【イスラム教の発想】新型コロナに感染する人、しない人

 

「もうホント、勘弁してください」と言いたくなるような新型コロナウイルスの感染拡大。
いまは特にイランが深刻な状態になっていて、3月17日での感染者は約16000人、死者は約1200人と世界で3番目に多い。

それでイラン政府は国内のイスラーム教徒に金曜日の礼拝を中止するよう指示したけど、「新型コロナを撃退するにはみんなで祈るのが最善の方法だ」と信者によびかけた宗教指導者(というかバカ)がいて、その結果、信者がいつも以上に殺到してしまった。
そしてその礼拝所がクラスターとなって、感染は一層広がったというオチ。
くわしいことはこの記事を。

イランの悲劇:コロナは悪霊!神に祈って撃退だ→感染激増

 

ヒトからヒトへうつるウイルスなんだから、集団と閉鎖空間なんて最悪の組み合わせというのは常識として分かりそうなものだけど、こういう過激なイスラーム教徒は行動基準がちがう。
彼らはきっと、「インシャアッラー」という別の常識で動いている。

東洋経済オンラインの記事(3/17) で、ジャーナリストの池滝和秀さんが書いている文章を見てそう思った。

感染するかしないかは、インシャアッラー(アッラーの御心のままに)というわけだ。イラク北部のクルド人地域では、「若者たちよ、モスク(イスラム礼拝所)に来れ。モスクの集まりは、疾病の流行とは無縁だ」といった詩がSNS上に流布している。

コロナ対応に映る「日本と中東」文化の大きな差

 

アッラーはイスラーム教の神で、イン・シャー・アッラーは「神が望むのなら」といった意味になる。
この考え方に立てば、新型コロナウイルスに感染するかしないかは神の意思しだい。

トイレの神や貧乏神もいる多神教の神道とちがって、一神教のイスラーム教やキリスト教に他の神は存在しない。
そんなことは絶対にあってはならない。
そんな信者にとってアッラーとはこの世のすべてをつかさどる存在で、人の生死をふくめて全てはアッラーの思いのまま。
アッラーにはハック(真理)という別名があって、真理は人間の力で動かすことはできない。
だからイスラーム教徒が誰かと何かを約束して、そうなるよう自分が最善を尽くしたとしても、最終的な結果はアッラーがきめるのだ。

 

あした起こることは、人には分からなくても神なら知っている。
運命や時間もアッラーの望みしだいだから、人間が正確に予言することはできない。
そういう考え方が背景にあって、イスラーム教徒は約束ごとをするときによく「インシャアッラー」(アッラーの御心のままに)の一言をくわえるのだ。

だから、新型コロナウイルスに感染するかどうかはアッラーがきめることで、そのご意思にかなうよう行動すればその禍を避けることができる、という困った信者や宗教指導者がでてくる。
だから神に「選ばれる」ように、強い信仰心を見せたのだろう。
その結果はクラスターだったけど。

マスクを転売した者には死刑もありえるとか、感染したと知りながら医療機関に行かなかった者には懲役1年の刑罰を科すとか、いまイラン政府がかなり厳しい対応をとっているのは、こうでもしないと打破できない迷信や妄信があるから。
この点、日本が「無宗教の国」でよかった。

 

マスクがないならブルカをかぶればいいのに

 

おまけ

この発想はキリスト教の「予定説」と似ている。

人が救われるかどうかは、そのひと個人の意志や努力に関係なくて神の意思によってきめられる。
救済される対象かどうかは神にあらかじめ定められている、という一見身もふたもない考え方だ。
これは深い考え方だから、くわしくはここをクリック。

教会にいくら寄進をしても救済されるかどうかには全く関係がない。神の意思を個人の意思や行動で左右することはできない、ということである。

予定説

 

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4 件のコメント

  • イスラム教の神を「アッラー」、キリスト教の神を「キリスト」「ジーザス・クライスト」と、あたかも固有名詞のように呼ぶことにはどうも違和感があります。彼らにしてみればそれらの神はすべて同じ God、つまり唯一絶対の創造神、世界の最初から存在している唯一の偉大な神様のことを言っているからです。
    ただまあ、相当する単語が日本語には存在しないのですよね。強いて言うなら「唯一神」「創造神」「ザ・神様」とでも翻訳するのかな? 「ザ・クリエイター」では、有名な芸術家みたいだし・・・。
    心理学や比較宗教論では「アルファ」と言ったりもします。これ確か、聖書の言葉「われはアルファであり、オメガである」に由来するものだったはず。

  • 神の呼称を統一しようとしたら戦争になるでしょうね。
    違いを認め合うしかないです。
    日本の神道にはいろんな神がいますが、創造神はいません。これは知人のドイツ人が意外に思っていましたよ。

  • キリスト教の「(救済)予定説」を代表とする「確定未来主義」は、科学の分野においてもかつては根強く信じられていました。その趨勢は、ギリシャ数学から出発し、キリスト教神学の教えを経て、(神学と科学を分けた)ニュートンによる「力学万能論」へ発展し、さらには「ラプラスの悪魔(スーパー計算能力・予知能力の悪魔)」に至ります。
    しかしながら、それへの反証は、まず物理学の「不確定性原理(現実の物体には観測者自信が影響を与えてしまうので完全な観測は不可能、よってそれに基づく予知も不可能)」に始まり、論理数学上の「不完全性定理(この世の論理体系で完全かつ無矛盾なものは存在し得ない)」、やがてデジタル数学における「カオスとフラクタルの理論」により「全知全能神様であっても誤差ゼロで完全には計算しきれないモデルがこの世にはある」が示されたことで、たとえ神様であってもこの世の全ての事象・全ての未来を見通すことはできないのだと結論付けられました。
    我々の未来は確定しているのかもしれないが、その未来像は誰にも(神様にも)分からない。ならば、努力をすれば、その努力の方向・程度に見合った成果が得られるのだから、生きている間に努力する方がマシであると、私はそう思います。

  • そこまでの化学的な知識がないので、「そうなのですか」と感心するだけです。
    神道には創造神がいないから、こういう時間や結果をつかさどる存在もいないのだと思います。
    キリスト教文化圏に人におみくじについて聞いたら、キリスト教の考え方ではないと言われました。
    そいうのは星占いのジャンルのようです。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。