多様性とウリ文化:オーストラリア人と韓国人の違い 

 

2014年のきょう12月15日、オーストラリアのシドニーで立てこもり事件が発生。
この日の午前中、イラン人のイスラム教徒の男がショットガンを持ってシドニーのカフェに乱入し、人質をとって立てこもる。
その後、犯人は人質を使って、「アッラーのほかに神は無く、ムハンマドはアッラーの使徒なり」と書かれた旗を窓に掲げさせた。
最終的には、警官隊が突入して犯人は射殺され、2人の人質が死亡し、人質3人と警官が負傷した。

2014年シドニー人質立て籠もり事件

 

この事件の数年後、日本で韓国系オーストラリア人と知り合った。
彼は韓国の小学校の途中か卒業した後、両親と一緒にオーストラリアへ移住し、現地の中学、高校、大学へ進学して、卒業と同時に日本へ来て英会話講師をしていた。
彼はオーストラリアに住んでいた間も、韓国へ何度も行っていたし、友だちとも連絡をとり合っていたから、韓国の事情はよく知っている。

そんな彼の話では、立てこもり事件の後、オーストラリアと韓国の大きな違いがあらわれた。
まず、この事件によって、イスラム教徒に対する敵意や憎悪が一気に高まり、ネット上では差別的で攻撃的な投稿書き込みが相次いだ。
しかし、この後、オーストラリアらしい展開が起きたという。

国内で生活するイスラム教徒の安全を守るために、「#illridewithyou」のハッシュタグがSNSで大拡散された。
これは「あなたと一緒に乗ります(I will ride with you)」という意味。
イスラム教徒の女性は髪を隠すヒジャブを付けないといけないから、どうしても目立ってしまし、攻撃される可能性があった。
そんなイスラム教徒が1人で、電車や地下鉄などを利用するときには、ほかの人が一緒に乗ってサポートする運動がはじまり、市民から大きな支持を集めた。

ある女性は手首にスカーフを巻き、そのサインを見て声をかけてくれたら、あなたと一緒に乗りますと SNSに投稿した。
ヒジャブを外したイスラム教徒の女性を見て、自分が一緒にいるからヒジャブを着けてほしいと声をかけた女性もいる。

 

喜んで協力しますと言う女性。

 

この運動に感謝するイスラム教徒。

 

不寛容と憎しみを克服するために団結する。
オーストラリアの有名政治家は、オーストラリア人は最善を尽くすと投稿した。

 

オーストラリアと韓国では、国の成り立ちが根本的に違う。
オーストラリアは、もともと先住民が住んでいた土地に、世界各地の民族が移住してきた移民大国だ。
それに対して、韓国は国民の 95%以上が同じ韓国人で構成されている、とても同質性の高い国。
オーストラリアでは民族や宗教などによって、さまざまな価値観や考え方があり、それを自由に表現することが認められている。
韓国は法的にはそうなっているが、彼が言うには現実はそうではない。
オーストラリアの特徴である多様性の反対で、韓国には「ウリ」という独特の文化があるという。

韓国語の「우리(ウリ)」は直訳すると、「我々、私たち」という意味になるけど、実際のニュアンスはそんな単純なものではなく、日本語にはない概念らしい。
韓国の人たちは親近感を持つ相手にこの言葉を使う。
たとえば家族を紹介するとき、日本人なら「こちらが父です」と言うところを、韓国人は「ウリ(私の)父」「ウリ母」「ウリ姉」と言う。
友だちや好きなアイドルや俳優にもこれを付けることがあって、バンタン(防弾少年団)なら「ウリバンタン」となる。
ファンはこう呼ぶことでより親密感を感じるらしい。
そしてこの言葉は学校や会社、国にも使われ、韓国人は「ハングッㇰ(韓国)」ではなくて「ウリナラ(我が国、私たちの国)」と言うことも多い。
自分にとって身近な存在に「ウリ」を使うことは、韓国人の親近感や一体感を表しているという。
こんな価値観が広く浸透しているから、韓国では何でもシェアする文化が発展した。

 

しかし、この「ウリ」の考え方は、自分たちと異なる人たちを分ける排他性にもつながる。
オーストラリアではこんな概念がなく、自国民と外国人の区別はあいまいだが、韓国では国民と外国人はハッキリ分けられている。
そんな背景があるから、もし韓国で外国人のイスラム教徒が2人の韓国人を殺害し、多数の韓国人にケガを負わせるテロ事件を起こしたら、きっとこうなると韓国系オーストラリア人は話す。

まず、全国的に反イスラム感情が急速に高まり、国内のイスラム教徒への差別や脅迫行為が増える。
もちろん、国内のイスラム教徒を守ろうとする動きも起こるだろうけど、それは「ウリ」の考え方に反するものと見なされ、その人も攻撃の対象になる。
だから、「illridewithyou」という全国的な運動が生まれ、多くの韓国人が見知らぬイスラム教徒と一緒に電車やバスに乗ることはない。

 

ただし、これはあのテロ事件に限定した話。
ひとつの特徴にはポジティブな面とネガティブな面がある。
「ウリ」の韓国では、国民の価値観や考え方が似ているから、オーストラリア社会には見られない国全体の一体感がある。
ある出来事が発生すると、韓国では国民の反応はだいたい予測できるけど、オーストラリアではそれがむずかしいらしい。
彼は「illridewithyou」運動が生まれ、それが共感を呼んで広がることは想像できなかったと言う。
オーストラリアではいろいろな価値観があり、誰もがそれを自由に表明できるから、なかなか意見がまとまらない。
彼はそういう混乱を見るとウンザリし、韓国の団結力はすばらしいと感じるらしい。

 

ところで、日本はどうか?
日本も国のでき方から言えば、アメリカやオーストラリアのような移民大国ではなく、国内のほとんどが日本人という同質性の高い国だから、韓国に近い。
オーストラリアに「ガイジン」という言葉はない。
日本の社会も国民と外国人がハッキリ区別されているから、「あなたと一緒に乗ります」が全国的に広がることはたぶんない。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。