ジャガイモの歴史:ヨーロッパ・宗教の禁止・ポテトの由来

 

では、英語のクイズから始めます。
次の文を英語にしてください。

「あなたは、フライドポテトが好きですか?」

 

 

答え

Do you like fries?
Do you like chips?

でも日本人が言う「フライドポテト」は和製英語だから、外国人には通じないことがある。
イギリス人に聞いたら、fries(フライズ)かchips(チップス)でいいという。

 

友人のアメリカ人はこんなことを言っていた。

「『フライドポテト』だと、ジャガイモ1つをまるごと揚げたものを想像するかも」

これはネイティブスピーカーが使わない和製英語だからご注意あれ。

 

アメリカでは「フレンチフライ」とも言う。
イラク戦争のときに、このフレンチフライでちょっとした事件があった。

アメリカが「さあ、戦争しようぜ!」と世界の国に呼びかけたけど、フランスはそんなアメリカに批判的な態度をとっていた。

アメリカとしては、そんなフランスが気に食わない。

だから、フランスへのちょっとした抗議の意味で、アメリカ議会の食堂にあったフレンチフライの名称を「フリーダムフライ(自由のフライ)」に変えてしまった。
「バカバカしい」と思うけど、アメリカ人はこういうことをけっこうする。

今回は、そんなジャガイモのお話。
はじまりはじまり~。

 

友人のインド人から夕食に呼ばれた。
おかずと一緒に、なぜかポテトチップもだす。
どうしても違和感を感じてしまった。

 

では、続いて2問目。
ジャガイモのふるさと(原産地)はどこでしょう?

 

答えはペルー。

ティティカカ湖のほとりの標高三八〇〇メートル級の高原地帯こそが、今、私たちが食する栽培ジャガイモのふるさと、ジャガイモ発祥の地だという。

「ジャガイモの世界史 伊藤章治」

南米のペルーを原産地とするこのジャガイモは、16世紀にヨーロッパに伝わっている。

 

「新大陸(アメリカ大陸)」を見つけたヨーロッパ人は、それまでのヨーロッパにはなかった新しいものを運んできた。
ジャガイモも、そんなニューカマーの1つ。

 

でも、ジャガイモはヨーロッパ人には人気がなく、人びとはあまり手を触れようとしなかった。

ジャガイモはそれまで見たことがなかった食べ物だったから、「こんなものを食べて大丈夫か?」、「これを食べたら悪いことがおこるだろう」と考えた人が多くいたという。
そんな偏見や迷信が人びとをジャガイモから遠ざけていた。

さらにジャガイモの見た目にも問題があった。
この当時のジャガイモは見ばえが悪くて、食欲をそそらなかったらしい。

形がごつごつで不規則なうえ、色も悪かったという事情がこれに加わる。そんな形や色から、病気を連想、ハンセン病、クル病、肺炎、赤痢、ショウコウ熱などの原因がジャガイモだというまったく根拠のない言説が生まれ、広がっていった。

「ジャガイモの世界史 伊藤章治」

 

それまでなかったものでも、服や靴ならまだいい。
口に入れる物には、どうしても抵抗感が生まれてしまう。
それに今まで他の物を食べて生きていたのだから、新しい食材を食べる積極的な理由もない。

フランスのある地方では、議会でジャガイモの栽培を禁止してしまった。

 

それまでになかった新しい食べ物があらわれた場合、それを食べることができるかどうかは、宗教で決まることが多い。

自分が信仰する宗教が食べることを禁止している物もある。
宗教的にOKなら、食べることはできる。
これがもっとも大事な理由だろう。

ヨーロッパにジャガイモがもたらされたとき、人びとは「キリスト教の聖書にジャガイモなんて書いてない」ということでこれを敬遠していた。

キリスト教文化圏では「ジャガイモは聖書の出てこない食物。これを食すれば神の罰が下る」との文化的偏見も加わる。

「ジャガイモの世界史 伊藤章治」

 

