【女性の権利】米国で、ハットピンが“武器”になった理由

 

昨年10月、京都市内の道路で、ひとりの男性が血まみれになって倒れていた。
そのまわりに女性用の下着が散乱していたことで、ナゾはさらに深まる。
その後の警察の調べによって、男は家の塀によじ登り、庭先にあった下着を盗んだところでバランスを崩し、鋭い歯のある「忍び返し」が腕と腹に突き刺さったことが発覚。

こんなもんは自業自得だと思うのだけど、ネット上では、ケガを負わせた場合、「忍び返し」を設置した側も責任を問われるのでは? という議論がはじまった。

・死ななかっただけ感謝しろ
・正当防衛ではない
自爆だ
・過剰なトラップで怪我したって訴えた犯罪者が勝った裁判があった記憶がある
・こんな辱めを受けるくらいなら死んだほうがマシだと思うわ

女性が自分の権利を守るために、悪漢から身を守らないといけない状況は昔からある。

 

 

最近、蠱毒(こどく)についての記事を書いた。
これは呪術的な毒で、古代の中国や日本では法律で使用を厳禁した。

“蠱毒”をどう思う? 西洋人から見た東アジアの呪術

 

蠱毒についてどう思うか、SNSで外国人に聞いたところ、ある人がこんなコメントをする。

「Poison and pins are the woman’s weapon of choice😂」
(毒とピンは女の武器なんだ)

力の弱い女性が誰かを暗殺したいと考えた場合、毒は持ち運びが簡単で、効果は絶大だから、有効な武器になった。
女性がライバルを毒殺した事例なんて世界中にある。

彼は「ピン」についてこんなことを言う。

「the Victorian hat pin was originally not just an ornament but a self-defense weapon for women who might be harassed on the street.」
(ヴィクトリア朝のハット・ピンは、もともとは単なる装飾品ではなかった。女性たちは街中で攻撃を受けるかもしれないと考え、護身用の武器として使われた。)

ハットピンとは、帽子を頭に固定するための長いピンのこと。
このピンは 1800年ごろにイギリスで使われていて、1830年代にアメリカで大量生産できる機械が発明されると、価格が下がり、さらに多くの女性が使うようになった。

 

ハットピンの長さは15 ~ 20 cmほど。

 

 

上の外国人が指摘したように、女性は身を守るためにハットピンを武器として使うことがあった。

アメリカでは 100年ほど前、女性の投票権を求めて活動する団体があって、そのメンバーは「サフラジェット」(Suffragettes)と呼ばれていた。
サフラジェットがハットピンを武器として使うことが問題視され、1908年にピンの長さを制限する法律ができた。

Laws were passed in 1908 in the United States that limited the length of hatpins, as there was a concern they might be used by suffragettes as weapons.

Hatpin

サフラジェット

 

この法律が制定された背景には、男性と同じように投票権を求める女性に対し、憎悪を持って襲いかかった男たちがいたはず。
女性たちが身を守るためにハットピンを使ったら、ときに“過剰防衛”になったため、それを規制する法律ができたと思われる。
女性の社会的地位や権利の向上においては、下着ロドボーに対する「忍び返し」よりもはるかに重要で高次元だ。
「死ななかっただけ感謝しろ」とサフラジェットが吐き捨てたかは知らないが。

 

『柔術をするサフラジェット/逮捕』というタイトルの風刺画(1910年)

後ろにふっとばされた男たちが見える。
「Jiu-Jitsu」という日本語はこの当時から英語になっていたのか。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。