差別ではなくて区別?イギリスのパブには階級別の入り口が

 

さてまずはこのツイートを見てほしい。

 

雑居ビルの3階に居酒屋の「魚民」があって、7階には「鳥貴族」がある。
まあ日本中の街にありそうな光景だ。
ただこれが貴族と民という対になっていて、「階級をあらわしている」とネットでほんのちょっとだけ注目を浴びているのだ。
人によっては対立しているようにも、貴族が民の上に立っているようにも見える。

でもネットの反応はどっちもどっち。

・バカじゃねえの
・鳥貴族の客に貴族はいねえよw
・路面店の方が格上
・すぐに変わるだろ
牛角とか入ったら牛民だぜ
・牛角じゃ王将には勝てんな。
・こういう言葉遊び好き

最近行ってないから断言できないけど、飲み食いしたら魚民の方がつく高くような気がする。
それに賃料も単純に下の階のほうが高いのでは?

 

日本といえば社会主義国の中国人さえ驚くほどの平等がいきわたっている国だ。

日本を見た外国人の感想は?「なんつう平等、社会主義かよっ!」

だから、社会で目につく「階級」の違いなんて鳥貴族と魚民ぐらいなもの。

 

さて、世界の国の中で階級といえばイギリスがよく話題にあがる。
コリン・ジョイスというイギリス人ジャーナリストが日本人向けにイギリスを紹介する本を書いた。
その中で「イギリスに「階級制度」があることは世界の誰もが知っている」と触れ、その具体例として食事の仕方をあげる。

食時の習慣からも階級がわかる。
テーブルに着かず、トレイをひざなどに載せて食事をするのは、非常に貧しい層がすることだと現代のイギリスではみなされている。
正しいテーブルマナー(あるいは上流階級で正しいとされるマナー)は、けっこう厄介だ。

「イギリス社会」入門 日本人に伝えたい本当の英国 (NHK出版) コリン・ジョイス」

 

そしてイギリスといえば上のようなパブ(酒場)も有名だ。
パブには長い歴史があって、イギリスの伝統や文化になっている。

ボクのイメージでは成人男性が酒やビールを楽しむ大人の雰囲気の店だけど、イギリス人から聞いた話では、最近のパブは大衆化した店もあって家族が楽しむ、日本でいえばファミリーレストランのような店もあるらしい。

イスラーム教の教えが厳しく守られているサウジアラビアでは、飲食店の入り口には独身男性用と女性や家族用の2種類がある。
それが撤廃されたということについて、このまえ記事で書いた。

最近のサウジアラビアの女性は?ロボット市民に男女同じ入り口

 

じつはむかしはイギリスのパブにも階級別に入り口が2つあったのだ。
ブルー・カラー(肉体労働者)用とホワイト・カラー用の入り口があって、店の中も階級によって見る景色が違った。

(ブルー・カラー用のタップ・ルームでは)祖末なベンチとテーブルが壁にそって並び、大きな暖炉では持ち込みの食材を調理して食べることができた。したがってこちらは、あまり金のない労働者たちが楽しむ場だったと言える。 これに対して「パブリック・パーラー」と呼ばれる部屋は、タップ・ルームより立派な家具調度類を置いて、主に上客用とされていた。

パブ・パブの変質

 

これは今は昔の話。
先ほどのイギリス人の意見では、そのほうがきっとお互い気が楽で居心地もよかった。
ブルー・カラーとホワイト・カラーでは飲む物も会話の話題も違っていたから、顔を合わせたくなかっただろうと。
だから当時の人たちは、階級によって入り口や部屋が違うというのは当然の区別と考えていて、差別とは思わなかっただろうとそのイギリス人は言う。

魚民と鳥貴族の違いと同じようなものだったかったかもしれない。

 

 

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2 件のコメント

  • > ブルー・カラーとホワイト・カラーでは飲む物も会話の話題も違っていたから、顔を合わせたくなかっただろうと。
    > だから当時の人たちは、階級によって入り口や部屋が違うというのは当然の区別と考えていて、差別とは思わなかっただろうとそのイギリス人は言う。

    そういう考え方こそが、差別の温床になるのですよね。昔からイギリス人は、経済的階級差別、すなわち貴族と平民、ホワイトカラーとブルーカラー、資本家と被搾取労働者といった「社会制度上の分断」について、存在するのが当然という考え方を他国よりも支持してきた伝統があります。これは一種の身分制度でしょう。
    そのような階級差別のあまりの極端さ、相続・血縁・遺伝による社会階層の固定化が、結局は人類全体の不幸につながるものだとして、H.G.ウェルズ(タイム・マシン)やカール・マルクス(資本論)が当時の社会の経済的仕組みに対し、ロンドンで抗議の声を上げたのは偶然ではありません。

  • 21世紀から振り返るとそうですね。
    当時は当時の常識や価値観がありましたから、これは普通のことだったのでしょう。
    わたしもそれなりの服装や振る舞いを要求されるセレブの集まりより、Tシャツ・ジーンズで居酒屋で飲むほうが気楽でいいです。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。