日本から飛行機に乗れば、1時間半ほどで韓国へ到着する。しかし、政治的な対立は絶えないから、日韓関係はよく「近くて遠い」といわれる。
15年ほど前、大韓航空かアシアナ航空を利用して韓国旅行に行ったときにそれを痛感した。これから始まる韓国旅を想像して、胸がワクワクしていたのに、機内地図のこんな表示を見て、冷水を頭からぶっかけられた気分になる。
それでも、機内サービスは良かった。
日本が韓国を国際法違反(不法占拠)と指摘するのは、1952年に李承晩大統領がいわゆる「李承晩ライン」を設定し、その線の内側の海域を韓国のものと宣言したことを指す。
竹島周辺は良い漁場だったから、韓国としてはそこから日本の漁船を締め出したかったのだ。(李承晩ラインと竹島問題)
しかし、ある国が一方的に線を引き、「こっから先は俺のもの!」と宣言するのは明らかな国際法違反。そんな「ジャイアン理論」が通れば、世界は言ったモン勝ちの無法地帯になる。
とはいえ、韓国側も「不法占拠」の指摘に強く反論していて、この領有権問題は解決する見通しがまったく立っていない。
こんな竹島の領有権問題もあって、日本と韓国の関係は「近くて遠い」と表現されるが、キプロス島をめぐるトルコとギリシャの対立はもっと深くて激しい。
外務省HP「竹島」のキャプチャー
きょう10月20日は、1827年に地中海でナヴァリノの海戦が発発した日。
当時、オスマン帝国(トルコ)によって約400年も支配されていたギリシャは、「もう無理、ガマンできない」と1821年に決起し、自由を求めて戦いを開始した。
現在のギリシャでは、この独立戦争が始まった3月25日を独立記念日としている。
ナヴァリノの海戦では、イギリスやフランスの支援を受けたギリシャが勝利したことで、独立戦争で優位に立ち、1830年に独立を実現させた。
ちなみに、ナヴァリノの海戦が帆船だけで戦いが行われた歴史上、最後の大規模海戦となる。
しかし、トルコ(正式にはトゥルキエ)とギリシャの対立は、形を変えて現在まで続いている。その象徴となるのが地中海に浮かんでいて、四国の半分ほどの面積を持つキプロス島だ。
*日本語の「キプロス」はギリシャ語の発音で、英語だと「サイプラス」になるから、初めて聞くと混乱する。
キプロスは首都をニコシアとする共和国で、EUに加盟している独立国だが、キプロス島は南北に分断されていて、北部はトルコの支配下にある。
キプロス島にはもともとギリシャ人が多く住んでいて、16世紀にオスマン帝国に占領されると、トルコ人が入ってくるようになった。そんな歴史から、現在のキプロスの公用語はギリシャ語とトルコ語になっている。
ギリシャの独立戦争では、キプロスはギリシャ側として参戦した。
第二次世界大戦後の1960年に、キプロスイギリスから独立すると、島内ではギリシャ系の住民とトルコ系住民の衝突が起こるようになり、1964年にトルコ系住民が分離独立を求めて内戦がはじまった。
国連が入ってこれが(一応)落ち着いた後、1974年にギリシャの支援を受けた軍事勢力がクーデターをおこない、島内は大混乱におちいる。
するとトルコはトルコ系住民の保護を理由に軍事侵攻をはじめ、キプロス島の北部約37%を占領した。これによってキプロス北部はトルコの支配地域、南部はキプロス共和国に分断され、その状態が固定化された。
この「キプロス紛争」では、トルコ系住民とギリシャ系住民による虐殺事件も発生したから、きっといまも心の傷や溝は埋まっていない。
現在の状況をみると、北部の北キプロス・トルコ共和国はトルコだけが承認している「独立国」で、南部のキプロス共和国は国連に加盟し、トルコ以外の192か国に国家として承認されている。
竹島問題の解決について、日本では「平和的な解決」として、日韓による共同管理を提唱する人がいた。しかし、そんなファンタジー世界の話を現実に当てはめたら、日韓の対立が激化して「もうひとつのキプロス島」になるかもしれない。そもそも韓国がその案に応じるとは思えない。
近年になって、東地中海のキプロスの近くの海底でガス田が発見されると、ギリシャとトルコがその利権をめぐって対立するようになる。
トルコが2020年にリビアとEEZ(排他的経済水域)を設定し、一方的にギリシャを排除すると、すぐにギリシャも動き、カウンターとして自国に有利なEEZを設定した。これで両国が軍事衝突する可能性が高まり、いまもその緊張状態がつづいている。
(韓国が「李承晩ライン」を設定したとき、日本も対抗して竹島を含めたラインを引いていたら、一体どんな事態になっていたのか。)
日本と韓国は地理的にはお隣さんでも、政治的には距離を縮められないでいる。
陸路で結ばれているトルコとギリシャはもっと近く、バスや列車、自家用車で相手の国へ行くことができる。しかし、戦後に軍事衝突や虐殺事件が発生していて、トルコとギリシャの関係は、政治的には銀河系レベルで離れている。
これに比べれば日韓の対立はマイルドで、どちらかというと、トルコとギリシャの関係は韓国と北朝鮮に近い。キプロス紛争が解決されずに「凍結」されたように、朝鮮戦争も停戦中でまだ完全に終わっていない。
トルコやギリシャの航空会社では、機内地図でキプロスをどう表示されているのか、気になる。
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