【玉虫色】日韓双方に不満が残った、佐渡金山の世界遺産登録

 

日本には昔から「タマムシ」がいて、世界最古の木造建築物といわれる法隆寺には、この虫の羽が飾りに使われている国宝の「玉虫厨子(たまむしのずし)」がある。
タマムシは光の当たり方によって見える色が変わり、緑や紫になる。タマムシは特定の色を持たない不思議な虫だ。
それで、見る人によってさまざまな解釈のできる表現を「玉虫色」と言い、どちらが勝者か敗者か分からない終わり方を「玉虫色の決着」と言う。

 

先日、新潟県の『佐渡島の金山』が世界文化遺産に登録されることが決まり、地元の人たちが祝杯をあげて歓喜した。
これを実現するまでに、超えないといけなかったのが「韓国の同意」という高いハードル。
韓国側は戦時中、佐渡島の金山で朝鮮人が国際法違反の「強制労働」をさせられていたと主張し、それを明記することを求めていた。
しかし、日本では、戦時動員が国際労働機関(ILO)条約の禁じる強制労働には当たらないとし、2021年に「強制労働には該当しない」という答弁書を閣議決定している。
韓国側では、これをナチス・ドイツが収容所でユダヤ人にさせていた強制労働と同一視する人もいるが、その指摘はまったく違う。
日本では、朝鮮人労働者に給与が支払われていたのだから。

 

日韓とも、戦争中に朝鮮半島出身の労働者がいたことは認めているが、その見方はまったく違う。
韓国は「強制労働の事実を否定するな」と要求するが、日本としてはなかったことをあったと認めることはできない。
しかし、双方がいつまでも対立していたら、『佐渡島の金山』が世界遺産になる日はこない。

そんなことで日韓がギリギリまで交渉をつづけた結果、日本が佐渡島の金山で朝鮮人労働者が過酷な労働をしていたことを示すパネルを展示することなどを約束し、韓国との合意にこぎ着けた。
日本は「強制労働」という言葉を使っていないし、それを認めてもいないが、韓国側からは「強制性があった」と解釈することができる。
日本が韓国の解釈の仕方については、基本的には口を挟まない。

まさに正反対の理解のできる「玉虫色の決着」となったわけだ。
だから、すぐに双方から不満が出てきた。

韓国にとっては最重要ポイントを外されたことになるから、朝鮮日報は社説で、国内で噴出する政府への批判を取り上げた。(2024-07-29)

「朝鮮人労働者」関連の展示物を作った佐渡金山、世界遺産に登録決定…「強制労働」とは明記せず

ハンギョレ新聞は韓国政府の精神状態を問題視する。(2024-07-29)

まともな精神状態にある政権であれば、このような状況では、日本が強制動員の歴史を否定するかぎり佐渡鉱山の世界遺産登録はありえないという厳しい忠告をするのが当然だ。

強制動員の明示もなしに佐渡鉱山の世界遺産登録を承認した韓国政府

 

一方、日本では、産経新聞が社説で韓国の主張を「事実に反する」と一蹴し、日本政府の対応を批判した。(2024/7/28)

日本が世界遺産に推薦した佐渡金山の文化的価値は江戸時代までだ。戦時中の事柄に関する展示は、そもそも不要だろう。

佐渡金山遺産登録 朝鮮出身者の展示不要だ

 

韓国政府としては、「強制労働」の明記なしに佐渡金の世界遺産登録を認めると、メディアから「異常な精神状態にある政権」と批判されてしまう。
かといって、日本政府が存在しないものを認めることはできない。
日韓ともに譲れない部分があるから、「玉虫色の解決」になるしかない。

日本のメディアには、これを「日韓友好のあらわれ」と歓迎するところもある。
しかし、現在の尹政権は日本に理解があるからいいとしても、次に文大統領のような「反日強硬」の大統領が誕生したら、「強制労働」がまた問題化する予感しかない。
今の友好が嵐の前の静けさにならないことを願う。

 

 

近くて遠い日本と韓国 「目次」 ①

近くて遠い日本と韓国 「目次」 ②

近くて遠い日本と韓国 「目次」 ③

徴用工訴訟 韓国の言う「肩代わり(求償権)」という地雷

【不都合な過去】徴用工問題で文大統領が決してふれないこと

 

1 個のコメント

  • > 佐渡島の金山で朝鮮人労働者が過酷な労働をしていたことを示すパネルを展示する

    いいんじゃないですか、それで。
    ただし過酷な労働をしていたのは朝鮮人だけじゃなく日本人もいたこと、全労働者の中で朝鮮人は少数派であったこと、また朝鮮人も日本人もその労働に見合った給料をもらっていたことも、ハッキリ展示してほしいですね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。