10年ほど前に韓国旅行をしたとき、ソウル中心部にある繁華街・明洞(ミョンドン)へ買い物に出かけた。
街を歩いていると、中年の男がニコニコしながら近づいてきて、日本語で「高級ブランド品のコピー商品がある。すごく安いから、私について来い」と言う。
日本語で声をかけて、“お得情報”を教えてくれるというのは、海外旅行では鉄板の不幸フラグだから、無視することにした。
男が横に並んで歩き、「見るだけでいいから、一緒に来なさい」と2、3回言うのものガン無視すると、男は離れていった。
次の日、日本語ガイドにその出来事を話すと、「惜しいことをしましたね。彼と一緒に行った方が良かったですよ」と意外なことを言う。
ガイドは50代の男性で、日本人女性と結婚しているから日本語がペラペラで、日本人の知り合いも多いから、日本人の考え方や気持ちも理解している。
で、ボクはどんな魚を逃したのか?
ガイドの話によると、数年前までは明洞で堂々とコピー商品を並べて販売していたけれど、最近は取り締まりが厳しくなったから、業者は“地下”へ潜った。
偽ブランド品が無くなったのではなく、見えなくなったというのがポイントだ。
そして、彼らは“カモ”になりそうな人に声をかけ、店へ連れて行って偽品を買わせるようになった。
しかし、それもあと数年で消えるだろうから、「あなたはモッタイナイことをしましたね」とガイドは笑う。
最近、ネット上にある日韓友好グループを見ていて、ガイドのそんな言葉を思い出した。
そのグループでは、この年末年始に韓国を旅行して「楽しんできましたー」という日本人の投稿が洪水のようにあふれていて、それは主に食レポや観光地の感想だったが、ひとつだけ異質な投稿があった。
釜山のある市場に行ったという日本人が、グッチやシャネルなどの大量の偽商品が並んでいる写真をアップし、「これを見ると“韓国へ来た”って感じがします(笑)」と書く。
その投稿には、「私も韓国で見ました!」「いっぱいあってすごいですよね〜」「見るだけでテンションが上がります」といった共感コメントが寄せられていた。
あと数年で消えますよ、とは何だったのか。
ガイドの予測は大ハズレで、韓国からコピー商品が一掃される気配はない。
きょねんも明洞でヴィトンやエルメス、プラダなどの偽物を大量に販売していたグループが見つかった。
朝鮮日報の記事(2023/02/20)
「シャネルやエルメスあります」 明洞の模倣品販売業者を一斉摘発…なぜバレたのか
ソウルでは明洞のほか、東大門や南大門のあたりでも、偽ブランド品の販売が目立つようになったから、当局が客のフリをした職員を投入し、悪者を一網打尽にしたらしい。
これは以前、私がソウルで撮った市場の写真で、ここにある商品は本物だと思います。しかし、上の投稿者の写真では、コピー商品がたくさん並んでいるような様子が伝えられています
これは、ボクがソウルで撮った市場の写真で、ここにある商品は問題ないと思う。
上の投稿者の写真では、コピー商品がこんな感じに堂々と並んでいた。
偽ブランド品が無くならない理由をガイドに聞くと、彼は「需要と供給」を指摘した。
コピー商品を求めるのは韓国人だけじゃない。
そのガイドも日本人の客から、「安心して偽ブランド品を買える店」を紹介してほしいと頼まれて、何度か案内したことがあると言う。
需要が多いから、コピー商品も増えていく。
全体的には1%以下だろうけど、「日本人も悪いんですよ」という部分もありそうだ。
韓国人は高級ブランド品を欲しがる気持ちがとても強く、2023年には、1人あたりの購入額で世界一になった。
ガイドに言わせると、それはメンツのためで、韓国では男も女も“見栄え”をすごく重視する。
彼から見ると、韓国人は自己アピールが強く、日本人は謙虚で見た目をあまり気にしない。
ただ、ガイドは、韓国人が“見た目”を大切にすることをポジティブに考えていた。
良い大学や会社へ入るために努力するのは良いことで、自分をレベルアップさせる動機になるから。
「日本に負けないような先進国になる!」という国民の強い気持ちがなかったら、韓国は、いまのような経済大国になっていなかったと言う。
そんな気持ちの副作用として、コピー商品の購入というチート行為をする人がいる。
2年前に、メンツを超要視する韓国人らしい失敗があった。
イギリスで開催されたG7首脳会議に韓国が招待され、政府の公式アカウントが「写真1枚で見る大韓民国の地位」というタイトルで、当時の文大統領が海外の首脳たちと映っている写真を公開した。
でもすぐに、文大統領のイメージを良くするために、南アフリカ大統領をカットしたことバレてしまう。
自分を実際以上に良く見せるために画像を加工することは、いまでは世界中の人たちがSNSでよくやっているが、政府の公式アカウントがそんなことをするのはNG。
政府の自画自賛に対して、中央日報は社説でこう批判した。
「国際慣例上あり得ないことが堂々と生じた」
