【昆虫食と宗教】ゲテモノを見た日本人と外国人の違い

 

これは少し前の記事で紹介した無印良品の「コオロギせんべい」(190円)。

 

画像はホームページより

 

国連の発表によると2017年には76億人だった人類は、2050年には98億人に増加するという。

人口の増加ペースに食糧供給が追い付ていないことから、将来の世界的な食糧危機が問題となっている。
そこで国連食糧農業機関(FAO)が注目、推しているのが昆虫食。

昆虫は栄養価が高いし、生育に必要な水やエサの量は牛や豚などに比べて圧倒的に少ないから環境にやさしい。
そんなことから、無印良品のホームページには「地球にやさしい未来食です」とある。

日本政府も世界的な流れを受けて、「昆虫食の導入」について検討をはじめた。

現代ビジネスの記事(6/13)

4月17日、農林水産省は「フードテック研究会」を立ち上げ、第1回会合を開催した。この研究会は、将来的なタンパク質の供給の多様化について検討を行うものだ。検討対象には代用肉とともに昆虫食も含まれている。

昆虫食の時代が来る? 無印良品「コオロギせんべい」が大好評の背景

 

日本人の場合、岐阜や長野の人ならともかく、昆虫を口に入れることには抵抗感をもつ人はまだまだ多い。
それを考慮したのだろう。上のせんべいは、原型をとどめないようにコオロギを粉末状にして練り込んであるから、「昆虫感」がなくなってハードルがかなり低くなっている。
まあ「うなぎパイ」と同じ発想だ。

そのせいかコオロギせんべいは完売御礼、いまは在庫切れ。
これにネットの声は?

・芸人の罰ゲームひとつ減っちゃうじゃん
・コオロギって、ぱっと見ゴキブリと変わらないのによく食べられるな。
・昆虫は蛙に喰わして、蛙の肉を食おうや
・慣れの問題だろ
カニだってエビだってよく見りゃキモい
・次世代の人類はゴキブリをみたら、よだれが垂れるようになるわけか

 

時代は変わって、いまでは女性アイドルも昆虫を食べるのだ。

「クランクイン」の記事(2020/6/16)

「香ばしさなんかみじんもないですよ! 皆さんが想像している虫の味そのまんま!」と松村が熱弁していると(中略)松村は「ヘビも食べたしタガメも食べたし、結構いろんなもの食べさせられた」と苦い顔をしていた。

乃木坂46・松村沙友理、ゲテモノ料理を熱弁「ヘビもタガメも食べた」

 

ほとんどの日本人にとって昆虫食はゲテモノやキモイだけで、タブー(禁忌)ではない。
日本人ユーチューバーがイナゴの佃煮を食べる動画を見て、あるユダヤ教徒がこんなコメントをした。

「They’re actually Kosher!」

イナゴはコーシャ(カシュルート)だから、食べることができる。
ユダヤ教の教えにもとづいて処理や調理がされていて、ユダヤ教徒が口にしていい食べ物はカシュルートと言われる。

たとえば聖書の『出エジプト記』23章19節に「子やぎをその母の乳で煮てはならない」と書いてあるから、親子丼はシュルートにならないため、ユダヤ教徒はこれを食べることができない。

肉類と乳製品を一緒に食すること、また同種の産物を使った食事(鶏卵と鶏肉を使った親子丼等)を禁じられている。

カシュルート

同じ理由で、ユダヤ教徒はチーズバーガーも口にすることが禁止されている。
ただし特別に調理されたものならOK。

 

イスラーム教徒にとっては豚肉と酒、ヒンドゥー教徒にとっては牛肉がダメなように(例外はある)、宗教は人間の食文化に決定的な影響をあたえている。

ユダヤ教やキリスト教のセブンスデー・アドベンチスト教会など特定の宗教・宗派によっては特定の種類の昆虫がタブーとされている場合もある。

昆虫食

イスラーム教ではアリやハチはダメだけど、バッタなら預言者ムハンマドが食べたからOKらしい。

 

