インド人を伊勢神宮へ 水にコインを投げ入れたくなる理由

 

1933年(昭和8年)に、ドイツの世界的な建築家であるブルーノ・タウトが来日した。
彼は伊勢神宮や桂離宮などを訪れ、日本の文化や芸術に深い感動を覚える。

そこには古来このような形式が驚くほど洗練され、なおかつ生命を保つ続け、現在の傾向にまったく合致すると思われるような形で建築その他の芸術に現れていたのである

「ニッポン (講談社学術文庫)ブルーノ・タウト 」

伊勢神宮

 

では、時代と国籍を変えて、現代のインド人が伊勢神宮をへ訪れたときの感想を書いていこう。
第一弾の記事はこちらですよ。

インド人を伊勢神宮へ 五十鈴川とガンジス川の同じ/違い

 

3人のインド人は神聖な五十鈴川の話を聞いて、同じく聖なるガンジス川を連想した。
ヒンドゥー教では、ガンジス川の水は罪や穢(けが)れを消し去り、遺灰を川に流せば、死者の魂を天国へ導いてくれると信じられている。
だから、一般的にヒンドゥー教徒にはお墓がない。

五十鈴川が日本の「ホーリーリバー」だと知って、インド人が「じゃあ、遺灰も流すのか?」と聞いてくる。
いやいや、日本でそんなことをしたら、もれなく警察に捕まるわ。
いま思えば、これはインディアン・ジョークじゃなくて、ガチの質問だったかもしれない。

遺灰の代わりに(でもないけど)、むかし、伊勢神宮の参拝者は五十鈴川にコインを投げていた。
しかし、その結果、川にいるコイがそれを飲み込んでしまい、口を詰まらせる事故が多発し、問題になる。
それで、五十鈴川にいたコイたちは神宮内の池に移され、いまではそこで安全・快適に暮らしている。

 

なんで日本では、池とか川とか水のかたまりを見ると、コインを投げたがる人がいるのか?
イタリアのトレビの泉には、後ろ向きになってコインを投げ入れると、願いがかなうという言い伝えがあって、世界中の観光客がそうしている。
もちろん、これと日本の「投げ銭」は関係ない。

ネットで、大学教授などの専門家の人たちの意見をまとめると、日本人が水にコインを投げる理由は大体こんなもの。

日本では古代から、水には穢れを浄化するパワーがあるという考え方があり、それは現代のさまざまな神道の儀式で見ることができる。
特に流水には、汚れたものを洗い流す効果があるとされていた。
それで硬貨に自分の穢れを“乗り移らせ”、それを川や泉に投げることで、穢れを祓うことができると考えた。
そして、その行動が広がっていき、日本で一般的な習慣となった。
伊勢神宮の場合、参拝者は五十鈴川に「投げ銭」をすることで心身をキレイにして、神様に近づくことができると考えかもしれない。

 

数年前に富士山の近くにある「忍野八海」で、中国人観光客が池にコインを投げ入れる“事件”が続出し、問題になった。
日本の「投げ銭」はひょっとしたら中国から伝わったかも。
ちなみに何年か前、上海の空港で、80代のおばあちゃんが安全祈願として、飛行機のジェットエンジンに向かって数枚の硬貨を投げやがって、フライト時間が大幅に遅れるトラブルが起きた。
こういう豪快な発想は日本人にはない。

 

トレビの泉に背中を向けて、コインを投げようとする男性

 

インド人の話では、インドでもコインを水に投げ入れる習慣がある。
しかし、その理由は彼らにもよく分かない。
なでの調べてみた。

インドの歴史や文化について解説するサイト『Moksh Life』の記事で、インドでコインを投げ入れる習慣の起源について説明している。(September 26, 2018)

 Worth The Toss: Origins Of The Practice Of Tossing Coins Into Rivers & Ponds

インダス文明は大河の近くで誕生し、人びとは水に頼って生活をしていた。
そのため、古代のインド人は周囲の自然を強く意識し、水域に硬貨を投げ入れることで、水域の不純物を浄化できると考えていたという。

「by throwing coins into water bodies they were helping cleanse them of impurities」

人びとは水域を神聖な存在として崇拝し、祈りを捧げていた。
当時のコインは銅と銀から作られていて、アーユルヴェーダによれば、銅と銀は浄化や人間の健康増進にとても有用な金属であることが証明されているという。
それで、インド人は銅や銀のコインを水域に投げ入れることで、水を浄化すると同時に、体に必要なミネラルを摂取することを考えた(ホントかよ)。

 

結局のところ、人間は水なしで生きることはできないし、生活でもたくさんの水が必要になる。
水は人類にとって根源的に重要なものだから、それを神聖視する考え方が生まれた。
その結果、水に供物をささげる発想が出てきて、社会的に価値のあるコインを投げ入れる行為が登場した。
そういうことだと思います。

 

インドのビハール州には、「アガム・クアン(Agam Kuan)」という井戸の遺跡がある。
そこにコインを入れると縁起が良いという話があって、多くの人がそうしているらしい。
ちなみに、アガム・クアンとは「はかり知れないほどの幸福」という意味なのだけど、アショカ王の時代には拷問のために使われていたらしい。

 

アガム・クアンの近くで見つかった神像

 

 

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日本人も水を神聖視するが、インドの階段井戸は異世界レベル

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。