ヨーロッパ人がスパイスを求めた理由は、“肉の保存”じゃない

 

きょう5月20日は、1498年にポルトガルのヴァスコ・ダ・ガマがインド西岸のカリカット(コーリコード)に到達した日。
ガマがヨーロッパからインドまでの航路を確立したことによって、ポルトガルが繁栄する土台が築かれた。
これと1492年のコロンブスによるアメリカ大陸の「発見」は、大航海時代を象徴する出来事となる。

ヴァスコ・ダ・ガマが危険を冒してまでインド航路を開拓した理由は、当時のヨーロッパ人がスパイスを強く求めていたため。
スパイスはアラブの商人を通じて購入していたから、ヨーロッパ人にとってはかなり貴重な高価なものだった。
しかし、ガマがインドに到達したことで、ヨーロッパ人は中間業者であるアラブ人をすっ飛ばし、インド人から直接スパイスを購入することが可能となった。
アラブの商人たちにとっては、経済的な大打撃となっただけではなく、ヨーロッパ人の攻撃を受け、多くの人が殺された。
ガマのインド航路「発見」は、アラブの商人にとっては地獄の扉が開かれたようなもの。

 

ヴァスコ・ダ・ガマ

 

当時、ヨーロッパの人たちがスパイスを欲しがった理由は何か?
日本語版のウィキペディアの説明(スパイス)では、中世のヨーロッパ人は肉を内陸まで運んだり、冬に備えて長期保存したりする必要があったため、スパイスを防腐剤として使っていたと書いてある。
これは日本ではよく言わせる説で、さまざまなサイトにも同じ説明が見られる。
当時、ヨーロッパの人たちがスパイスを欲しがった理由は何か?

しかし、英語版ウィキペディアの説明(Spice)はまったく違う。
スパイスは食品を保存したり、腐敗した肉の味を隠したりするために使われたと主張されることが多いが、「これは誤り(This is false)」、「都市伝説のようなものである(something of an urban legend)」とバッサリ否定しているのだ。
中世・近世のヨーロッパでは、以下の目的でスパイスが使われていたという。

・肉料理に風味付けや味付けをするため。
・スパイスには薬効があると信じられ、健康を維持するためにスパイスを摂取していた。また、中世のヨーロッパでは疫病がよく発生していて、スパイスはそれにも効果があるとされた。
・スパイスはとても貴重で高価だった。
たとえば、15世紀のオックスフォード(イギリス)では、最も安いスパイス1ポンド(約0.454キログラム)の値段は豚一頭と同じ。
そんなスパイスを消費することは、富と社会階級の象徴となった(a symbol of wealth and social class)。

イギリスBBCの「How spices changed the ancient world」にも同じことが書いてある。
中世のヨーロッパ人はスパイスによって、肉料理に味を付けることができ、単調な食生活から解放された。
また、スパイスは高い社会的地位の新たなシンボルとなったと説明されている。
(in Europe they became a new symbol of high social status)
肉を保存するため、なんてことは一言も書かれていない。
しかし、日本ではその「urban legend」を信じている人が多いと思われる。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。