「編集された相手国に対する配慮は眼中にもない無礼の極致」
「外交欠礼であると同時に国民に向けて赤面するような嘘をついた」
「見栄え重視で繰り返される大統領行事のミス=韓国」(2021.06.17)
見た目を優先し、国民に大統領の“カッコイイ姿”を見せようとした結果、基本的なマナーやルールが無視された。
ちなみに、写真に映っている国家首脳11人のうち、文大統領だけがノータイだった。この作戦も「活力があることを見せようというイメージ演出」だったのだろうが、結局は失敗だったと中央日報は指摘している。
先ほどの日本語ガイドも、「見栄え」をめぐって、妻と大ケンカをしたと言う。
その争いの内容に、日本人と韓国人の価値観や考え方の違いがよく表れていると思う。
ある時、ガイドは客のリクエストに応えて、偽ブランド品の店へ連れて行ったら、そこでとても良さげなバッグを見つけ、思わず妻のために買ってしまった。
で、その後、彼は本当のことを言おうかどうか悩む。
どうせいつかバレるだろうし、夫婦で秘密を抱えているのも気分が悪い。それに、おまえに似合うと思って買ったと真心を伝えれば、妻もきっと分かってくれずはずだ。
そう思って帰宅してから、本物ではないけれど、素敵なバッグだからと渡そうとすると、妻は「そんな物はいらない!」と激怒した。
妻は見た目をあまり気にしないから、高いブランド品をあまり持ちたがらない。
夫にはそんな謙虚さが消極的に見えて、もっと自分を良く見せた方がいいと前々から思っていた。
偽物と言っても、素人が見ても分からないほど「高品質」だったし、プレゼントをしたいと思った自分の心まで否定されて、感情的に言い返してケンカになる。
妻は、身のほどにあった生活をするべきと主張するけど、夫は多少はムリをしても良い物を身につけるべきだと考えていた。
価値観がまったくかみ合わないから、議論は平行線をたどる。
これまでは大抵の場合、自分の言い分が通っていたのに、このときの妻は引かないし、まったく譲らない。
考えてみれば、自分は一歩引いて、相手を立てるところが妻の良いところだし、今回は自分の落ち度もある。
いろいろと面倒くさくなって、腹も立っていたから、夫はバッグを捨ててしまった。
この一件には、日本人と韓国人のこんな特徴が表れていると思う。
・夫はまず行動し、その後で考えて整合性をとろうとした。
・夫は見栄えを重視したが、妻は生活を優先した。
・プレゼントをしたいという思いから、夫はルール(法)を破った、妻はそんな発想を嫌った。
2023年には、韓国メディアで「高級ブランド品を使うのは良くない」と考えているのは日本人で45%、韓国人では22%だけだったという報道があった。
ブランド品を身につけたがる気持ちは、日本人に比べると、韓国人はかなり強い。
ガイドは、「武士は食わねど高楊枝」という日本語が好きだと言っていた。
武士は名誉をとても大切にし、それを守るためには切腹も受け入れた。
だから、武士は食べ物を買うお金が無くても、「食った食った〜」と爪楊枝を歯に当てながら街を歩く。
実際にそんな武士がいたかは知らないが、江戸時代には、武士がそんな「見栄っ張り」と思われていたことはたしかだ。
このガイドの感覚からすると、韓国人も自身の「名誉」を重んじて高級ブランド品を買い、その後に食事の質が下がってもガマンできる。
生活を切り詰めても「見栄え」を優先する韓国人は、「武士は食わねど高楊枝」の精神に通じるから、彼はこの言葉に共感し、気に入っている。
実際、韓国では、かなりムリをして高級品を買って、しばらくはインスタントラーメンでがんばるような人は多い気がする。
偽品に手を出すよりは、この方がはるかに健全だ。
それに良くも悪くも、とっても韓国人らしい。
補足
ここでの内容は、今なら60歳を超えた男性の考え方だから、若い韓国人の意識とはかなり違う。
20代の韓国人に聞くと、彼はコピー商品には批判的で、それは韓国の「恥」だから絶対に買わないと話していた。
海外で偽ブランド品を買っても、どうせ日本の税関で見つかって、高いツケを払わないといけなくなる。
そういう物はガン無視が最適解。
偽物の商品がない日本が先進国です。
韓国にはまだ偽物の商品があり、中国は韓国よりはるかに多いです。 これはその国の成熟度の差だと思います。
韓国が世界第4位のメルセデス·ベンツ販売国です。 中でも高級機種は本土のドイツよりもむしろ売れています。 韓国人は朝鮮500年間抑圧されてきたDNAが残っていて、何でも大きくて良いものを好みます。
「私が金持ちだ」「私はこんな高級車に乗る」と自慢したい気持ちが胸に大きなしこりとして残っている民族です。
もちろん、私はそのような部類ではありません。
いえいえ、残念ながら、日本でも偽ブランド品が摘発されることがあるんですよ。
「見栄を張る」というのは頑張る動機づけにもなるので、良い面もあります。
日韓は隣り合っているのに、いろいろと違う面が多くておもしろいですね。