【政教分離】日本とドイツの宗教・歴史・社会の違い

 

ドイツ人の友人と話をしていて、「そんなの日本じゃ聞いたことないゾ」と印象的に思ったのは、彼が「公的に」キリスト教徒をやめたこと。
彼は赤ん坊だったころ、教会で洗礼(聖水にふれて罪を消し、神の子となる)を行ってカトリック教徒になった。
日本なら、一般的には家の宗教がそのまま自分の宗教になって、七五三で神社へ行って神様に感謝したり守護を願ったりする。つまり、仏教徒や神道の信者になるための特別な儀式はなく、“何となく”そうなる。

ドイツ人の彼の場合、洗礼をすることで、国(それか州)にカトリック信者と正式に登録されたらしい。その関係で、サラリーマンをしている彼は毎月、給料から教会税を払わないといけなかった。
ドイツでは教会税を払っていれば、教会で結婚式を挙げることができる。だから、日本のように、無宗教や仏教徒の人間が教会で挙式を挙げるような“暴挙”は許されない。
いま20代後半の彼は神を信じているけれど、キリスト教は信仰していないし、毎週日曜日に教会へ行くこともない。
自分は実質的には無宗教なのに、教会税(所得税の約9%)を払いつづけることは無意味だと考え、彼はカトリック教徒をやめる決断をした。それで裁判所(か市役所)へ行って、離脱の手続きを行い、公的に「無宗教」となった。
(ドイツにはイスラム教徒や中国系の人もいるから、すべての国民がこの手続きをするわけではない。)

日本では一般の生活と信仰の世界は完全に分離されているから、役所で離婚の手続きをすることはできても、「もう仏教徒をやめたい」というリクエストを受け付ける部署はない。
日本人の常識からすると、公的機関が個人の信仰を扱うことに違和感を感じるのでは?

 

きのう9月23日は、1122年に、それまで対立していた神聖ローマ皇帝とローマ教皇がヴォルムス協約を結んだ日。
当時のヨーロッパの住民は王や皇帝に支配される国民だったが、同時に、キリスト(カトリック)教徒として精神的にはローマ教皇に従属していた。

この世に太陽は1つしかないように、本当の支配者は1人だけでいい。ヨーロッパで王や皇帝がローマ教皇とぶつかるのは、避けられない未来だった。
ドイツ(神聖ローマ帝国)では1075年に、聖職者を任命する「聖職叙任権」をめぐって両者の対立がピークに達した。自分の息のかかった人間を聖職者にすれば、間接的にその地の住民を統治することができるから、この権利はゆずれない。
ドイツ皇帝ハインリヒ4世とローマ教皇グレゴリウス7世が「その任命権は自分にある!」と主張し、最終的にはローマ教皇が伝家の宝刀である「破門」を宣言し、ハインリヒ4世をキリスト教世界から追放した。
民衆や諸侯がローマ教皇についたことで、ハインリヒ4世には、反乱が起きてドイツ皇帝の地位を失う危険がせまる。
この大ピンチを切り抜けるため、彼は「ジャンピング土下座」以上の屈辱的な謝罪を行うことにした。ハインリヒ4世は1077年の1月、雪の降る中ではだしのまま、3日間も教皇のいるカノッサ城の前で断食と祈りをつづけ、なんとか教皇から赦(ゆる)しを得て、破門を解除してもらった。(カノッサの屈辱

しかし、聖職叙任権をめぐる問題は終わらなかった。
教皇サイドと皇帝サイドで話し合いが行なわれ、1122年にドイツのヴォルムスでケリをつける。このヴォルムス協約によって、叙任権はローマ教会にあると、“いちおう”決められた。これはローマ教会に有利な内容で、皇帝に対する優位性やカトリックの権威は増大する。

一方、日本の歴史には、ローマ教皇と皇帝が支配権をめぐって争い、話し合って解決したような事例は存在しない。
あえて言うなら、神道の最高神アマテラスの子孫とされた天皇と将軍の関係がそれに似ている。しかし、日本ではカノッサの屈辱と同じ12世紀に、源頼朝が天皇から政治の権利を奪って幕府を開いた。これは、天皇や朝廷にとっては屈辱的だ。
それで、1221年に後鳥羽上皇が承久の乱を起こし、政権を取り返そうとしたが、鎌倉幕府に返り討ちにされてしまう。
その後、14世紀に後醍醐天皇が「瞬間的に」政権を奪い返したが、それは唯一の例外で、19世紀まで将軍が日本を動かしていた。
仏教勢力では、戦国時代に本願寺や比叡山延暦寺が政治的な野心を抱いたこともあったが、織田信長に叩き潰された。

現在の日本ではドイツのように、公的機関で信者をやめるための手続きをする必要はない。
これも日本はドイツと違って、歴史的・伝統的に政教分離の状態がつづいていたことが原因にあるはず。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。