世界で最も「肌の色」に敏感な国といえば、それはきっとアメリカ合衆国だ。
奴隷としてアフリカから黒人を連れてきて使役する、先住民であるインディアンを虐殺したり追い出したりした歴史があって、いまのアメリカ社会では、白人と異人種との間で人種差別問題がよく起きている。
ここで取り上げるのは後者。
「インディアン」とは15世紀にアメリカ大陸へ到達したコロンブスが、そこをインドとカン違いして住民を「インド人」と呼んだことに由来する。
誤解からうまれた名称を使うのは侮辱的、差別的だという指摘はかなり前からあって、大リーグのインディアンズは2020年に先住民の顔をロゴマークとして使うのをやめて、「C」というカープとそっくりのデザインにした。
でも、そのていどの配慮で世論の非難をかわすことはできない。
21年に球団名を「ガーディアンズ」へ変更し、100年以上の歴史と伝統のあるインディアンズは消滅してしまう。
プロフットボールのNFLでも2020年に、先住民の肌の色を差別的に表しているという批判を受けて、「レッドスキンズ」が「ワシントン・フットボールチーム」に変更された。
こうした動きの根底には2020年に高まった、人種差別の撤廃を求める「ブラック・ライブズ・マター」運動がある。
そしてその「BLM」の背後には、白人が黒人や先住民に対して行った闇歴史がある。
人種差別の非難を受けていたインディアンズのロゴマーク
画像:Roger H. Rangel
きょう1月31日は1876年にアメリカで、国内にいる全てのインディアンにインディアン居留地への移住を命じられた日。
1492年にアメリカ大陸が見つかっちゃってから、ヨーロッパから白人がどしどしやって来るようになると、先に住んでいたインディアンとの間で、土地をめぐる争いが起こるのはもはや確定された未来。
土地問題を解決するため、白人政府はインディアンの各部族と条約を結び、彼らには保留地(居留地)に住んでもらうことにした。
このとき白人側はインディアン保留地の土地を買ったり、勝手に進入したりしないと約束する。
インディアン居留地の分布
でもその後も、ヨーロッパからの移民流入は止まらない。
そこで圧倒的な武力を持つ白人たちは、インディアンに土地を譲るよう迫り(というか脅して)、それに応じるしかなかったインディアンはわずかな金と引き換えに土地を明け渡した。
もちろんこれは条約違反。
だから、「インディアン達の意思を無視して、白人側が勝手に保留地の土地を買ったりすることは許されない!」と怒るトーマス・ジェファーソンのような人もいたけれど、多くの白人はそんな常識や誠意を一蹴する。
「たしかに約束をした。しかし守るとは言ってない!」みたいな無茶苦茶なことでも、絶対的な武力があるとできてしまうのがこの時代のアメリカだ。
「良いインディアンとは、死んだインディアンのことだ」という有名な言葉は、この時代の白人の考え方をよく表している。
そんな横暴な白人に対して、インディアンが戦いを挑んで起きた悲劇についてはこの記事を。
1868年にアメリカ政府はスー族と条約を結び、サウスダコタ州にあるスー族の聖地ブラックヒルズは永久にスー族のものであると確約した。が、ここのブラックヒルズに金鉱があると分かると、約束で白い人の強欲を止めることはできなかった。
アメリカ政府はスー族に対し、1876年1月31日までに居留地に来るよう要求する。
これは、もしインディアンが従わなければ軍隊を送るという脅迫であり、最後通告だ。
この要求は拒否されて有名なブラックヒルズ戦争が始まり、この戦いに負けたインディアンはやがて武力での抵抗をあきらめる。
インディアン戦争で先住民と戦って、いくつかの勝利と虐殺で知られるアメリカ陸軍の軍人・カスター(1839年 – 1876年)はこんなことを言っている。
私はしばしば、自分がインディアンだったら、「白人の作った保留地に閉じ込められ、やりたい放題で悪徳だらけの文明のお情けにあずかって生きながらえるより、自由で遮るもののない平原を仲間と守り、運命を共にするほうを選ぶほうがずっとずっと楽しいだろう」と考えたものだ。
カスター
圧倒的な武力を背景に、あとから一方的に約束を破って土地を奪っていた闇歴史があるから、いまは「人種差別」という非難に白人側は激しく弱い。
だからロゴマークやチーム名の変更を要求されら、結局は応じるしかない。
この流れはこれからもアメリカ社会で続くはずだ。
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