毒ガス攻撃と聞けば、日本人なら「サリン」という言葉、というか悪夢が頭に浮かぶ人も多いはず。
1994年にオウム真理教によって、世界で初めて化学兵器を使った無差別テロが起こり(松本サリン事件)、7人が亡くなった。そして翌1995年には、東京で「地下鉄サリン事件」を起こし、14人の死者と5500人以上の負傷者を出した。
毒を使って人を殺すという発想は古代からあり、例えば古代ギリシャ神話には、英雄ヘラクレスがヒドラの猛毒を矢に塗って使っていたと書かれている。
西洋で、有毒兵器に関する記述はこれが最古のものだ。
歴史的に見ると、戦争で初めて毒が兵器として使用された例は、紀元前5世紀のペロポネソス戦争で、スパルタ軍がアテネを中心とするデロス同盟に対しておこなった攻撃とされる。
第一次世界大戦でイギリス軍が作った塹壕(ざんごう)。
1915年のきょう4月22日、第一次世界大戦中のベルギーのイーペルにおいて、ドイツ軍が初めて本格的な毒ガス攻撃をおこなった。
この攻撃を受けたフランス軍の兵士たちは叫び声を上げ、血を吐いたり地面を転げ回って苦しんだりする者もいたという。
なんでドイツ軍はこんな悪魔のような作戦を実行したのか?
第一次世界大戦では、敵の銃撃から身を守るために穴を掘って塹壕を作り、そこに隠れて戦う塹壕戦が展開された。その結果、お互いに身動きが取れなくなってしまう。
この膠着状態を打開するため、後に「化学兵器の父」と呼ばれるドイツの化学者フリッツ・ハーバーが毒ガスを使った攻撃を提案する。
空気より重い塩素ガスが向かってきたら、塹壕にいても無意味。そして塩素ガスを吸った人間は、全身の組織を破壊されていく。
息を吸ったら死ぬという絶望的な状況に直面し、連合軍の兵士たちは何もできずに死んでいった。
4月24日にドイツ軍が毒ガス攻撃をおこなった際、カナダ軍では、ハンカチにおしっこをして、それを鼻と口に当てるように指示が出されたという。
Word was passed to the troops to urinate on their handkerchiefs and place them over their nose and mouth
効果的なガスマスクが支給されるまで、連合軍は塩素ガスに対して、この程度の対策しかできなかったのだ。
その後、さらに強力な毒ガスが開発&使用され、第一次世界大戦では民間人を含め、約130万人が犠牲になったと考えられている。
「化学兵器の父」と呼ばれた化学者フリッツ・ハーバーは、後にノーベル化学賞を受賞したから不思議。
皮肉なのは、ユダヤ人のフリッツ・ハーバーが毒ガス「ツィクロンB」を開発し、第二次世界大戦時には、それによってユダヤ人が大量虐殺されたこと。
西部戦線で、ガスマスクを着けているイギリス兵のサッカーチーム(1916年)
そこまでしてサッカーをしたい?
日中戦争で日本軍の兵士が防毒マスクを着け、突撃命令を待っている。
> 「化学兵器の父」と呼ばれた化学者フリッツ・ハーバーは、後にノーベル化学賞を受賞したから不思議。
それは、彼の化学工業における業績があまりにも偉大であったからです。フリッツ・ハーバーと共同研究者のカール・ボッシュは、窒素と水素から工業生産規模でアンモニアを合成する方法(ハーバー・ボッシュ法)を発明しました。N2+3H2→2NH3 2人はこの業績によりノーベル化学賞を受賞したのです。昔は高校の化学の教科書にも出ていましたが、今はどうかな?
ハーバー・ボッシュ法により窒素化学肥料が大量に工業生産できるようになって、食糧難に陥りかけていた世界は救われました。結果、20世紀後半からの爆発的な人口増大が起きるに至ったのです。
食料は化学肥料の発明によって、またエネルギーは石油化学と原子力によって、人類文明は困難を次々突破し地球上で発展し続けてきました。この先に控える課題も賢く乗り越えて行けるといいのですが。
まぁ、そうなんですどね。
ただ、当時も倫理的な観点から、彼には批判が噴出していました。