのはむずかしい。
ということで、日本についてアリが魅力的に感じたのは、「静かな空間」「きれいな冬の空気」「から揚げ」の3つだった。
これは、パキスタンと環境や文化的に似ているインドやバングラデシュ人にもきっと当てはまる。

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