10年ほど前に中国を旅行中、太原という都市を歩いていると、こんな三輪タクシーに遭遇して心臓が飛び出るかと思った。
「小日本」(シャオリーベン)は日本に対する蔑称で、中国で反日運動が盛り上がった時によく使われる言葉だ。
中国では儒教の影響から、相手を自分より「上か下か?」で見る傾向があり、この場合、「小」を付けることで日本を見下すイメージが生まれるらしい。
2012年に尖閣諸島をめぐる争いから、中国の各都市で激しい反日デモや暴動が発生し、日本の自動車メーカーの販売店が破壊されたり、日系のスーパーが襲われ、商品を略奪されたりした。
中国人が乗っている日本車も破壊され、暴徒は完全に理性を失っていた。(2012年の中国における反日活動)
そんな時に行われた反日デモで、参加者がよく叫んでいたのが「打倒小日本!」だ。
でも、そんな反日の嵐もおさまり、それまで中国を旅行していて、険悪な雰囲気は1ミリも感じなかったから、こんなステッカーを貼った三輪タクシーを見て思わず足が止まった。
このとき中国人の日本語ガイドもいて、「まだこんなものを貼ってる人がいるんですね。これは意外」と驚いていた。
「油断してましたけど、これヤバくないですか? 中国ではまだ、日本を憎んでいる人がけっこういるんじゃないですか?」と聞くと、ガイドは「それはないですよ〜」と一蹴する。
ガイドが言うには、このドライバーは政治的主張をしたいのではなく、「愛国心」をアピールしたいだけ。それを見て、「よし、気に入った! これに乗ろう」と客に選んでもらう。要するに、カネを稼ぐための愛国ビジネスだ。
「だから、きっとあなたが乗っても問題はないです。ドライバーは急いで『打倒小日本!』の上に布をかぶせますよ」
とガイドは笑って言うが、試してみる気にはなれなかった。
さて、いま日本のネット上では、中国人に対する不満や怒りどころではなく、侮辱語や差別語が乱れ飛んでいる。
その理由は、先日、ある中国人が靖国神社に石柱に「トイレ」と英語で落書きし、放尿するようなしぐさを動画で撮影し、中国のSNSにアップしたからだ。
日中戦争について、中国人が怒りを感じるのは仕方がないとしても、このやり方はあり得ないし、許されない。
越えてはいけない一線がスタートラインになっている。
犯人はすでに中国に逃亡していて、メディアのインタビューに応じ、「やるべきことやった」堂々と話している。
各メディアの報道によると、コイツは中国の迷惑系インフルエンサーらしい。
SNSに動画をアップし、愛国主義者としての自分をアピールして注目を集め、動画の再生数アップにつなげようと考えたと思われる。
発想は「打倒小日本!」とステッカーを貼ったドライバーと同じで、おそらくこれも政治的な主張ではなく、ネットユーザーに「よし、気に入った! チャネルを登録しよう」と思ってもらうための愛国ビジネスだ。
だとすると、コイツが注目されることは、知名度アップに貢献することになってしまうが、スルーするわけにもいかないから、扱いが難しい。
これで「稼げる」と分かると、きっと模倣犯が現れる。
逆に、コイツにとって大きなマイナスになれば、それを防止できるのだろうけど、もう中国に戻ってしまったからたぶん無理。
あちらでは、理性的な人たちは批判しているが、ネットではちょっとした“英雄”になっている模様。
反日感情を利用した愛国ビジネスは、中国では昔からノーリスク・ハイリターンを期待できる。
だから、また不幸なことが起こる予感がする。
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