京都人と滋賀県民には「お隣あるある」のちょっとした対立があって、(不毛な)論争が続くと、滋賀県民はこんなセリフを言うことがあるらしい。
「京都人は滋賀をバカにするけど、琵琶湖疏水を止めてしまえば京都市の都市機能はあっけなく崩壊してしまう。」
くわしい内容は下の記事をどうぞ。
「京都 vs 滋賀」の決めゼリフ、“琵琶湖の水止めたろか”の威力
もちろん、京都と滋賀の争いなんて、外部の人に言われると、当人たちがウンザリするような「ネタ」でしかなく、これぐらいならまったく問題ない。
インドとパキスタンの対立は、「京都 vs 滋賀」とはまったく別次元にあって、どちらかと言うと「ユダヤ人 vs アラブ人」に近い。両者の憎悪の深さは世界的に有名だ。
印パはどちらも「カシミール地方はオレの土地だ!」と領有権を主張し、戦後、3回も戦争をしてきた。それでも決着はつかず、カシミールは「南アジアの火薬庫」として、何かきっかけがあれば爆発する、非常にリスキーな場所となっている。
4月下旬、そこで恐れていた「何か」が起こった。
カシミールのインドが支配する地域で、インド人観光客が武装集団に銃で襲撃され、26人が死亡した。インド政府はこのテロ攻撃に即座に反応し、「遺憾砲」をぶっ放すレベルを秒で超え、武装集団を支援したのはパキスタン政府だとして、パキスタンにもこのテロの責任があると非難声明を出し、国境を封鎖した。
もちろん、パキスタン側は強く否定している。しかし、インド側は聞く耳を持たず、モディ首相は「この凶悪な行為の後ろにいる人間は裁かれる」と語り、軍をパキスタン側に移動させた。
このテロがあった直後、日本にいる2人のパキスタン人と話す機会があったので、彼らに意見を聞いてみた。
銃撃で人が死亡する事件は、カシミールとはまさにそんな土地だから、「またか」としか思わない。しかし、今回は規模が大きいから、簡単に終わらないだろうと表情を曇らせる。
今後、起こり得るインド側の報復について、2人から話しを聞いていると、「彼らはインダス川の流れを止めるかもしれない」と、意外な指摘が出てきた。
「琵琶湖疏水を止めたろかー!」というセリフは聞いたことがあったけれど、インダス川は初耳で、この可能性はまったく予想していなかった。話を聞くと、これは「パキスタンの都市機能があっけなく崩壊してしまう」というほど、大きなダメージを与える可能性がある。
パキスタンの人たちは古代文明の時代から、インダス川の豊富な水に支えられて生活してきた。この川は中国のチベットを源として、インドを通り、パキスタンの北部に入り、大地を縦断して南部のアラビア海まで続いている。
印パの対立は深刻でも、1960年に両国は「インダス水協定」を結び、水資源をうまくコントロールしてきて、それは世界的に高く評価されていた。
その状態が崩れたら、どうなるのか?
インダス川の水はパキスタンの農業の80%以上、そして水力発電の約30%をカバーしている。パキスタンの重要な産業である綿花の栽培もインダス川流域で行われており、パキスタンの人たちに飲料水を提供している。
だから、もしインダス川の流れを止められた場合、一体どれほどの被害が出るのか、2人とも想像できない。結果的に、多くの人が死ぬことになるから、インド軍が武力侵攻してくるのと同じレベルの衝撃があるという。
日本にいるボクには現実感が無かったのだけど、インドが水を止めるというのは、「戦争」に近い深刻な状況になるようだ。
イギリスBBCもその懸念を指摘している。(2025年4月25日)
Can India really stop river water from flowing into Pakistan?
水は貴重な資源であると同時に、川の上流にある国は優位な立場にあるから、下流の国に対して「武器」として使うことができる。たとえば、水をせき止めてタップリためた後、警告なしに一気に放出すれば、川は洪水となって下流にある国を襲う。これは「水爆弾」と言われ、とんでもない被害をもたらす破壊力があるという。
武力侵攻と違って、人的な被害が発生しないことはインド側にとって「魅力的」だが、その実行には大きな困難がある。インダス川をせき止め、パキスタンに壊滅的なダメージを与えるほど、また、「水爆弾」になるほど大量の水をインド側がため込むことはとても難しい。
*トップ画像はインドを流れるインダス川。
それに、2人から「上には上がいる」という話を聞いた。
パキスタンは戦後、非共産主義国の中で初めて中国を承認した国で、中国政府と外交関係を樹立した初めてのイスラム教国家でもある。どっちもインドを敵視しているから、「敵の敵はマイフレンド」の理論で、パキスタンと中国の関係は昔からとても良いのだ。
そんなことでパキスタン人は、もしインドがインダス川の流れを止めようとするなら、さらに上流にある中国が流れを止めて、インドが困ることになると言う。
2人とも笑いながら話していたから、これはジョークだろうけど、現在のインドとパキスタンの対立は深刻で、世界が緊張感をもって注視している。

コメント