インドを旅行中、よく飲んだのが「サムズアップ」。
これはマサラ(ミックススパイス)が入っていて、炭酸がやや強めなインド版コーラのこと。
「Thumbs(親指)」を上げるこのジェスチャーは、日本や世界の多くの国で「よくやった!」という好意的な意味を示し、SNSでは「いいね」を表すときに使われる。
*インドの「サムズアップ」はユニークな名前にするため、販売時に「Thumbs up」から「b」が消された。
では、さっそく本題に入ろう。
「サムズアップ」の由来は、古代ローマの剣闘士の闘いにあったという話を信じている人はいないだろうか。
古代ローマの剣闘士
古代ローマ時代、多くの都市にたくさんの観客を収容できる円形闘技場がつくられ、そこで剣を持った2人の戦士、または戦士と猛獣が戦うショーが行なわれていた。
彼らは文字どおり命と命をかけて戦い、少年ジャンプ風に言うと「死合い」をしていた。
死闘を繰り広げた彼らを遣唐使、いや剣闘士(グラディエーター)という。
これは、ローマ軍の武器だったグラディウスという剣に由来するのだけど、日本ではシューティングゲームで有名かも。
剣闘士どうしが戦ったあと、敗者が奮闘して観客を満足させた場合、観客は親指を上げて「助けてやれ」という意思を表し、反対に失望させた剣闘士には親指を下に向け、「殺してしまえ」という意思を示した。
剣闘士はその反応を確認すると、地面に横たわる敵にトドメを刺したり、それをしないで去っていったりした。
このことから、現代で「サムズアップ」は「よくやった」という称賛や「いいね」という共感を意味するようになった。
サムズアップの由来を調べると、よくこんな説が出てくる。
しかし、これは歴史的な事実ではない。
トラと戦う剣闘士
こうした海外の文化については、英語版ウィキペディアの説明が信頼できるので、ここではそれをソースに採用しよう。
それによると、ラテン語の「pollice verso」というフレーズは、古代ローマの剣闘士の闘いで、敗れた剣闘士に観客が審判を下すためのジェスチャーに使われたという。
*「pollice verso」はおそらく親指を下に向けるの意。
The Latin phrase pollice verso is used in the context of gladiatorial combat for a hand gesture used by Ancient Roman crowds to pass judgment on a defeated gladiator.
この際、観客たちが親指を使ったジェスチャーをしたことは間違いないが、それが具体的にどんなジェスチャーで、何を意味したのかは判明していない。
だから、親指を上げることは「殺せ」、下に向けると「助けてやれ」を意味したと主張する歴史家もいる。
観客の反応を見る剣闘士
「サムズアップ」をするイギリスのトラック運転手(1940年)
「サムズアップ」が現代のようなポジティブな意味を表すようになったのは、20世紀に入ってからだろう。
まず第一次世界大戦時、イギリス軍のなかで、親指を上げるサインは「すべて順調」を表したという記録がある。
第二次世界大戦では、戦闘機に乗ったアメリカ軍のパイロットが空母から離陸する直前、地上要員に親指を立てて出撃準備ができたことを知らせ、地上要員が車輪止めを外した。それが習慣となり、アメリカ人の間でこのサインが広まったとされる。
一説によると、この起源は日中戦争でアメリカが中国を支援した合衆国義勇軍(フライング・タイガース)にある。
中国人が感謝や敬意の気持ちを表す際、「あなたが一番」という意味で親指を立てるジェスチャーをしていて、それがフライング・タイガースに伝わり、米軍内で一般的になっていったという。
ただ、この説は英語版ウィキペディアで「要出典」となっているため、確実な根拠はない模様。
戦後、アメリカ軍の使い方が世界に広がり、現代のような良い意味で使われるようになった。そして、誰かがその由来を古代ローマにあった「それっぽい動作」に求めた。
話としては、そのほうが面白いから。
「サムズアップ」が広がった経緯はそんなものだったと思う。
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