台湾人の疑問「なぜ日本人は冷たいご飯を食べるのか?」の答え

 

日本人とおなじ「お米の民」の台湾人がこんな疑問をもつ。

「なんで日本人はお弁当を冷たいままで食べるのか?」

大阪の日本語学校に通う留学生が朝日新聞に投稿して少しまえにネットで話題となった。

J-CASTニュースの記事(2019/6/22)

「冷めた弁当、日本人はなぜ食べる?」 台湾留学生の新聞投書がネット論議に

台湾では冷たいご飯(お米)を食べる習慣がない。
台湾の学校にはお弁当を温める機械があって、上の投稿をした台湾人留学生は高校生のころ、学校に着いたらお弁当をその機械に入れていた。
だからお昼には、ほっかほかのお弁当を食べることができた。
これが台湾人の当たり前だから、冷たいご飯のお弁当を食べる日本人が「ちょっと理解できません」という。

台湾人・香港人・中国人たちからすると、日本人が冷たいご飯を普通に食べていることに「マジで?」と違和感を感じることが多い。
上の記事で中国系メディアがその理由をこう分析している。

「戦時中に持ち運びに便利なおにぎりを食べたからではないか」
「温めると臭いがするため他の人に迷惑をかけたくない」
「冷たい方が日本人の好きな食べ物本来の味を楽しめる」

逆に、中国系の人たちが温かい食事が好きな理由はこうだ。

「油が多いので冷えると固まるし、汁気もあるため味も落ちてしまう」
「東洋医学の影響で冷たい食べ物は体によくないと信じられている」

では日本のネットの声は?

・おにぎり温めると後ろの客がマジかって反応する
・冷たいごはんたまに食べたくなる
・マクドのポテチとハンバーガーなんて、さめたらまずいけど、
弁当は、さめても美味しいものを入れてある。
・言われてみると確かにそうだな
なぜ我々は冷や飯を食わされているんだ
・海外って油料理多いから冷めると駄目なんかね
日本の油料理は冷めても食える
・個人的にはご飯に関してはちょい冷えた位が美味しいと思う

個人的にはカレーライスには冷めたご飯がいいし、冷たいご飯とみそ汁の組み合わせもいいと思う。
冷たいお弁当もおにぎりも問題なくおいしい。
でも中国旅行でお世話になった50代の男性日本語ガイドは、冷めたご飯には強烈に反対していた。

「冷えたご飯なんて犯罪者が食べるものでよ。会議や旅行でお昼に冷たい弁当を出されたら、中国人はみんな怒りますよ。それは屈辱ですから」

これはこの人の意見だから、ぜひ他の中国人にも聞いてほしい。
でもたぶん、「冷たいご飯はない」と言うと思う。

 

 

先月、日本へ旅行に来た3人の台湾人(全員20代の女性)と話をしたときも、「なんで日本人はお弁当を冷たいままで食べるのか?」ということが話題になった。
ご飯を温かい状態で食べるということは、台湾ではそれしか選択肢がないほどの常識らしい。
でもこのうち2人は前に日本へ来たことがあって、おにぎりや冷めた弁当を食べている。
その経験から「冷たいお米でも意外とおいしかった。日本のお米は台湾と違って、冷えていてもおいしい」と言う。
でも初来日の台湾人は「冷たいご飯はありえない」と言い張る。

そんな会話を聞いて、台湾に住んでいた日本人の話を思い出した。
その人が台湾のコンビニでおにぎりを買ったら、店員はなにも言わずにおにぎりをレンジに入れて温めた。
「そのまま食べようと思っていたから、あれはやめてほしかった」と台湾人の友人に言ったら、「えっ、あたためないで食べるの?それは本気で言ってるの?」とかなり驚かれたという。

台湾人の女性と結婚して、いまは台湾に住んでいる日本人もブログでこう書いている。

台湾では冷たいまま食べる習慣がありません。

コンビニなどでは弁当もおにぎりも温めます。

台湾人が日本の食生活で驚くこと(°_°)慣れないこと(´Д` )

 

中華圏の人たちと違って日本人が冷たいご飯を食べる理由には、単純に「日本米はおいしい。冷めてもマズくならないから」ということがあると思う。
一万年前に中国で始まったとされる稲作は数千年前に日本へ伝わった。
その後日本人は創意工夫して、いろんなお米をつくっていく。

日本で最も古い農業の書といえば「親民鑑月集(清良記の第七巻)」が有名だ。
ここには戦国時代末期の農業事情が書かれていると考えられている。

せいりょうき【清良記】

土壌,作物の品種・栽培,肥料,農業労働等について詳細な意見を述べているところから,経済史・農業史の立場から《清良記》といえば,この巻をさし,かつ日本最古の農書として紹介されていた。

世界大百科事典 第2版の解説

 

でも「日本最古の農書」という説は最近はあやしい。
上の農業についての記述がすべて戦国時代のものかも断定できない。
それでも数百年の日本の農業事情はわかる。

 

考古学者で歴史作家の樋口 清之氏(1909年 – 1997年)は「親民鑑月集」で、日本人がお米の品種改良に力を入れていたことに注目する。

当時すでに九十六種類の米の品種があったことが書かれている。つまり、約四百年前には、日本の米は九十六種類、意識的に品種改良されて、当時の栽培主である農民がそれを使い分けていたということである。

「梅干しと日本刀 樋口清之(祥伝社 黄金文庫)」

 

日本にはいろんな地形があるから、「山地につくる米」「寒地につくる米」「低湿地につくる米」といった具合に、日本人はその土地の風土や自然に応じた米を約400年前に九十六種類も生み出したという。
日本人がつくり出した米の最高傑作は、昭和初期に並河成資(なみかわ しげすけ)がつくった農林1号だろう。
これによって、日本の米の品質は台湾の米を超えたといわれる。
くわしことはこの記事をどうぞ。

日本と韓国の米の違い。おいしい理由は、農林1号と並河成資だ。

 

現在のササニシキやコシヒカリは農林1号から生まれている。
だから農林1号は日本人にとって新米ではなく、神米と言っていい。
「日本のお米は冷えていてもおいしい」と台湾人が意外に思った背景には、数百年にわたる日本人の米づくりの努力があったのだ。
これはそのまま、「なんで日本人はお弁当を冷たいままで食べるのか?」という台湾人の疑問への答えにもなるはず。

 

2019年7月1日のこのブログへの検索キーワード1位は「中国人ではおにぎり」。
今回の内容に関係あると思う。

 

 

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2 件のコメント

  • 「暖かい飯」=「作り立てで新鮮」から来てんじゃないでしょうかね。「冷たい飯」=「いつ作ったかわからない怪しいモノ(痛んでるであろう。)」
    今は賞味期限が表記されているけれど偽造されてるかもしれないし、一種の防衛策として暖かい飯しか食べない常識になっていったんじゃないでしょうか。そうして、冷たい飯が排除された結果、冷たくても美味しいものは文化として開発されないし、いらない・・・と。

  • コメントありがとうございます。
    >「冷たい飯」=「いつ作ったかわからない怪しいモノ(痛んでるであろう。)」
    これはあると思いますよ。
    中国の人たちは疑心暗鬼ですから(笑い)。
    日本語ガイドのおばちゃんは「魚は生きているものしか買わない。死んだ魚は病気で死んだか薬物で死んだか分からない。口に入れるものは本当に慎重になる」と言ってましたし。
    こういう不信は昔からあって、それが習慣や文化にまで広がったという面もあると思います。

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