もしホロコーストの犠牲者が、インスタグラム をしていたら?

 

イスラエルで1月23日に開かれた式典で、リブリン大統領は演説でこう話した。

「1945年1月27日、地獄の扉は開けられた。史上例のない人間虐殺の施設が解放された」

「イスラエル」と「虐殺」ときたら、ナチスによるホロコーストのことだ。
第二次世界大戦のとき、ナチス=ドイツがヨーロッパ中のユダヤ人を収容所へ強制連行して、次々と殺していく。これによって600万人ものユダヤ人が虐殺されたと言われる。

 

アウシュヴィッツ強制収容所

 

ハンガリーから連れてこられたユダヤ人(1944年)

このあとナチスは彼らを次の「3種類」に選別した。

「労働者」「人体実験の検体」、そして「価値なし」などに分けられた。価値なしと判断された被収容者はガス室などで処分となる。その多くが「女性、子供、老人」であったとされる。

アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所・選別

上のほとんどの人が「価値なし」に分類されたはず。

 

1940年ごろのポーランドに住んでいたユダヤ人女性が、ナチス占領下での生活をこう書いている。

ユダヤ人には一番きつくて一番汚い仕事が与えられました。自転車も取り上げられ、真冬でも何キロも歩いて仕事に出かけました。ユダヤ人は服を手に入れるための配給券をもらえなかったので、作業着も足にあった靴もありませんでした。

公園や歩道に入ることも禁じられ、公園のベンチには白い文字で、『ユダヤ人は使用禁止』と書かれてありましたし、店には『ユダヤ人には肉を売りません』とか、『ユダヤ人のための品物はありません』などと大きく張り紙がされました

「アウシュヴィッツの地獄に生きて (朝日選書)」

 

ことしはホロコーストの象徴であるアウシュビッツ強制収容所が解放されてから75年になる。
それに関連してイスラエルで開かれた犠牲者を追悼する式典で、リブリン大統領が「地獄の扉は開けられた。史上例のない人間虐殺の施設が解放された」と言った。

ホロコーストは人類史上の大事件で、ユダヤ人が多く住む欧米では特に関心のあることだから、この式典にはドイツのシュタインマイヤー大統領、米国のペンス副大統領、ロシアのプーチン大統領など40カ国以上の元首や首脳が参加した。
立場は違っても、「この悲劇を忘れてはいけない」という思いはひとつだ。

朝日新聞の記事(2020年1月25日)

リブリン氏は反ユダヤ主義や人種差別に対して、国際社会が団結して闘うことが重要だと語り、「ホロコーストと第2次世界大戦の記憶は薄れつつある。私たちは記憶しなければいけないのだ」と訴えた

「私たちが記憶しないと」ホロコースト75年、首脳集う

 

でも記憶が時間に打ち勝つのはむずかしい。
時が過ぎれば記憶も薄れてしまう。
イギリスで行われたホロコーストに関する調査で、成人の20人に1人が「起きなかった」、12人に1人が「誇張されている」と回答していて、これを知った知り合いのイギリス人は「本当に?」と絶句した。

そんなイギリス国民に、BBCの記事(2019年01月28日)がメイ英首相のメッセージを紹介している。

「ホロコーストで無残に殺された600万の魂を正しく表せる言葉などない。しかし我々は、今日の行いを通じてふさわしい追悼を捧げることができる」と、ホロコーストに思いを馳せてほしいと訴えた。

ナチスのホロコースト、イギリスの5%が「信じていない」=調査

 

「ホロコーストの風化」はイスラエルでも問題になっていて、いろいろな方法でこの悲劇を人々や後世に伝えようとする動きがある。
2年まえに京都で知り合ったユダヤ教徒のイスラエル人に、ホロコーストの質問をしたらこんなメールが返ってきた。

「I think this is great idea to ensure also the younger generations remembers the holocaust!!!」

若い人たちがホロコーストを知るための、すばらしいアイディアがあるという。
でもそれを知る前に、まずは「エヴァ・ヘイマン」という少女について知ってほしい。

 

Eva Heyman

死亡データに「17 October 1944 (aged 13) Auschwitz, Nazi Germany」とあるから、アウシュヴィッツ強制収容所へ連れて行かれて、13歳で殺されたのだろう。

現代の10代の若者なら、インスタグラムは当たり前。
それであるユダヤ人が思いついた。

 

これと以下の写真は「エヴァ・ストーリー」のキャプチャー

 

もしホロコーストの犠牲者となった少女が、インスタグラムをやっていたら?

