これから、日本に住むパキスタン人から聞いた「生の声」をもとに、島国の日本では想像しにくい「陸続きの国境」が抱える現実について解説していこう。
今回の記事では、パキスタンとアフガニスタンが対立する理由について、以下の3つを取り上げた。
① テロ組織の越境と支援疑惑: アフガニスタン側が反パキスタン武装組織の拠点となり、過激派が国境を越えてテロを起こしているから。
② 防ぐことが不可能な「山岳地帯の国境」: 約2640kmに及ぶ国境「デュアランド・ライン」は険しい山々にあり、人の移動や侵入を物理的に遮断できないから。
③ 分断された民族の存在: 19世紀にイギリスが勝手に引いた国境線によって「パシュトゥーン人」が両国に分断され、国籍よりも民族のつながりが優先されてしまうから。

パキスタンの子ども
パキスタンとアフガニスタンの衝突と複雑な中東情勢
10日ほど前、パキスタンが隣国のアフガニスタンを空爆し、アフガニスタンも報復攻撃を開始し、戦争状態になった。
状況は日々変わっているので、最新情報は英語版ウィキペディアで確認してほしい(2026 Afghanistan–Pakistan war)。
この戦争は今も続いているのに、今度はイランとアメリカ&イスラエルとの間でも戦争が始まってしまった。世界はどうなってしまうのか。
パキスタンとアフガニスタンの衝突を知って、「同じイスラム教の国同士なのに、なぜ争うのだろう」「中東の事情は複雑でよく分からない」と感じた人も多いだろう。
じつは、この両国が対立する背景には、単なる宗教や政治の問題だけではなく、「地理」と「歴史」が深くからみ合っているのだ。
パキスタン人に聞くと、それを理解するキーワードは「陸続きの国境(デュアランド・ライン)」だ。
なぜパキスタンとアフガニスタンは関係が悪いのか
パキスタンは東隣のインドと関係が悪く、北隣の中国とは仲が良い。
パキスタンはイスラム教を国教とする国で、1947年にイギリスから独立して以来、ヒンドゥー教徒が主流のインドとの仲は険悪で、戦後に3回も戦争をした。
一方、「敵の敵は友だち」理論で、同じくインドを「仮想敵国」とする中国とは仲が良い。
そんなパキスタンの情勢は知っていたけれど、西隣は「死角」だった。
だから、3ヶ月ほど前に、日本に住む2人のパキスタン人と話をしているとき、アフガニスタンとの関係もかなり悪いと知って、意外に思った。
同じイスラム教を信じていて、「スタン系」の国なのになぜ関係は悪いのか。
彼らはため息混じりに、日本についてこんなことを言った。
「日本が安心な国なのは、海に囲まれているからですよ。私たちから見たら、それはとてもうらやましい。」
今回の武力衝突のニュースを聞いて、パキスタンとアフガニスタンが対立関係にあったことを初めて知った人も多いだろう。
彼らの一言には、陸続きの国に暮らす人が抱えている厳しい現実が込められている。
パキスタンとアフガニスタンの対立は、宗教の違いだけでも、単なる政治問題でもない。
地理そのものが争いを生み出している側面が大きいのだ。
対立の直接的な原因:テロ事件と越境する過激派
今回、パキスタンがアフガニスタンに攻め込んだ直接的な原因は、2026年2月に発生したテロ事件にある。
首都イスラマバードのモスクで礼拝中に自爆テロが発生し、30人以上が死亡した(2026 Islamabad mosque bombing)。
パキスタン側は、アフガニスタンがテログループを支援したと主張し(アフガン側は否定した)、「報復」としてアフガニスタンを空爆して戦争に突入した。
知人のパキスタン人は、アフガニスタン政府が反パキスタンをかかげる武装組織に資金や拠点を提供し、彼らを育てていると言う。
そうした過激派は国境を越えて侵入し、パキスタンで破壊活動をしているから、アフガニスタンとの関係は以前からとても悪いという。
南部の平原なら、過激派の越境を防ぎやすいが、北部の山岳地帯で取り締まるのは不可能だ。
パキスタンへの侵入を防ぐことはできないから、国内でのテロ活動も止めることができないでいる。
だから、今回、その「発生源」を破壊するために、アフガニスタンに攻め込んだのだろう。
この点、島国の日本は恵まれている。

赤い線がデュアランド・ライン
両国の対立を深めた国境問題「デュアランド・ライン」
彼らとの話で、「デュアランド・ライン」(Durand Line)という言葉を初めて知った。
これはパキスタンとアフガニスタンの国境線で、約2640kmの長さがある。青森から鹿児島まで約1370kmであることを考えると、これはとんでもない長さだ。
山岳地帯で人の移動を防げるわけがない。
この国境線(デュアランド・ライン)は、19世紀のイギリス統治時代に引かれた。アフガニスタンにとってはこれは政治的妥協の産物で、さまざまな問題があるため、今でもこの線を認めていない。
このラインは、現地の民族分布を考慮しないで引かれたから、分断されてしまった民族もいる。
パシュトゥーン人はその代表例だ。
パシュトゥーン人はアフガニスタン側にもパキスタン側にもいて、親戚が隣国に住んでいることもある。
彼らの多くが国籍より民族を優先していて、その意識が政治的な統治を困難にさせ、両国関係を不安定にもしている。
民族的なつながりと地理的条件により、武装勢力は国境を簡単に越えてしまう。
陸続きだと、隣国からの人・武器・思想の移動を完全に遮断することは難しい。パキスタンとアフガニスタンの「デュアランド・ライン」でそれは無理。
隣国が不安定になれば、難民の大量流入などその影響は直接流れ込む。アフガニスタンでは内戦が何度も起きているし、これほど政情が安定しない国はあまりない。
「国境があるのに、事実上は壁になっていない」という状態が、パキスタンにとって大きな問題になっている。
アフガニスタンで火事が起これば、それはパキスタンにも飛び火する。陸続きだと、日本のように「対岸の火事」として眺めることはできず、常に緊張から逃れることができない。
地理的環境がもたらす安全保障の決定的な違い
日本は海という防壁に囲まれているから、江戸時代には外国人の流入を制限する「鎖国」をすることができた。
パキスタンの地理的環境からしたら、そんなぜいたくな選択は不可能だった。
敵の攻撃から自国を守るためには、膨大な時間と巨額の予算、それと人手が必要になる。
日本では、それがほとんど「タダ」同然だっただろう。
※中国や韓国と違って、日本には城壁で囲まれた都市が無かった。その理由のひとつが、海で外敵から守られていたから、かもしれない。
戦いの際、海は「天然の要塞」として機能するから、陸の国境に比べ、防御する側が圧倒的に有利になる。それは元寇の結果からも分かる。
国境地帯の銃撃戦、軍の常駐、検問や封鎖などパキスタンの日常は、日本では映画の世界だ。日本にも竹島の問題があるけれど、武力衝突をともなう国境紛争には縁がない。
人工的に国境が引かれ、民族が分断された歴史もない。
そうした事情が、日本に住むパキスタン人に「日本は安全でうらやましい」と言わせたのだ。
在日パキスタン人が「日本はうらやましい」と語った理由
2人の在日パキスタン人が「日本はうらやましい」と語った理由はここにある。
この地理的条件は、人の安全感覚や国家観にも長期的な影響を与えてきたと考えられる。この違いは安全保障上、決定的に大きい。
しかし、21世紀の今、弾道ミサイルやサイバー攻撃に国境線は関係ないから、日本人も自国の安全保障では意識をアップデートして、危険に備える必要がある。
パキスタンほどではないけれど。

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