ドイツのクリスマス 日本と違って食事が“ショボい”わけ

 

ことしのクリスマスの日、たくさんの家庭で不幸な出来事が起きた。
事前に、有名百貨店のオンラインストアでクリスマスケーキを注文し、イブの24日にそれが届く。
ドキドキしながら箱を開けたら、原形がわからないほどケーキが崩れていたから、期待は怒りに変わって、百貨店には苦情が殺到した。
この責任は、作った側か配達した側にあるのかは知らない。
百貨店は返金に応じただけでなく、担当者が新しいケーキ持って家にやって来て、直接謝罪したケースもあったというから、いろんな方面で悪夢のクリスマスになってしまった。

日本では24日や25日には、いつもより豪華なケーキや食事を楽しむのがクリスマスのお約束。
アーニャみたいな子どもにとっては、一年で一番ワクワクする日だから、ぐちゃぐちゃなクリスマスケーキを見たらきっと泣き出す。
でも、ドイツ人なら、精神的な苦痛はそれほど大きくないかもしれない。

 

ドイツのクリスマスマーケット

 

以前、知人のドイツ人に「本場のクリスマス」について話を聞いていたとき、意外に感じたことがある。
クリスマスはキリスト教の伝統で、一年で最も重要な日のひとつ。
だから、その日は日本みたいに、家族でゴージャスな食べ物を食べて祝うのかと思っていたら、その予想は半分外れた。

でも、その話を書く前に、一つ注意してほしいことがある。
現在のドイツは多民族国家で、たとえば白人とトルコ系ドイツ人では価値観や文化で大きな違いがあるから、「ドイツは〜だ」と一般化して言うことがむずかしい。
だから、この記事の情報が当てはまらないドイツ人もいる。

 

ドイツではクリスマスイブに、ソーセージとジャガイモのサラダを食べる習慣がある。
それを検索すると、白いお皿の上に1〜2本のソーセージとポテトサラダが乗っているだけの、クリスマスディナーとは思えないお寒い画像が出てくる。
知人の話によると、ソーセージもポテトサラダもドイツ人が日常的に食べるもので、特別感は1ミリもない。
クリスマスの日、テーブルにこれが置かれていたら、小さな子どもだったら「アーニャ泣きそう」と涙目で言いそうなショボさ。

なんでドイツでは特別な日に、日本人の感覚からすると、白米と焼き鮭みたいな質素なものを食べるのか?
知人に聞くと、これはキリストが荒野で四十日間の断食をし、主が苦しい思いをしたことを思い起こすためだという。
それが由来となって、クリスマスの前に断食することがキリスト教徒の伝統になった。
といっても、飲み食いを一切しないわけではない。
豪華な肉料理はひかえるけど、魚は食べてもいいから、“食事制限”と表現したほうが実態に近いと思う。
そんなキリスト教の考え方から、ドイツではイブの日にあえてシンプルな物を食べる伝統が生まれたという。

 

しかし、日本語のサイトを見ると、コレと違う説が書いてある。
ドイツ人がイブの日、ソーセージとポテトサラダを食べる理由については、キリストの両親であるマリアとヨゼフが貧しく、苦しい生活をしていたことを思い起こすため、といった説明がされていることが多い。

こういった海外文化については、英語の資料の方が信頼できる。
英語版ウィキペディアを見てみると、やっぱり「断食(fast day)」がその理由とされている。
ソーセージ&ポテトサラダの組み合わせ以外にも、クリスマスイブが断食の日になる地方では、さらに質素な野菜や豆のスープを食べる家庭もあるという。

Potato salad with frankfurter or wiener sausages is popular in some families. Another simple meal which some families favor, especially in regions where Christmas Eve still has the character of a fast day, is vegetable or pea soup.

Observance of Christmas by country・Austria and Germany

 

ドイツの情報を紹介する「deutschland.de」というメディアにも、この習慣は、12月11日から24日までの断食に由来すると書いてある。
それで、キリスト教徒は伝統的に牛や鹿の肉などの豪華な食事を避け、魚などの質素な物を食べていた。クリスマスイブに、鯉の料理を食べる人も多いらしい。

How Christmas is celebrated in Germany

 

ということで、ドイツ人がソーセージとポテトサラダを食べる理由は、「マリアとヨゼフが貧しかった」説ではなく、キリストが断食したことに由来すると思われる。
どっちにしても、その理由はキリスト教に関係していることは間違いない。
ドイツのクリスマスでは、24日に質素なものを食べて、25日にごちそうを楽しむ。
メインメニューは鹿の肉や牛肉など、家庭によって違う。
知人はあるクリスマスの日に、レストランでお気に入りの上質な豚肉料理を味わった。

 

 

ドイツと違って、日本のクリスマスは年末の「お楽しみデー」だから、中身はキリスト教の伝統とはほとんど関係がない。
だから、5千円以上のケーキを注文したのに、白いスライムみたいな物体が届いたら、「ふざけんな!」とキレるのが普通。
でも、そこでニッコリ笑って、こう言ったらどうだろう?

「キリストは荒野で断食をされました。イブはそれを思い出す日ですよ。私たちにはこれで十分じゃないですか」

この方が本来のクリスマスっぽいが、こんなヒンメルみたいな聖人キャラは、きっと日本では嫌われる。
崩壊したケーキが届いたら、これは質素とは違うから、ドイツ人もきっとブチ切れる。

 

 

仏教 目次

キリスト教 「目次」

日本人の宗教観(神道・仏教)

【宗教と文化】外国人から見て日本人は無宗教か?

外国人には不思議な日本人の信仰「宗教はファッションだ」

【神道とクリスマスツリー】ドイツ人が神社を見て思ったこと

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。