インドネシアのポッキーには右上に、イスラーム教徒が食べられることを示す「ハラール認証」がある。

 

イスラーム教徒やユダヤ教徒、ヒンドゥー教徒などの場合、見た目や値段より先に、その食べ物が宗教的に禁止されていないかどうかを確認しないといけない。
もしそれがタブー(禁忌)に触れるものなら、その時点で食の選択肢から永遠に外れる。

その点、無宗教の日本人は最強に近い。
宗教的なタブーがないから、その食べ物を口に入れるかどうかは、その人の勇気や気持ちしだいで、聖書を見て確認したり宗教指導者と相談する必要はなくて、すべて個人で決めることができる。

だからこれまで昆虫食について日本人のコメントを山ほど見てきたけど、「They’re actually Kosher!」とか「酒が入っているのか。それならダメだ」いった外国人のコメントによくあるものは一度も目にしたことがない。

海外なら、まずそれが宗教的タブーかどうかを考えるのは常識的だけど、無宗教の日本人なら「慣れ」「ゲテモノ」「罰ゲーム」といった問題になる。
日本人にとって昆虫食のハードルはけっこう低いから、この未来食はそのうち常食になるかもしれない。

 

 

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4 件のコメント

  • > イナゴはコーシャ(カシュルート)だから、食べることができる。(改行)ユダヤ教の教えにもとづいて処理や調理がされていて、ユダヤ教徒が口にしていい食べ物はカシュルートと言われる。
    > イスラーム教ではアリやハチはダメだけど、バッタなら預言者ムハンマドが食べたからOKらしい。

    ユダヤ教とイスラーム教が同じ教えをしているのは珍しい?という感じも受けるのですが、これもしかすると、昔から度々起きていたイナゴ大発生による農作物への被害(蝗害)による食料不足への対策の一環として、人々にイナゴを食用とすることを教える「知恵」だったのかもしれないですね。

    実際、19世紀の米国では「ロッキートビバッタ」の大発生に苦しんだ際、そのイナゴを食することを食料不足の対策の一つとして採用し、まあ成功した実績があります。
    たとえばNHKの昔のドラマに「大草原の小さな家」がありましたが、あのインガルス一家も、イナゴの蝗害に苦しんだ挙句、結局はその戦いに敗れて、プラム・クリークの農地をあきらめ他州へ移住していったのです。

  • ユダヤ教とイスラーム教は信じる神が同じで聖書も共有する部分もありますし、似ていることはありますね。
    まあいまは敵対してますが。

  • >ユダヤ教とイスラーム教は信じる神が同じで聖書も共有する部分もありますし

    その辺、ユダヤ教→キリスト教→イスラム教 という流れで現代まで続いているということを、もう世の中の常識として、中学校当たりで教育すべきだと思うのですよね。今はやってるのかな?
    たとえば、イエス・キリストが生存していたローマ時代(紀元前の末期)、キリスト本人を含めた中東の人々がどんな宗教を信じていたかと言うと、当然、ユダヤ教(と言うか、現代ユダヤ教の元になったヤハウェの宗教)なんですけど。キリスト教は、その古代ユダヤ教の中から発生した一種の「宗教改革運動」であったのかもしれません。(その後、ローマ帝国が国家宗教として採用したことの影響も大きいですが。)

    宗教について教育することと宗教に入信させることとは違うのですけど、その区別が、日本の教育会にはありません(共産主義思想の影響か?)。また、宗教に対する(学術的)批判や分析は、その宗教に対する弾圧とは違います。
    宗教について全く知識がなければ、世界の人々を相手にコミュニケーションするのは無理ですよ。

  • 知人のイギリス人は世界宗教については学校の授業でならったと言います。
    その知識がないとイギリス社会で生きていくのに困りますからね。
    でも日本ではどうでしょう?
    わたしも義務教育で宗教について教えるべきだと思いますよ。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。