これから登場するのは、日本の大学で学ぶインド人留学生。
彼は20代の男性で、卒業した後は日本の会社で働きたいと考えていて、そのために今は日本語や日本の文化について学んでいる。
ではさっそく、そんな親日家のインド人が日本文化について感じたことを書いていこう。
ーー日本人とインド人では、いろいろな考え方の違いがある。
個人的にはインドを旅行中、日本人なら謝る場面で、逆に怒られたことが印象に残っている。たとえば、ホテルの部屋でエアコンが壊れて動かなかったから、フロントで文句を言ったら、スタッフに「エアコンが“付いている”と言ったが、動くとは言っていない。それをチェックしなかったおまえのミスだ!」と逆ギレされて、なぜかボクのせいにされた。インドでは、そんな理不尽なことが何度もあった。
君は日本へ来てから、考え方や文化についてどんな違いを感じた?
私は来日する前から、ネットで日本について調べていて、インドの社会では自由、日本の社会では配慮がとても重視されていると知りました。
インド人は「自分ファースト」で、言いたいことを言ってやりたいことをします。でも、日本人は、まわりの人がどう感じるかを考えながら行動します。実際に日本に来て生活してみて、その指摘は本当に正しいと思いましたね。
彼が感じたインドにはない、日本人らしい配慮の具体例がこれだ。
3月22日にボクが車を出して、外国人を連れて旅行に出かけた。
その際、高速料金とガス代として1人1200円かかると事前に参加者へ伝えておくと、彼はその金額を入れた封筒を用意して、その日に僕へ渡してくれた。こんな丁寧なインド人は彼が初めてだ。
インドだったら、彼は財布から現金を取り出して相手に渡していた。日本の文化では、封筒に包んだほうが丁寧で礼儀正しいと知ったから、彼はそうしているという。
多文化共生では「郷に入っては郷に従え」の原則が大事だから、こういう外国人は日本社会にフィットする。
ーー少し前、日本のネット上でこんな“インドの言葉”が注目を集めた。
日本では親が子どもに「人に迷惑をかけてはいけません!」と注意するけど、インドでは「あなたは人に迷惑をかけて生きている。だから、人のことも許してあげなさい」と教えているという。
インドでこんな言葉を聞いたことある?
いいえ、まったく。
ーーそっか。「他人に迷惑をかけている」という点をずいぶん強調していて、これは日本人が考えた言葉みたいで、なんか違和感があったんだ。
私が知らないだけで、インドにそんな言葉があるかもしれません。ヒンドゥー教には人のミスを許したり、怒りの感情を“毒”と考えたりすることがありますから。
でも、他人の行動を不快に感じたら、我慢しないで、その人に直接伝えることが多いと思います。
ーーだよね。それがインド的人な考え方だと思ったよ。
ガンジス川で沐浴するインドの人たち
ーー日本の文化で驚いたことはある?
日本に来る前、ユーチューブの動画を見ていて、初めて温泉の文化を知って衝撃を受けました。人前で裸になるという行為は、インドではありえません。それはとても恥ずかしいことですから。周囲の人への配慮は、日本ほどではないですが、インドでも大切にしています。
でも、温泉はインド人の価値観では絶対にNGです。
特に混浴なんて、インド文化の反対側にあるもので、そんなものを知ったら、みんな驚きを通り越して怒りますよ。
ーーボクはインドでガンジス川へ行ったとき、男女が服を着たまま沐浴しているのが印象的だった。あれも広い意味で混浴と言えるんじゃないかな。
言えませんよ。服を着ていたら、ぜんぜん違うじゃないですか。
インドの文化では他人に裸を見せるのは失礼ですから、この意味では、温泉は周囲の人への配慮がまったく無い気がします。
幕末に西洋人が描いた日本の銭湯では、男女が一緒になっている。
江戸時代の日本人は日常的に混浴をしていた。それは西洋世界の価値観ではありえない習慣だったから、幕末にやってきたアメリカ人のペリーがその光景を見て衝撃を受けた。
彼の『日本遠征記』にはこんな記述がある。
「男も女も赤裸々な裸体をなんとも思わず、互いに入り乱れて混浴しているのを見ると、この町の住民の道徳心に疑いを挟まざるを得ない。他の東洋国民に比し、道徳心がはるかに優れているにもかかわらず、確かに淫蕩な人民である」
現代のインド人の感覚や常識は、きっと19世紀のアメリカ人に近い。まぁ、今の日本でここまでの混浴は無いと思うけれど。
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