約130年前、本間 九介(きゅうすけ)という日本人が朝鮮半島を旅行して、その体験を新聞に連載した。
彼は各地を訪ね、さまざまな人の様子を見て、すぐに日本人との価値観の違いに気づき、19世紀末の韓国(朝鮮)は「種族・階級の折り目がきちんとした国にあっては、言語でも、おのずと階級が存在するのは、争うことのできない事実」と指摘する。
たとえば、「来い」という言葉だけでも、自分と相手の身分によっていろんな言い方があり、階級に応じて正しく使い分けないといけない。
当時の韓国では、頭に「カッ」と呼ばれる帽子のような笠をかぶっている人は、笠の無い人より身分が高いとされていた。
だから、30歳でも笠をかぶっていない人は、12歳で頭に笠のある子どもより地位が低いため、「僮(しもべ)」と呼ばれ、格下として扱われていた。
韓国社会では身分による上下関係が厳しく定められていて、自分より地位の高い人には目に見える形で敬意を示すことが重要とされていた。
日本人から見ると、そんな態度が印象的だったようで、本間はこう書いている。
「高貴な人の前では、必ず笠を戴かねばならず、座るように命じられないかぎり、話すときも立ったままでなくてはならない。」
身分の高い人の前でタバコを吸うことはとても失礼な行為になるから、すぐに後ろに隠さないといけない。
同じ人間でも格好や態度が違うから、外国人でも両者の身分の違いがわかるという。
韓国人はそんな上下関係を重んじる自国を「礼義の国」と自慢げに言っていたらしいが、本間は「これは虚礼(うわべの礼)であって、実礼(本質的な礼)に乏しい」ように感じた。
朝鮮の伝統的な笠子帽の「カッ」
現代の韓国では、「カッ」はコスプレの道具になって身分制度も無くなった。
でも、儒教の考え方の影響は残っていて、年齢による上下の区別は厳しく守られている。
韓国情報サイト『みんなが知りたい韓国』では、日本の社会でも上下関係はあるけれど、韓国ほど徹底されていないため、「何も知らずに韓国に行くと非常識と思われかねません」と注意を呼びかけている。
(韓国で上下関係が厳しい理由は儒教があるから?年上へのマナーまとめ!)
先月、サッカー・アジア杯で韓国代表で「下剋上事件」が発生した。
準決勝の前日に、李康仁(イ・ガンイン)選手らが卓球を楽しもうとしたところ、主将の孫興慜(ソン・フンミン)選手が怒り、それを止めさせようとする。
イ選手はそれに“逆ギレ”し、一部報道によるとソン選手に殴りかかり、指を脱臼させた。
上下関係が厳格な韓国で、10歳ほど上の先輩、しかもチームの主将に逆らってケガを負わせるというのは出来事ではなく、これは事件だ。
この事件の背景として、ある韓国メディアは文化の違いを指摘した。
イ選手は子どもの時からスペインで育ち、ヨーロッパ的な平等な人間関係に慣れていたから、韓国の厳しい上下関係に適切に対応できなかったという。
この事態が明るみになると、韓国社会はすぐに沸騰した。
イ・ガンイン選手に対して、「国籍を捨てろ」「卓球選手になれ」というのがマシに見えるほど厳しいコメントが殺到し、イ選手がモデルをしているグッズの不買運動まで起きた。
イ選手はその後、イギリスにいたソン選手を訪ねて直接謝罪して許しを得たり、SNSに謝罪文を載せたりして、国民に許しを願った。
そして先日、試合のために帰国したイ選手は再度、腰を90度に曲げて頭を下げ、「失望させて本当に申し訳ない」と正式に謝罪する。
ここまでして、韓国国民はようやくイ・ガンイン選手を許した、ということにはならなかった。
中央日報の記事(2024.03.21)
<サッカー>国民に謝罪した李康仁…「本人は恥を理解しているのか」と批判も
イ選手の謝罪に対して、韓国のネット上では、
「謝罪する姿がどれほど恥ずべきことか本人は理解しているのだろうか」
「具体的な問題には触れずあいまいに済ませた」
「申し訳ないの一言で終わらせるには、本人がつぶしたものがあまりにも多い」
「インタビューで孫興慜に対する直接的な謝罪はなかった」
といった批判コメントが相次いだという。
日本のネット上では対照的に、イ選手に同情する人が多かった。
・ここまで大事になるとはなあ。
・若気の至りで許してあげればいいのに
・そもそも本人と和解済みなのにこれ以上どうして謝る必要があるのか?
・どこまで叩けば気が済むの?
・イガンイン、かわいそう。
行き過ぎた儒教は、息が詰まる。
日本人の基準からすると、100年以上前でも現在でも、韓国社会では上下関係が厳格に保たれている。
だから、そんな価値観を真っ向から否定する「下剋上」は決して許されない。
この文に対しては韓国人である私が理論を提起します。
上の文でも説明したように、朝鮮は徹底した身分社会でした。全国民の約8~10%程度の両班が残りの90%の平民以下の国民を支配し搾取する社会でした。
現在、大邱に所在する慶北高校の前身である大邱高普の初代校長を務めた高橋亨という人がいました。彼が書いた本「朝鮮人」は朝鮮人の性格や生活ぶりを詳しく描写しています。その本を見ると、大邱近郊の清道に住む剣を作る職人の話があります。その剣を作る人は文禄·慶長の役の時に日本の武士たちも感心したほど、立派な剣を作る人の子孫でした。しかし、彼は両班の搾取に耐えられず、自ら自分の右腕を切り捨て、剣を作ることをあきらめました。いくら名刀を作ってお金を稼いでも、両班に全部奪われるからです。朝鮮の両班階級は平民以下の人々を勝手に搾取し、虐待しても処罰を受けませんでした。文禄·慶長の役当時、加藤清正の部隊には奇妙なことが起こりました。 部隊が進軍するたびに兵士の数は増えたからです。理由を調べてみると、朝鮮の迫害を受けた賤民が加藤の部隊に合流したからです。それだけ朝鮮は両班が平民以下の民を蔑視し、虐待した徹底した身分制社会でした。
しかし、イ·ガンインとソン·フンミンの間で起こったことに対する韓国人の反応を朝鮮の身分制度と関連して説明するのは適切な比較ではありません。これは身分差の問題ではなく、先輩後輩間の問題です。もし昨年あったWBCで、大谷翔平がチームメンバーを集めて出戦SPEECHESをすると、後輩の村上宗隆が「あなたはスピーチをしなさい。 私は飲みに行く」と席を離れたら、日本のファンは気分がいいのでしょうか?
先輩と後輩間の基本的礼儀は韓国より日本の方がもっと厳しいと知っています。 そして、それは美しい秩序だと思います。
説明が足りず、失礼しました。
コメントをいただいて、「現代の韓国では身分制度は無くなった」という文を加えました。
ただ、日本人の観点では、年齢による上下の区別は韓国の方が厳しいと思います。
> これは身分差の問題ではなく、先輩後輩間の問題です。もし昨年あったWBCで、大谷翔平がチームメンバーを集めて出戦SPEECHESをすると、後輩の村上宗隆が「あなたはスピーチをしなさい。 私は飲みに行く」と席を離れたら、日本のファンは気分がいいのでしょうか?
気分がいいも何も、「変わった奴だな、大谷翔平が嫌いなのか?」と思うだけでしょ。
そもそも多くの日本人は、大谷翔平と村上宗隆が先輩後輩の関係にあるかどうかさえ知らないし、気にもしませんよ。私もそうです。彼らはチームメイト(同僚)であるが、同い年とは限らない、ただそれだけです。