オーストリア人の話 日本の好き/嫌いな都市、コアラなど

 

先日8月5日は「カウラ事件」が起きた日。
太平洋戦争中だった1944年のこの日、オーストラリア南東部のカウラにあった捕虜収容所で、旧日本軍の兵士が集団で脱走を図り、監視の兵士に射殺されるなどして231人が死亡した。
毎年この日になると、現地で慰霊祭が行なわれるが、日本でこの事件を知る人はかなり少ないと思う。
現在では、こんな不幸な歴史を繰り返させないため、東京とカウラ市の高校生が交流(交換留学)をしている。

今回は日豪を理解するために、日本が好きなオーストラリア人女性から聞いた話を紹介しよう。
彼女は日本語を学んで関西の大学に留学し、日本で数年働いた後、今は母国に戻って生活している。

 

ーーちわっ。最近は何かあった?

ちわっ。最近、シドニーからメルボルンへ引っ越してん。
オーストラリアの首都って、シドニーからメルボルンのどっちか分かる?

ーーおっと、そのトラップには引っかからない。
答えはどっちも違う。オーストラリアの首都はキャンベラで、最大の都市がシドニー。

半分引っかかってるじゃん。
首都はそれでいいけど、最大の都市はシドニーじゃなくて、今はメルボルンなんだぜ。

*2023年にメルボルンの境界が変わり、人口は約580万人になってシドニーを上回ったから、目下オーストラリア最大の都市はメルボルンになる。

 

ーーあなたが日本を旅行して、良かった、または残念だったところってある?

私は日本の文化や伝統に興味があったから、京都が好きじゃなかった。
京都は古都で日本の文化や歴史の中心だから、すごく期待して行ったら、観光客のためにつくられ過ぎている感じがして、気分が冷めちゃった。
特に、八坂神社から清水寺のあたり。
あの辺は特に伝統的な町並みが見られると聞いていたけど、実際に行ってみたら、たしかにそんな雰囲気は感じさせたけど、それ以上に、観光客の目を意識してキレイに整い過ぎている感じがした。
私は関西の大学に通っていたから、京都には何度も行ったことがある。中には、「ここ良いな」と思うスポットもあったけど、京都は全体的に観光化されていて、結局好きになれなかった。

ーー京都に行った外国人から、古都の雰囲気を感じられなかったという感想は珍しいというか、初めて聞いたかも。
中国人に京都の印象をたずねると、「唐王朝の雰囲気を感じた」
と言う人が多いのに。

私にとっては、奈良の方が「古都」のイメージに合っていた。
外国人観光客が少なくて、静かでのんびりした雰囲気があったし、ヒトとシカと共存していることも昔っぽかくて良かったな。

ーーボクは京都の大学に通っていたから、京都人のことはある程度わかる。
京都人は自信や誇りを持っていて、よそ者が京都に来ることを「上洛」、自分が東京に行く時は「東(あずま)下り」と言う人もいた。
「シルクロードの終着点は奈良(正倉院)」という言葉もあるくらい、奈良には長い歴史がある。日本最古の歌集『万葉集』が生まれのたのも奈良だし、京都人にとって奈良は「目の上のタンコブ」だと思う。

*奈良のビミョウな立ち位置に興味のある人は、無責任なおしゃべりが見られる「奈良」を見てくれ。

 

ーー奈良ではシカにせんべいをあげた?

もちろん! それが、奈良へ行った目的の半分だったから。
せんべいをもらう時、シカが軽くおじぎをしたのが超かわいかった。日本ではシカも礼儀正しくなるんだね。

ーーあれは「おい人間、早くそのせんべいをよこせ」という催促で、じらされると、シカが怒って人間にケガをさせることがあるらしい。

 

 

オーストラリアでは、カンガルーにエサをあげる体験が人気。
あと、コアラを抱っこして写真を撮るのも人気で、日本人観光客がよくやっている。

ーーそれ、日本人がオーストラリア旅行でするド定番のやつだ。
でも、人間に抱っこされるのは、コアラにとっては精神衛生上、良くないって聞いたことがあるのだけど。

せやね。
人間にとっては癒やしだけど、コアラにとってはストレスがたまって心身に悪い影響が出るみたい。それで、オーストラリアの中でもコアラの抱っこを禁止している州もある。

*直近では、ブリスベン郊外にある世界最大のコアラ保護区で、2024年7月1日から「コアラ抱っこ」が禁止された。
ちなみに、「コアラ」は先住民の言葉で「飲まない」という意味に由来する。実際、コアラは一般的にユーカリの葉から水分補給をしているのだ。(Koala

 

ところで、なんで奈良の鹿は野放しにされてるの?

ーーあの公園の近くに春日大社がある。
そこの神さまが昔、
白鹿に乗ってやってきたという言い伝えがあって、鹿は神鹿(しんろく)と呼ばれ、現代では「神の使い」として大切にされるようになったわけだ。
コアラにもそんな「神の使い」的な伝承はある?

オーストラリアへやって来たヨーロッパ人はキリスト教徒だったから、彼らの間ではそんな特別な話は無い。コアラはただの珍しい動物でしかない。

ーーそっか。アメリカ人もそんなことを言ってたな。
彼女にお稲荷さんの使いのキツネについて話したら、「そういう神の使いは、キリスト教の世界では天使になる」と話していた。
動物が神の使いになるという発想は、キリスト教やイスラム教では無さそう。

でも、アボリジニにはいろいろな部族があって、コアラを食べていた部族もあれば、神格化していた部族もあったという話は聞いたことがある。

ーーなるほど。
神道は、6世紀に仏教が伝わる前から日本にあった古代信仰だから、アボリジニの信仰と似ている部分は多いかも。少なくとも、キリスト教よりは。

 

コアラは世界的な愛されキャラなのよ。
これまでにイギリスの女王、日本の天皇、ローマ法王、そのほか世界各国の首脳がコアラを抱っこをして写真を撮った。
中国の「パンダ外交」みたいに、コアラがオーストラリアと各国の友好のかけ橋になっていることから、「コアラ外交」と呼ばれることもある。

ーー奈良の鹿には、そこまでのブランドパワーは無いかな。
でも、日本の場合は、世界各国に桜を輸出する「桜外交」ならある。前にリトアニア人やハンガー人から、「うちの国にも桜がある」と聞いて意外に思ったら、それは日本から贈られたものだった。
桜は本当に良い仕事をしている。

*不幸な事件があったカウラにも日本の桜の木が植えられ、今では春になると「サクラ・マツリ」が開催される。

 

おまけ

最後に、あるアボリジニの部族に伝わるこんな話を紹介しよう。

むかしむかし、その部族にはいじめられっ子だった少年がいた。平等に分け与えられる水さえ、彼はもらうことができなかった。
(現代のアメリカ社会なら、きっとその少年は復讐の鬼となって銃をぶっ放す。)
ある精霊がそんなかわいそうな彼を見て心を痛め、少年をコアラの姿に変えた。すると、コアラは精霊の力を得て水を飲む必要がなくなり、今のように木の上で暮らすようになったという。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。