イスラーム教では豚を食べることが禁止されている。
逆に、イスラーム教徒が食べることができるものは「ハラール(フード)」という。

このハラールがある食べ物なら、「イスラーム教徒が食べても安心ですよ」ということになる。

ハラール(〈アラビア〉Ḥalāl)

《アラビア語で「許された」の意。「ハラル」とも》
イスラム教の教義に従っていると判断されるもの。特に、必要な作法どおりに調製された食品をいう。
「ハラールミート」「ハラール食品」→ハラーム

デジタル大辞泉の解説

これは浜松市のスーパーにあった「ハラール」のマーク。

浜松市にはイスラーム教徒も住んでいるから、こうしたマークが必要になっている。

 

ジャガイモを英語でいうと、「ポティトゥ」。

この言葉はもともと、ジャガイモのふるさとである南米の人たちの言葉に由来している。

さらに、ジャガイモの名前にもキリスト教が関係している。
ジャガイモを初めてヨーロッパに持ちこんだのはスペイン人。

中南米の現地の民が、ジャガイモを「パパ(papa)」と呼んでいたのを聞き、そのままスペイン本国に伝えた。しかしパパにはローマ法王(papa)という意味があって恐れ多いため、それに近い「パタタ(patata)」となったといわれる。

「ジャガイモの世界史 伊藤章治」

これが英語のポテトになった。

 

では、日本語の「ジャガイモ」の由来は?
それはというと、インドネシアの首都「ジャカルタ」からきている。
オランダ人によって16世紀、ジャガタラ(ジャカルタ)から伝わったことからこの名となった。

じゃがいも【ジャガイモ】

そのため、当初は「ジャガタライモ」と呼ばれ、それが略されてジャガイモとなったといわれています。「馬鈴薯(ばれいしょ)」の別名ももちますが、これは馬につける鈴に形が似ていることから呼ばれるようになったといいます。

食の医学館の解説

インドネシアの段々畑

 

ちなみに、ジャカルタは「勝利の都」という意味になる。
エジプトの首都「カイロ」やミャンマーの旧首都「ヤンゴン」もこれと同じような意味の都市名。

戦いの勝利を記念して、その地に名称をつけることは世界中でよくあった。
首都でないけど、カンボジアの「シェムリアップ」もそう。

 

宗教的な理由とそれにもとづく偏見や迷信などによって、ヨーロッパ人はジャガイモを食べなかった。
それでも現在では、ヨーロッパ中でジャガイモは食べられている。

ジャガイモがヨーロッパで人気の食材になったのは、「そんなことを言っていらんねえ!」という切羽詰まった状況があったから。

飢饉(ききん)や戦争で食べ物がなくなってしまい、木の皮を食べたり死んでしまいそうになったりしたら、食べたくないものでも食べるようになる。
ヨーロッパでジャガイモは、そうやって食べられるようになっていった。

空腹は偏見や迷信に勝るのだ。

次回、そのことを書いていきます。
おまけ

韓国人の友人が日本に旅行で来たとき、コンビニでポテトチップを買っていた。
袋を開けて彼が驚く。

「日本のポテトチップには、中身がたくさん入ってますね!韓国のポテトチップなんて、中身は10%で残りは空気ですよ」

確かに韓国のお菓子には、中身が少ないものがけっこうある。
袋を開けると「ガッカリ感」を感じてしまうけど、逆に韓国人が日本にお菓子を買うと「なんて中身が多いんだ!」と感動するだんろう。

 

 

こちらの記事もいかがですか?

製紙法の伝播(西伝) いつ中国から日本・イスラーム圏・ヨーロッパへ?

スペインの基礎知識!歴史やアラブ(イスラム)文化の影響

負けるまでは無敵艦隊!スペインが歴史上、最も輝いていた時代

キリスト教の宗派の対立③ ルターと織田信長という「破壊者」

カテゴリー: ヨーロッパを知りましょ!

「らいおんハート」の意味とは?イギリスの王様と英仏の関係

 

コメントを残す

ABOUTこの記事をかいた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。