新元号・令和にみる日本文化の特徴「世界も独自も尊重します」

 

世界最古の元号はなにか?
それは紀元前2世紀、中国の前漢の時代につくられた「建元」とされている。
このときから1911年の辛亥革命で清朝が崩壊するまで、中国は約2000年のあいだ元号をつかい続けていた。

古代の日本人も元号という中国文化を受け入れて、平成のいまでもつかっている。
平成に代わる新しい元号が「令和」になったことは、みなさんご承知のとおり。
中国でなくなった文化が日本には生きているということで、中国も新元号には注目していた。

産経新聞にそんな記事(2019/4/1)がある。

新元号 中韓反応 万葉集出典に 中国紙「中国の痕跡消せぬ」 韓国紙「安倍政権の保守色を反映」

菅官房長官が「令和」を発表すると中国国営新華社通信は速報で報じるなど、中国メディアは新元号に「高い関心を示した」という。
中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」で「令和」がトレンドワードになっている。

今回の元号「令和」はいままでとはチョイとちがう。いや、大ちがいだ。
「令和」は日本の古典(万葉集)から選ばれた初めての元号なのだから。
「平成」までの元号はすべて中国の古典から引用されていたのだけど、今回、それを打ち破ったことになる。

 

この「脱中国」について、中国外務省の報道官は「日本の内政であり論評しない」とそっけないけど、内心はどうなんだろう?
産経新聞の記事によると、中国メディアの環球時報は「『中国の痕跡は消せない』の見出しで、引用元の『万葉集』も中国詩歌の影響を受けていると指摘」したとある。

トレンドワードになるほど国民のあいだでも話題が集まっていて、「令和」のもともとの出典は中国の古典(張衡の韻文「帰田賦」)とする主張もあったとか。
この説は日本でもあって、「令和は日本の古典ではなくて、やっぱり中国の古典から選ばれた」と飛躍した解釈をする人をネット空間でよく見た。

新元号「令和」が万葉集から引用されたことは間違いない。
でも、その万葉集にある「令和」は中国の古典から引用されたかもしれない。
個人的には、その可能性はとても高いと思っている。

でも、だからどうした?
それこそ日本文化だ。

 

 

日本とはどんな国か?
簡単にいえば海に囲まれた島国だ。
この地理的条件はいまも昔もかわらないし、何をどうやっても動かせないのだから、これはもう日本の運命だ。
だから日本は周囲から孤立しがちだけど、運命にはしたがうしかない。

こんな環境が日本の文化や伝統に影響をあたえていて、それは日本語にも表れている。
日本語には「漢字とかな」の2つの文字がある。
ひらがなとカタカナに分けると3種類なのだけど、細かいことはどんまい。
韓国やベトナムもむかしは漢字をつかっていたけど、すでに廃止されていて、いまでは社会からほとんど消えてしまった。
少なくとも、日本人や中国人のように、日常生活で漢字を読んだり書いたりすることはない。

以前、中国旅行で出会った韓国人は、漢字をつかって中国人と筆談することはできないと言っていたけど、これは普通のベトナム人も無理。
でも、日本人ならできる。
英語の文法ですべてを漢字表記にすれば、けっこう中国人に通じる。
鉄道駅で北京行きのチケットを買いたかったとき、「我欲票行北京」という我流の漢字を窓口の中国人に見せたら、それでわかってくれた。
でも、ゲストハウスの中国人に見せると、「『我欲』って唐の時代の中国語みたい」と言われて驚いた。
まさかいまの自分に唐文化の影響があるとは!

 

奈良・平安時代の古代では、東アジアの共通文字は漢字だった。
日本人は漢字を通じて、中国人や朝鮮人とコミュニケーションをとることができた。
欧米やアフリカなどを知らなかったこの時代の日本人にとって、東アジアは「世界」そのもの。
漢字をつかうことで、日本は国際社会の仲間入りをしていたのだ。

それと同時に日本人は「かな」という日本文字をつくり出して、和歌やかな文学といった独自の世界観をつくると同時に、漢字という共通文字で世界ともつながってた。
こうした事情について、評論家の山本七平氏はこう書いている。

日本人は「かな」による自国語の世界に生きつつ、同時に、漢字という当時の東アジアの「世界文字」につながって生きていた。
そしてこのように独自性と普遍性を併せ持つことで日本の文化は形成されていった。

「日本人とは何か。(山本 七平 )」

漢字をつかえば日本人はいまでも、中国人や台湾人、マレーシアやシンガポールの中国系の人たちとつながることができる。

 

日本人は独自の価値観を大事にすると同時に、世界の価値観も尊重していた。
どちらか一つを選んでいたら、いまの日本文化はありえない。

漢字とかなを同時につかい続ける日本の文化は古代も平成も、令和になってもかわらない。
先ほど書いたように韓国やベトナムは漢字を廃止しているから、こんな文化をもった国は世界で日本だけ。

「令和」という元号は日本の古典から引用されたけど、そこには当然、中国の影響もある。
でも、もともと日本の文化とはそういうもので、独自性と普遍性を合わせ持っているのだ。ボクでさえも唐文化の影響があるのだから、中国を完全に切り離すことは無理。
万葉集の時代の日本人は文明国の唐も日本も同時に大事にしていたはず。
だから新元号について中国の要素を排除したり、「日本だけのオリジナル」を強調したりする必要はない。
両方合わせ持つのが日本文化の大きな特徴なのだから。

 

レコードチャイナの記事(2019年4月3日)で、中国のウィーチャット・アカウント「牛弾琴」がこう指摘している。

「元号の使用を今でも堅持している日本の伝統には、われわれも敬服しなければならない。西洋化を進めつつも大事な伝統文化を守り続けている」

日本の元号、「脱中国は10万年たっても無理」と中国メディア

これが「独自性と普遍性を併せ持つ」ってことですよ。

 

世界と独自の価値観を同時に尊重するのが古代からかわらない日本の姿。
普遍性を無視して世界とのつながりを絶ってしまったら、日本列島はガラパゴス諸島になってしまう。
ときどき「日本人にしか分からない」ということに誇りを感じているような人を見るけど、それは日本人というよりガラパゴス人だ。

 

それに日本はちゃんと「恩返し」もしているのだ。
「中華人民共和国」の国名のなかで中国語は「中華」だけで、あとは日本語(和製漢語)じゃないですか。
くわしいことはこの記事を。

「中華人民共和国」の7割は日本語。日本から伝わった言葉とは?

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。