【文化の違い】英国人が日本の“だし巻き卵”に怒ったわけ

 

「YOUは何しに日本へ?」と聞かれたら、「もちろん、本場の和食を食べるためさ!」と答える外国人旅行者は多い。
世界的に有名なガイドブック『ロンリープラネット』には、「日本旅行の楽しみの半分は、日本の料理を食べること」と書いてある。
もし、母国で日本料理を食べていたとしても、日本で食べる日本料理は違う。そのおいしさにあなたはきっと驚くだろうという。

 

 

しかし、日本と外国では文化や常識が違う。
人権や自由といった抽象的な概念だと、その違いがわかりにくいけれど、食文化なら、目・鼻・舌ですぐに違いを感じられる。
「うわっ。超うまそう!」って思って食べてみたら、実は罰ゲームだったという経験は海外旅行ではよくある。
今回は、最近 SNSで知った話を紹介しようと思う。
あるイギリス人が日本へやって来て、和食を食べたらカルチャーショックを受けて、とても不快に感じたらしい。
その理由は味じゃなかった。

 

ある日、京都にある高級料亭にイギリス人観光客(おそらく年配の男性)が訪れた。
彼は席に座るとメニューを見て、だし巻き卵を注文する。
しばらくすると、亭主が作っただし巻き卵が出てきて、そのイギリス人が口に入れると、「ワオ! これはふわっふわで最高だ!」という反応が返ってくることはなく、

「なんだこれは! 冷たいじゃないか。こんなものを客に出すなんて信じられない」

と怒られた。
亭主は「この“ジャパニーズ・オムレツ”は、冷えたまま提供することもあるんですよ」と説明すると、彼は、

「Omeletteなら、温かいものを出すのが当然だ。どんなに安いホテルでも、冷めた Omeletteを出すところはない!」

とさらに怒りがエスカレートしてしまった。
亭主は「もう何を言っても無駄」とあきらめて、「申し訳ありませんでした」と頭を下げて事態の収拾をはかった。
日本では自分が悪いと思っていなくても、面倒ごとを避けるために謝ることがあるが、欧米では「謝罪した=相手が非を認めた、自分は正しかった」という認識があるせいか、彼はそれ以上、何も言わなかったという。

亭主は状況や相手の考え方を冷静に理解し、自分の対応を変えることができた一方で、このイギリス人は最後まで、「オムレツ=あったかいもの」という西洋料理の常識を崩さなかった。
和食には冷たいオムレツがあって、それを客に出すことはまったく問題ない。
しかし、彼はそれにカルチャーショックを受けて、自分の見方を変えることができず、激しい拒否反応を示した。
このイギリス人は「負けるが勝ち」という日本の考え方も知らなかったはず。

 

この一件について、日本に3年以上住んでいるイギリス人女性に意見を聞くと、彼女はこんなことを言う。

「日本の料亭が間違った日本料理を出すわけないじゃん。それは、和食に対する知識のないイギリス人が悪い。でも、頭が固くて、新しい発想を受け入れられないお年寄りなんてどこの国にもいるでし、どんな店にも“運の悪い日”があるでしょ。でも、英語の案内を用意しておけば、これからはこの手のトラブルは避けられる」

たしかに店員に理不尽なことを言って、土下座謝罪を要求するモンスターカスタマーに比べたら、このイギリス人は紳士的だった。

彼女はつづけて、「言葉の違い」を指摘した。
亭主が「Omelette」という英語を使ったから、イギリス人のもっていた固定観念をよけい強めてしまったかもしれない。もし、「これは Dashimakiです」と言ったら、彼はちょっと意表をつかれて亭主の説明をもっと尊重したかもしれない。
亭主は分かりやすいように英語を使ったと思う。
でも、もしそう言っていたら、イギリス人の客も「Omeletteは温かいのが常識だが、Dashimakiはそうじゃないのか」と納得した可能性はある。

おもてなしの精神が、かえって事態をややこしくさせたかもしれない。
文化が違うと丁寧な説明が燃料になってしまい、さらなる炎上を招くこともある。
言葉の違いは昔から、カルチャーショックを生み出す大きな要因だ。

 

 

日本 「目次」

ヨーロッパ 「目次」

【東西のウナギ】イギリス人・日本人が互いに驚いたワケ

今も昔も外国人が感心する、日本人の「ゆずり合い精神」

【すべて逆転】イギリス人からみた日本の時間感覚と鉄道

日本人の食文化:江戸は犬肉を、明治はカエル入りカレーを食べていた

 

2 件のコメント

  • > 「Omeletteなら、温かいものを出すのが当然だ。どんなに安いホテルでも、冷めた Omeletteを出すところはない!」
    なるほど。言われてみれば確かにその通りです。
    そもそも欧米で「冷えた卵料理」って見たことがありません。って言うか、和食に比べて洋食では基本的に「冷たい料理」って無いのでは?「冷製パスタ」って現地にもあるのかな?

    これと同じような経験を、スキー宿へ一緒に行ったアメリカ人から聞いたことがあります。彼は、宿の朝食のおかずが生卵と納豆だけだったことに驚き、「日本の田舎は都会と違って何と貧乏なんだ!」と呆れていました。(だからHotelじゃないって、あれほど言ったのに。)

  • >和食に比べて洋食では基本的に「冷たい料理」って無いのでは?
    ドイツ人にその質問をしたことがあります。常温のパスタサラダなどがあるくらいで、和食に比べるとかなり少ないな、と思いましたよ。

  • コメントを残す

    ABOUTこの記事をかいた人

    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。