被害者感情 vs 客観的な根拠 日韓で歴史対立が終わらないわけ

昨年、国連で日本と北朝鮮の代表が、日本統治時代の歴史をめぐって言い争いをした。
女性の人権問題をテーマにした会議で、北朝鮮側は20万人もの朝鮮の女性や少女が日本軍の性奴隷にされたと発言し、日本の謝罪と補償を求めると、日本側はすぐに「北朝鮮の発言は誤りで根拠もない」と反論し、「正しい歴史」について口論に発展。世界各国の視線が集まる場だから、どちらも引くことができない。
ちなみに、その場には韓国代表もいたが、日韓の慰安婦合意に基づき、国連の場などで互いに非難・批判することは控えることを確認していたため、韓国は論争に加わらず沈黙を保っていた。しかし、そのせいで「なぜ発言しなかったのか」、「日本の歴史歪曲を認めることになる」と国内で叩かれてしまった。

韓国民と慰安婦問題 日本との約束を守ると「売国奴」に

 

その歴史歪曲について、先日、ハンギョレ新聞が興味深い記事を掲載した。(2025-04-15)

「韓中日が良き隣人になるには、歴史を歪曲せずありのままに見るべき」

アナ雪の「Let It Go」のように、歴史のありのままの姿を見ることで、日中韓は仲良くなれるらしい。
こう発言したのは韓国人の夫と結婚し、今は韓国に住んでいる日本人女性。1979年、大学生だった彼女は初めて韓国を訪れ、それまで「英雄」と考えていた吉田松陰や伊藤博文などが、韓国では「悪人」と認識されていることを知り、強いショックを受けた。それがきっかけで、高麗大学に入学して東アジア近代史を学び始める。
彼女は中国を訪れた際、抗日独立運動を行った朝鮮人が中国で「正当な評価」を受けていない現実を知り、再びショックを受けた。このような経験を通じて、「歴史家はただひたすら真実だけを話さなければならない」という認識が強まったという。

歴史問題で対立する韓国・中国・日本がどうしたら良き隣人になれるのか?
日本を離れて40年が過ぎた今、彼女は「事実を歪曲してはいけません。ありのままに見なければなりません」と強調し、正しい歴史を知ることの重要性を説く。
では、どうすればそれを知ることができるのか?
日本の学生から「慰安婦」について質問を受けたとき、彼女はこう答えた。

「今生きている(慰安婦被害者の)女性たちに会い、まずは手を握ってみるよう言いました。その後、資料を探して勉強するよう伝えました。(中略)その人たちの手を握れば、はたして日本帝国主義が正しいと考える人がいるでしょうか」

おそらくその日本人学生は慰安婦問題について尋ねたのであって、帝国主義が正しいかどうかというのは論点をずらしているようにみえる。19世紀の世界なら常識的なことでも、21世紀の価値観からは認められないことは多い。今の日本で、帝国主義を「正しい」と考える学生がいるとは思えないが。

それは置いといて、韓国ではこんなふうに歴史を情緒的、感覚的、そして道徳的に理解することがある。そして、そんな感情ベースの歴史認識を披露すると、日本からすぐに「その発言は誤りで根拠がない」とツッコまれてしまう。それに対し、韓国側からは「日本の反応は冷たい」「加害者なのに反省していない」といった反発の声が上がるはずだ。韓国側も歴史問題に関しては退くことも引くこともできないから、「日本は歴史を歪曲せず、ありのままに見るべき」と言い返す。
歴史を正しく学ぶためには、まずは被害者の手を握るという発想は日本では例外的で、一般的には客観的な根拠を追求することが重視される。被害者の手を握ると感情移入してしまい、その人たちの証言が正しいと裏付ける根拠を探すことが、まるで道徳的にいけないことだと思ってしまいがちになる。そうなったら、むしろ正しい歴史からは遠ざる。
日韓では価値観が大きく違うから、歴史認識をめぐる対立は終わらない。

 

「Let It Go」には「これ以上何も言わない」「手を触れない」という意味がある。
慰安婦問題については、日韓両政府が2015年に「最終的な解決」を確認したのだから、再び問題を蒸し返してはいけない。日本と韓国が良き隣人になるためには、約束を守る態度が大切だ。でも、韓国を代表する立場の人が何も言わないと、きっと「日本の歴史歪曲を認めるのか?」と叩かれる。歴史対立がエンドレスであるもうひとつの理由がこれだ。

 

 

近くて遠い日本と韓国 「目次」 ①

近くて遠い日本と韓国 「目次」 ②

近くて遠い日本と韓国 「目次」 ③

少女が“性奴隷”に!韓国の描く慰安婦像と歴史資料の天地の差

イタリア初の慰安婦像が登場 欧州で再びはじまる“日韓戦”

日本はどんな国? 在日外国人から見たいろんな日本 「目次」

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