明治時代の思想家、岡倉天心は「アジアは一つ」という言葉を残した。
でも実際には、日中韓の3カ国だけを見ても一つになることはむずかしいし、特に歴史認識には大きな亀裂がある。
だから、国を超えて活躍する芸能人の場合、SNSの発言で炎上することはめずらしくない。
たとえば2019年には、TWICEの日本人メンバーであるサナさんがインスタグラムでこんなメッセージを投稿して、韓国で炎上騒ぎになった。
「令和という新しいスタートに向けて、平成最後の今日はスッキリした1日にしましょう!」
TWICE余波:「異常な反日」からの韓国人と日本人ファンの争い
日本では最近、こんなことがあった。
「まいじつエンタ」の記事(2023年7月14日)
ラブライブ声優・Liyuuまさかの日本批判? 中国SNSで政治発言「歴史を忘れるな」
7月7日は七夕の日と同時に、中国では盧溝橋(ろこうきょう)事件が発生した重要な日でもある。
1937(昭和12)年のこの日、北京市の南西部にある盧溝橋で日本軍と中国軍の衝突事件が起き、これが原因で日中戦争が始まった。
そんな歴史的背景から今年の7月7日、中国の国営テレビ局『CCTV』の公式アカウントがSNSにこんな内容の投稿をする。
「1937年の今日、盧溝橋で銃声が響き、日本の侵略者は中国に全面戦争を仕掛けた」
「歴史を思い起こし、私たちは自分を強くしていく」
すると、日本で活動している中国人声優のLiyuu(リーユウ)さんが、中国版ツイッターと言われる「微博(weibo)」でこの投稿を引用し、「殉教者を称え、歴史を忘れるな」と書いた。
これは中国で有名なスローガンらしい。
それに対して、アニメに詳しい社会部記者は「日中の歴史問題に言及したことで、ショックを受けてしまう人も少なくない」と上の記事で話している。
リーユウさんが担当したアニメキャラの誕生日が7月7日から、7月17日へ変更された理由も、中国人の感情に配慮した結果だろう。
東アジアだけでも、いろいろな見方があるのだ。
盧溝橋事件で出動する中国兵
日本のアニメを好きなったことがきっかけで、今の立場を築いたリーユウさんが「歴史を忘れるな」と発言したとしても、「まさかの日本批判」「政治発言」と受け取るのは行き過ぎだろう。
日本に住む知り合いの中国人も7月7日、SNSに「盧溝橋方面へ、黙祷」と投稿した。
日本人の感覚で例えるなら、アメリカにいる日本人が8月6日に「広島に向かって黙祷」とSNSに書くようなもので、これは反米やアメリカ批判ではない。
ただ、歴史の話題は日中の地雷だから、そんな投稿があると、否定的に反応する日本人はどうしてもいる。
中国人が「7月7日を忘れるな」と言うと、通州事件のあった「7月29日を忘れるな」と言う日本人がいた。
知人の「盧溝橋方面へ、黙祷」に対しても、ある日本人が「蘆溝橋事件では中国側が先に発砲したと言われています」とコメントすると、別の中国人が「なぜあの時、日本軍は中国にいたのか?」と反論し、コメント蘭は日中の歴史論争の場になっていた。
こんなネット空間での「日中戦争」は日常茶飯事だ。
第一次大戦中の1919年、日本が中国に対して「対華二十一か条」を要求し、中国側は5月9日にこれを受け入れた。
数年前のこの日に、日本に住む知人の中国人がSNSに「国恥日を忘れない」といった投稿をした。
外国から受けた恥辱を記念する感覚には違和感があったけど、彼が言うには、これは日本を批判するものではなく、前に進むために必要なことらしい。
そんな彼との会話の中で、「漢奸」という言葉を知った。
これは漢民族の裏切り者を指し、いまの中国では売国奴の意味で使われている。
日本にいる中国人が日本を称賛するようなことをSNSに書くと、漢奸のように思われて攻撃されることもあるらしい。
日中戦争中のポスター。
日本軍に好意的な中国人を漢奸として非難し、「漢奸的下場(漢奸の哀れな最後)」と書かれている。
そんな裏切り者は民衆による暴行や銃殺の対象となっていた。
リーユウさんも中国人として常識的なことを発信しただけで、「日本批判」や「政治発言」とは無関係だったはず。
彼女は日本で活躍している人だから、何かの機会に「漢奸」とレッテルを貼られ、攻撃される可能性は一般の中国人より高い。
中国の SNSで発信したというのは国内向けのアピールで、愛国心を示す意味があったのでは?
最近の中国では愛国心が高まっていて、「漢奸」と認定されると社会的に抹殺されかねない。上のポスターの警告は現代でも有効だ。
東アジアだけでも価値観や考え方の違いがあるから、いろいろな配慮が必要になる。
一つになる気配なんてまるでない。
「中華人民共和国」の7割は日本語。日本から伝わった言葉とは?
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