インドネシア人を困らせる日本人。上から目線で戦争の歴史を語る。

 

前に国際交流パーティーで、1人のインドネシア人と知り合った。

「うわ、このインドネシア人日本語うめえ」というのが彼の第一印象。

だから、出会った後に日本語検定1級に合格したという話を聞いても驚きはしなかった。
そのぐらいの日本語の力をもっていた。

ちなみに日本語能力1級の試験となると、このぐらいの問題が出てくる。

私の主張は単なる( )ではなく、確たる証拠に基づいている。
1 模索  2 思索  3 推測  4 推移

このアパートは古いので、歩くと床が(  )音がする。
なく きしむ ちぢむ こする

正月には、色が(  )着物を着ます。
あきらかな あざやかな にぎやかな ほがらかな

 

これだけ日本語能力あれば、日本語での会話はまったく問題ない。
日常会話だけではなくて、政治や経済、歴史の話もけっこうできる。

そんな彼には、インドネシアに興味がある日本人の知り合いがたくさんいた。
彼にとっても日本人の視点から見たインドネシアには、いろいろな発見があって面白かったらしい。

でもあるとき、こんなグチをこぼしていた。

「最近、インドネシアのことをよく知っている日本人と会いました。でも、その人には困りました」

 

インドネシアに興味がある日本人が、彼にこんな質問をした。

「太平洋戦争のときに、日本人はインドネシアになにをしたの?」

そのインドネシア人が「オランダの植民地支配が終って、次は日本による植民支配が始まった」と答えたところ、その日本人は「それはおかしい」と不機嫌になったという。

 

その日本人はこんなことを言う。

「あの時代、日本軍がオランダと戦ったことでインドネシアは植民地支配から解放されたんだ。それと君は、ペタ(義勇軍)のことは知っているのか?」

インドネシア人の彼はペタのことは知っていたけど、なんでこの人が怒っているのかがわからない。
状況がのみ込めないまま、日本人から歴史のレッスンを受けることになってしまった。

 

「ペタ」というのは、インドネシアでつくられた軍事組織のこと。
日本人が教官となって現地のインドネシア人に軍事訓練をおこない、インドネシア人による軍事組織がつくられた。

太平洋戦争が終わった後、オランダと戦ったときにこのペタで軍事訓練を受けたインドネシア人が活躍している。
そしてインドネシアの独立は守られた。

この日本人はそのことをもって、「インドネシアが独立を守ることができたのは、ペタを組織した日本人のおかげ」とインドネシア人の彼に話していたらしい。

 

結局その日本人は、インドネシア人の口から「オランダの植民地支配から日本が解放してくれた」とか「インドネシアが独立を守ることができたのは日本人のおかげ」という言葉を聞きたかったのだろう。

自分がインドネシア人に質問をしておいて、自分が聞きたかった答えが返ってこないと不機嫌になる。
これじゃ自己中というか、自分勝手。

 

ふつう「質問をする」というのは、自分が知らない情報を手に入れるための手段としておこなう。

でもこの日本人のばあいは、自分の頭にある「日本軍は良いことをした」ということをインドネシア人の口から言わせるためにこんな質問をしている。
彼が考えていることと同じ答えが返ってきたら、「やっぱりそうかだったのか」と満足したはず。

 

テレビや雑誌のインタビューでもこういうことがある。
相手に質問をしているのは、自分がほしい言葉を相手に言わせようとしているだけ、みたいなことが。

 

ただ、ボクもインドネシア人の彼がいう「日本が植民地支配をした」というのには違和感をもった。

あの時代の日本軍によるインドネシアの統治を、「植民地支配」と言うのは正しいのか?

外務省のホームページを見ると、「日本軍による占領」とある。
日本はインドネシアを日本の領土の一部(植民地)にしたわけではない。

 

それと、インドネシア人から「日本軍はインドネシアに良いことをした」という言葉を聞きたかったというその日本人の気持ちはわかる。
ボクも似たようなことをしたことがあるから。

「日本軍がインドネシアを植民地支配から解放した」とか「インドネシアが独立を守った陰には日本人の活躍があった」とかいった話を日本で知って、「そうだったのか!」と感動してインドネシアへ旅行に行く。

でも現地で会ったインドネシア人でそんなことを言う人は誰もいなくてガッカリしたことがある。

さすがに、「インドネシア人に歴史を教える」なんてことはしなかったけど。

 

友だちのインドネシア人にしてみたら、日本人から質問されたことに答えただけ。

そしたら、「君は歴史を知らないようだけど、日本人がインドネシアにしたことは~」と上から目線で歴史を教えられた。

これでは「困りました」となって当たり前。

 

でもその日本人には、まったく悪意はない。
インドネシアのことが好きで、ふつうの日本人よりずっとインドネシアのことを知っている。

それがわかっていたから、その人を怒らせるワケにもいかずインドネシア人の彼は黙ってその話を聞いていたらしい。苦行だ。

その日本人からしたら、「インドネシア人が知らない歴史を教えてあげた」とむしろ良いおこないをしたと悦に入っていたかもしれない。

 

百歩ゆずって、日本人同士ならこれでもいい。
「日本軍がインドネシアを解放した」
「インドネシアが独立を守った陰には日本人の活躍があった」
そんなことを日本人の間で話すだけなら大した問題はない。

 

インドネシア人に歴史を語った日本人には、その人なりの歴史の見方がある。

同時にインドネシア人にはインドネシアの価値観や考え方があって、それにもとづく歴史の認識がある。

そのインドネシア人が「オランダの植民地支配が終って、次は日本による植民支配が始まった」と考えていたことは、まったく悪いことではない。

「オレとの違いは間違いだ」と相手の意見を否定して、自分の考えを押しつけることが間違っている。

 

自分との違いに出会ったときは、相手を理解する良いきっかけになることもある。
「私の正論」を教えるだけではなくて、「なんでこのインドネシア人はこんな歴史の認識をもつようになったのか?」という背景を考えたほうがいい。

そのことを次回に書くけど、インドネシア人の歴史教育は日本とは違う。

 

 

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2 件のコメント

  • インドネシア人に日本からみた歴史、というより個人の意見を押し付けるのは国、人種、宗教問わず恥ずかしいことですよね。
    ペタの歴史で日本人が活躍した一面もありますが、決して「日本人のおかげ」ではなく現地の人々と日本軍撤退後、インドネシアの解放を願った一部の日本兵が共に戦ったんですよね……
    いい話なのに押し付けがましくなるのは残念です。。
    歴史認識含めてインドネシア人と仲良く交流していきたいです!

  • インドネシア人に聞いたら、「ふつうのインドネシア人はペタについて知りません」と言ってました。
    「PETA」という文字を見たら、「地図」だと思うそうです。
    PETAはインドネシア語で地図の意味ですから。

    インドネシアの独立を守ったのはインドネシア人ですね。
    日本人もサポートはしましたけど、主役はインドネシア人です。
    「日本が独立させてやった」という上からの言い方では、インドネシア人は不快になりますよ。

    >歴史認識含めてインドネシア人と仲良く交流していきたいです!
    まったくそのとおりです。
    インドネシアには日本を好きな人が多いですから、そうした人の気分を害する言動はダメですね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。