中国人キャラの「〜ある」という言い方|それって差別? 歴史は? 

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「Ching chong」という言葉の背景

来週の金曜日、日本で公開される予定の映画『プラダを着た悪魔2』が、いま炎上している。
原因は、映画に出てくる中国系の女性キャラの名前が「ジン・チャオ」だったこと。

欧米では中国系の人をからかったり、侮辱したりするときに「チン・チャン(Ching chong)」という言葉を使うことがある。
「ジン・チャオ」がこの人種差別的な用語に似ているということで、おもに中国人や海外にいる中国系の人たちを怒らせてしまった。

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1917年にアメリカで発表された「Ching chong」という楽曲。
この当時は問題視されていなかった。

 

欧米人にとっては、中国語の「ch」や「ng」の音が特徴的に聞こえるため、中国人を「チン・チャン」と呼ぶようになったらしい。

言葉の音声的な特徴を誇張して、特定の民族をからかうような行為は差別的だから、現代の中国人が怒るのは当然。
「ジン・チャオ」という、それをにおわせる名前も配慮が足りなかった。

では、「あの言葉」はどうなのか?

中国人キャラの「〜ある」に問題はないのか?

日本のマンガやアニメで中国人が登場するとき、語尾に「〜ある」「〜あるよ」とつけることが多い。

「それが江戸っ子の心意気だ」というセリフだと人物像が浮かんでこないが、「それが江戸っ子の心意気アル」になると中国人と分かる。

中国人のキャラ設定としてすごく便利な言葉だが、これは「チン・チャン」のような差別語にならないのか?

結論から言うと、日本のエンタメ界で使われる「〜ある(あるよ)」は、キャラの個性を引き立たせるための「役割語」で、悪意や差別とは関係ないから問題視されてこなかった。
しかし、ボクが調べたかぎりでは、今は「危険」だ。

そもそも中国人は「〜あるよ」なんて話し方をしない。
それに、「中国人はこういうおかしな日本語を話す」という誤った偏見を植え付けることにつながる。
現在の基準からすると、中国人キャラにそんな話し方をさせるとポリコレ棒で叩かれる恐れがあるから、もうそんなキャラ設定はしないらしい。

AIに聞いたら、『銀魂』の神楽ちゃんが「最後の代表的なキャラクター」になるという。『SAKAMOTO DAYS』に出てくるルー・シャオタン(陸少糖)は、「〜ヨ」「〜ネ」という言い方をするが、「〜ある」という表現を使っていない。
人種差別にはめちゃくちゃ厳しい今の時代に、「ワタシ中国人アルヨ」なんて言うキャラクターは無理だろう。

「〜ある」の起源|最初は中国人限定じゃなかった

では、なんで日本の中国人キャラクターは、そんな特徴的な話し方をするようになったのか、その歴史を探ってみた。

この言い方は、実は「外国人全般が使う日本語」で、中国人限定ではなかったのだ。
その歴史を3つのステップで解説していこう。

1. 幕末・明治初期の「横浜ピジン日本語」

江戸時代が終わって開国すると、日本(とくに横浜)にたくさんの外国人がやってきた。
その中には欧米人だけではなく、中国から来た人もいた。

そんな国際性を象徴するのが横浜駅だ。
当時の横浜駅では、中国人が切符を売り、車掌と機関手はイギリス人で、その他の駅員は日本人が務めていた。

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横浜にいた外国人は、自分たちが使いやすいように日本語を変化させ、「横浜ピジン日本語」と呼ばれる言葉を開発した。
「〜ある(あるよ)」という言い方は、横浜ピジン日本語に由来するとされている。

※ピジン語とは、異なる言語を混ぜ合わせて作った言葉。

おそらく、当時の外国人にとって「〜です」「〜ます」といった日本語の使い分けはむずかしかったので、「名詞や動詞の原形に『アル』をつけておけば通じる!」となり、超シンプルな日本語が生まれたと思われる。

それで「見ます、来ます、商売をします」が「見るある、来るある、商売するある」という言い方になった。
疑問形なら「か」を付けて、「あなた、これ買うあるか?」となる。

 

今でも日本語を学ぶ外国人が丁寧さを出すために、やたらと語尾に「ですよ」をつけることがある。
「行きました」や「食べました」と言うより、「行ったですよ」「食べたですよ」のほうがラクなのだろう。
「行ったデース」「食べたデース」になると欧米人っぽい。

2. 満州国の「協和語」

昭和に入ってから、日本が中国東北部に「満州国」(1932年 – 1945年)をつくると、現地で日本人と中国人との交流が爆発的に増えた。

ここでもコミュニケーションのために、現地の人たちは「を」や「に」といった助詞を省き、語尾に「〜ある」や「〜よろし(い)」などを付けるシンプルな日本語を使っていた。

※満州国のスローガン「五族協和」にちなんで、そんな独特の日本語は「協和語」と呼ばれている。

3. フィクションの「役割語」として定着

日本が戦争に負け、満州から引き上げてくると、現実の世界でこういうカタコトの日本語を聞く機会はなくなった。

しかし、人びとの記憶の中には残っていた。
そのため、マンガや小説の登場人物が「〜ある」「〜よろし」と言えば、読者は「あ、このキャラは中国人だな」と一瞬で分かる。

そんなことから、エンタメの世界で「〜ある」という言い方は、キャラ付けに便利な「役割語」として定着していった。

まとめ:「横浜ピジン語」→「協和語」→「役割語」

幕末から明治初期に欧米人や中国人が「〜ある」のように、日本語を使いやすくアレンジした「横浜ピジン語」を使っていた。

それが満州に伝わり、「協和語」が誕生。
多くの日本人がそれを使って、現地の中国人とコミュニケーションをとっていたことで、「中国人=〜あるよ、〜よろし」というイメージが固定化した。
※協和語を作ったのは日本人らしい。

戦後、フィクションの中国人キャラに、「役割語」としてそんな言葉づかいをさせたことで、「中国人が話す特徴的な日本語」として日本人のイメージに定着した。

つまり、「〜ある」という言い方の歴史をたどると、戦前の満洲国建国や、幕末の開国にいきつくのだ。

そして、今ではアニメやマンガの中から消えて、ほとんど「死語」になった。

 

おまけ

昔は中国のことを「支那(シナ)」と呼んでいて、戦前はごく普通に使われていた。

しかし、いまでは中国人に対する侮辱語になるから、テレビやメディアで使われることはない(「東シナ海」みたいな純粋な地理の用語はのぞく)。

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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