日本とヨーロッパ 社会の違い・杉の木・オオカミ信仰

先日、神奈川県の平塚市にある中学校で、駐日リトアニア大使が講演をした。第二次世界大戦中、6000人のユダヤ人を救ったと言われる外交官・杉原千畝氏について語ったらしい。リトアニア大使が日本人に伝えたいことと言えば、これが鉄板だ。

友人の30代のリトアニア人男性は静岡の大学に留学していて、数年前に卒業して母国へ戻った。その後、結婚し、昨年末に新妻を連れて日本へ新婚旅行にやってきた。彼女にとってはこれが初めての日本体験。
彼らを富士五湖のひとつ、田貫湖に連れて行くと、湖の周りを歩きたいと言うので、そのリクエストを快諾。
これから、そのとき彼らと話した内容をお届けしよう。

 

 

ーーいうても森の散歩なら、日本もリトアニアも変わらないでしょ。

いや、そうでもない。
たとえば、この散歩道は舗装されているけど、リトアニアでは森の散歩道は自然のままなんだ。日本では人が歩きやすいように、しっかり整備されている。それに、ここにはプラスチック製の案内板がいくつもあったけど、リトアニアの森では人工物なんて見た記憶がない。

ーー日本では人間の快適さや安全が重視されていて、リトアニアでは人が自然にあまり手を加えていない気がする。

日本に3年住んでいた俺の経験から言うと、自然だけじゃなく、ヨーロッパの国に比べて、日本は社会にも配慮が行き届いていて、よく管理されている。
今回の旅行中も、電車に乗っていたときにそう思った。
次の停車駅をアナウンスするのはいいとしても、出口が右側か左側かまで言う必要があるか? 妻がそれに違和感を感じて、何か特別な事情があるのか、俺に聞いてきたんだ。幼稚園児には役立つかもしれないけど、大人にあのアナウンスはいらないと思ったね。

ーー日本とヨーロッパの国を比べたら、福祉ではヨーロッパのほうが進んでいるけど、日常生活では「自己責任」が重視されていて、日本より不親切な気がする。

同感だ。

 

*つい最近、駅や電車の多言語表示をやめて、日本語と英語だけでいいのでは? というSNS投稿が話題になった。
投稿者は認知症の人から、駅の表示がすぐに別の言語に切り替わってしまうから、とても不便だという話を聞いて、表示を日本語と英語だけにするか、日本語の下に各国の言葉の案内を出すことを提案した。
それを見て、たくさんの日本人から、「また日本語の表示が出るまで待たないといけなかった」といったコメントが寄せられ、共感が渋滞状態になった。

知り合いの韓国人や中国人も、英語表示があれば問題ないと言う。日本に来る外国人で、その程度のローマ字を読めない人はまずいない。
配慮が行き過ぎてしまって、かえっていろんな利用者の不便を引き起こしている気配がする。

 

 

それに、木もリトアニアとは違う。日本には、地面から本当にまっすぐ伸びる木が本当によ多い。リトアニアの森には松の木がよくある。それがクリスマスツリーに使われるんだ。

ーーそれは杉だ。たしかにあれはまっすぐ伸びすぎ。スギ」という名前は、まさにそのビジュアルから生まれたらしい。
成長が早く、まっすぐ伸びて加工がしやすいから、日本人は昔から、杉で家や日用品を作ってきたのさ。
*「直木(すぐき:まっすぐに成長する木)」が名前の由来になったといわれる。

「スギ」は英語で何て言うんだ?

ボクもそれを知らなかったから、調べたことがある。そしたら、「Japanese cedar(シダー)」だった。シダーは他の国にもあるけど、スギは日本の固有種(日本でしか自然に育たない品種)だから、「ジャパニーズ」を付けたほうがいいらしい。
*ちなみに、杉の学名「Cryptomeria japonica(クリプトメリア ヤポニカ)」には、「日本の隠された宝」という徳川埋蔵金みたいな意味がある。

 

田貫湖の周りを歩いていと、こんな不幸フラグを発見。

 

マジか! ここではクマが出るのか? 注意って、どんな注意をしたらいいんだよ。

ーーまず、結論から言えば大丈夫。
クマは臆病だから、人の存在に気づけば基本的にはヤツらのほうから離れていく。田貫湖にはキャンプ場があって、たくさんの人がいるし、こうして話をしながら歩いていたら、クマは気にしなくてい
い。本当に危険な状況になったら、きっと立入禁止になるから。
クマは乙女のような性格をしているのに、攻撃力は日本最強。「見た目は子供、頭脳は大人」のコナン君みたいなギャップだ。
日本で一番恐ろしい動物はクマだね、特に北海道にいるヒグマ。
リトアニアの森にいて、もっとも怖い動物ってなに?

それは狼とイノシシだな。日本にも、イノシシはいるという話は聞いた。狼はいないのか?

ーー昔はニホンオオカミがいた。でも、100年以上前に、人や家畜を襲う害獣として徹底的な駆除があって絶滅した。そしたら、天敵がいなくなったことで、イノシシやシカが「ヒャッハー!」と大繁殖して、今はそんな害獣の駆除に苦労している。

ヨーロッパの文化で狼はわりと重要なんだ。ローマには、狼に育てられたロムルスとレムスによってつくられたという建国神話がある。

ーーモンゴルにもある。チンギス・ハーンが蒼き狼を父、青白き鹿を華にして生まれたという伝説が。

リトアニアではキリスト教を信仰する前、人びとは多神教を信じていた。日本の神道みたいにね。その神々の中に、森の守り神・メデイン(Medeina)がいて、その女神が首都ビリニュスの建設に関わっているという伝説がある。メデインは狼を従えていて、ビリニュスには彼女が大きな狼に乗った像があるんだ。
『もののけ姫』ってアニメがあるだろ? それとメデインの像がそっくりなんだ。日本にも狼を信仰する文化があるのか?

ーーアニメで言うなら、そのメデインは『狼と香辛料』の賢狼ホロのほうが似ているとわっちは思う。
日本では山間部に狼信仰があって、狼を祀る神社を建てたり、オオカミを「大神」と書いて神聖化したりした地域がある。でも、日本全体で見ると、あまり盛んではなかったと思う。なんせ、絶滅させてしまったぐらいだし。
そのおかげで、山での恐怖がひとつなくなって、狼に関する文化や伝統も途絶えてしまった。今さらどうしようもないけど。

 

 

外国人から見た不思議の国・日本 「目次」

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【セミ爆弾】リトアニア人が日本旅行で一番驚いたこと

ロシア人とリトアニア人の話 ⑥ 日本の信仰・願いごと文化

日本の夏の”異常な”暑さに、外国人観光客の反応は?欧米人編

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