10年ほど前、日本の英会話教室で英語を教えていたオーストラリア人と話をしていると、彼は日本人の礼儀正しさには惜しみない称賛をする一方で、日本人の一知半解の知識やステレオタイプには不満を言っていた。
たとえば、高校生から大人まで年齢や性別に関係なく、日本人の生徒から、
「感謝祭ってどんな祭りですか?」
「オーストラリア人はサンクスギビングでどんなものを食べるんです?」
という質問をされると、彼は「なんで?」と困惑したり、「またか」とウンザリしてしまうという。
17世紀、イギリスで新しいキリスト教のグループ、ピューリタン(清教徒)の人たちが迫害を受けていて、「もうここに住むのは無理!」と考え、1620年にメイフラワー号に乗ってアメリカ大陸を目指して出港した。
彼らピルグリム・ファーザーズはその年の11月に新天地へ到着する。しかし、待っていたのは地獄だった。
まず、冬が近づく11月は、農作物を育て始める時期としては遅すぎた。
さらに、彼らがイギリスから持ってきた作物はアメリカには合わず、重要な食べ物である小麦が育たなかった。
慣れない環境で食べるものも少なく、最初の1年で多くが病気などで死亡し、先住民の支援を受けてなんとか一定数の人たちが生き残ることができた。
翌1621年に、アメリカに来てから初めての収獲物がとれると、移民たちはそれを神の恵みと感謝したことが現在の感謝祭(サンクスギビングデー)の始まりとなる。
その後、感謝祭は州や教会の指導者によって、それぞれの地でそれぞれのタイミングで行われるようになる。しかし、1789年のきょう10月3日、ワシントン大統領が感謝祭を11月26日を祝うことを提唱し、これが初めて全国的なイベントとなった。
そして、1863年の同じ日、リンカーン大統領が11月の最終木曜日を感謝祭の日に制定し、1841年に米議会がそれを少し移動して感謝祭を11月の第4木曜日と定め、これが現在まで続いている。
ことしの感謝祭は11月28日の木曜日にある。この日には家族が集まって、七面鳥の丸焼きを食べることがアメリカ人のお約束。
カナダにも感謝祭(Thanksgiving Day)はあって同じく祝日になっているが、10月の第2月曜日に行うところがアメリカとは違う。
ということで、オーストラリア人にとって感謝祭は異国のイベントで、自分たちとはまったく関係がない。
ここで話を冒頭のオーストラリア人に戻すと、彼は個人的な付き合いのあるアメリカ人が好きだでも、アメリカという国家は「ごう慢で好戦的」という理由で嫌いだった。
白人の彼は初対面の日本人に勝手に「アメリカ人認定」され、それを前提に話を進められる経験を何度もして、それを不快に感じていた。
彼にとって感謝祭は異国の文化だから、「感謝祭ってどんな祭りですか?」と聞くのは、外国人が日本人に「秋夕(チュソク)ってどんな祭りですか?」とか「日本人は清明節でどんな物を食べるんですか?」と質問するようなもの。日本人がそう聞かれたら、「韓国や中国のことは彼らに尋ねてくれ」と思うのでは?
そのオーストラリア人は感謝祭のことを常識レベルで知っていたから、それについて話をすることができた。しかし、単なる質問ではなくて、「オーストラリア人も感謝祭をしている」という誤解が前提になっていたり、自分がアメリカ文化を説明することには疑問やストレスを感じたという。そんな体験を何度もすると、「またか」とウンザリする。
外国人に不快な思いをさせたことで、初めて自分の前提や先入観が間違っていたことに気づくことはよくある。それは「国際交流あるある」だから仕方ないとしても、新しい知識を得るとそれまでの知識と融合して、勝手な前提や先入観が生まれやすくなることは知っておいていい。
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