この設定なら若い人も興味を持つだろうと考えた人たちによって、エヴァ・ヘイマンが当時の生活をインスタグラムに投稿するという「エヴァ・ストーリー」がつくられた。

実在のエヴァは日記をつけていて、アウシュヴィッツに連行される前に知人にそれをたくしていた。
その日記の内容をインスタグラム動画で再現したのがエヴァ・ストーリーだ。
1940年代のハンガリーの様子だから、先ほどのポーランドにいたユダヤ人と同じような生活だっただろう。

これは朝日新聞も紹介している。(2019年5月1日)

13歳のとき、アウシュビッツ強制収容所で殺された。エバが残した日記を元に、最期の日々がいま動画でインスタグラムによみがえる。

ホロコーストの時代、インスタあれば…等身大の姿を再現

 

ユダヤ人のいる住宅へ踏み込んで、銃口を向けるナチスの軍人

 

「わたしは生きたい」とつぶやくエヴァ

胸にあるのはユダヤ人を示す「イエロー・バッジ」。
最期は知っているから、見るのがなかなか辛い。

くわしいことはここをどうぞ。

After the German invasion of Poland in 1939 there were initially different local decrees requiring Jews to wear a distinctive sign under the General Government.

Yellow badge・Nazi Germany and Axis Powers

 

歴史を伝えるために、昔の人間がインスタグラムで動画や写真、メッセージを投稿していくというやり方はどの国でも通用する。
日本なら広島や長崎の中学生が原爆投下までの生活を投稿してもいいし、内容はガラリと変わるけど、織田信長がインスタグラムに「光秀マジつかえねー」と投稿するのも面白い。
まあ、あんまり調子に乗ると怒られるけど。

 

 

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4 件のコメント

  • イエロー・バッジで思い出しますが、学校で使われている日本製品にシールを貼って糾弾しようとする地域の教育委員会による活動が、どこかの国でありました。イエロー・バッジを玄関ドアに貼るのとほとんど同じ発想ですね。自分達が差別を受ければヒステリックに声を上げるくせに。
    それほど無知蒙昧な国民にはなりたくないものです。

  • 「戦犯シール」について書いているときに、このイエローバッジを思い出しました。
    自治体レベルであんな差別的な対応することは欧米社会ではないでしょうね。

  • >歴史を伝えるために、昔の人間が(その時代から投稿しているかのようなフリを装って)インスタグラムで動画や写真、メッセージを投稿していくというやり方はどの国でも通用する。

    それはそうなんですが。
    こと、ユダヤ人のホロコーストに関しては、史実として起きたことがあまりに残虐非道に過ぎて。
    どっちかって言うと、プラス方向の明るい良い活動というイメージを伴う「インスタグラム」に投稿する「犠牲者」を仮装するというのは、「本当にやっていいのか?」と自分は疑問を感じます。まあ、実際にやる人自身がユダヤ人であればそれは自分で選択したことであり問題ないのでしょうが。
    ユダヤ人以外の外国人が軽々しくそのような活動に参加するのはなぁ・・・。あの世にいる犠牲者から怒られそうな気がします。

  • ユダヤ人のなかでも賛否がありますし、みんなが称賛しているわけではありません。
    歴史の臨調感が伝わっていい試みだと思います。
    若い人たちへアピールするもっといい方法があればいいのですが、それはむずかしい。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。