パチンコと自衛隊:外国人には理解困難な日本の“チート理論”

 

江戸時代には幕府の侍をしていて、明治になると教育者となって日本を導いた福沢諭吉は著書「肉食之説」の中で、日本人の肉嫌いをこうなげいた。

「數千百年の久しき、一國の風俗を成し、肉食を穢たるものゝ如く云ひなし、妄に之を嫌ふ者多し。」

日本の食文化は長い歴史をかけて形成されたもので、江戸時代には動物の肉を「穢(けが)れ」のように考えて嫌う人が多かった。
たしかに江戸時代の日本では肉食禁止の風潮があったけど、ウサギは鳥だから食べてもいいとか、猪の肉を「山くじら」、鹿の肉を「もみじ」と言い換えて肉を食べる人もいた。

そんな話をタイ人と香港人にしたら、「それじゃインチキじゃないですか」とあきれる。
という話を前回書いたわけですよ。

外国人があきれる江戸の日本:肉食禁止でも言葉をかえればOK

 

まえにアメリカ人とイギリス人とご飯を食べていた時にこの話をすると、「いやそれ、今の日本も同じじゃね?」とアメリカ人が言って、日本でギャンブルは違法のはずだけど、パチンコ店は全国どこにでもあると指摘する。

彼が日本人に連れられて初めてパチンコをしたとき、そのシステムがさっぱり分からなかった。
大量の玉をボールペンやお菓子にかえて、店の外にある小さな建物に持って行くとそれを現金にかえてくれる。
パチンコの玉と現金を直接交換する違法になるけど、「特殊景品」をパチンコ店・景品交換所・景品問屋の3つを経由して現金にかえる「三店方式」なら、ギャンブルには当たらないから合法となる。
そんな説明を聞いたアメリカ人は、「なるほど。日本人はかしこいな!」と感心するわけがなく、どう考えてもパチンコはギャンブルとしか思えない。

個人的にも、間にボールペンをはさめば合法というのは日本人にしか通じない特殊理論で、外国人には通じない「チート」だと思う。
イギリス人もあれはギャンブルだと言い切り、日本の主張はズルいと非難する。
「法律ゆうんは弱いもんの味方やない、知っとるもんの味方するんや」と萬田銀次郎が言うように、法律を熟知している人は抜け穴を見つけることができる。
でも2人ともパチンコをしないから、基本どうでもいい。

 

このときイギリス人が「あれもおかしい」と持ち出したのが自衛隊。
彼女が英会話のレッスンで「日本で自慢できることは?」というお題を出したとき、あるサラリーマンが日本は軍隊のない平和な国だと話す。
「え?でも自衛隊があるじゃないですか」と言うと、あれは「Self-Defense Force」であって軍隊ではないと言い返された。

たしかに日本では軍隊は存在しないことになっているけど、戦車や戦闘機を保有する自衛隊はそのイギリス人からすると完全に軍隊で、どの外国人に聞いてもそう答えると言うとアメリカ人も同意する。

自衛隊が軍隊かどうかは国内でもあいまいな部分がある。
政党や学者の解釈しだいで合憲にも違憲にもなって結局よくわからないし、「自衛隊は違憲でも合法だからOK。日本に軍隊は存在しないのだ」というリクツは「三店方式」並みに外国人には通じないだろう。
でも、国際法上では自衛隊を軍隊とあつかうように、海外ではこれが常識的な見方で、「日本は軍隊のない平和国家」という主張が世界の支持や理解を得られるとは思えない。
とはいえ2人とも自衛隊には縁がないから、基本どうでもいい。

 

言われてみるといまの日本社会には、外国人には理解できないような「チート」な理論や行為がけっこうあるかもしれない。
パチンコはいいとして、海外で外国の軍隊と行動する自衛隊は摩擦を起こすことがある。
自衛隊は軍隊ではないから、武器使用をはじめとして活動には厳しい制約があるけど、外国軍の軍人はそんな特殊事情なんて知らないし、自衛隊を同じ軍隊とみるから問題も発生する。

いまは自民党議員の佐藤まさひさ氏が陸上自衛隊にいたころ、イラクに派遣されてそのことを痛感した。
(2014-05-17)

「仲間を助けない、自衛隊」、この問題はオランダ軍内だけでなく、多国籍師団司令部でも問題となった。(中略)軍の仲間を助けない、特に民間人を助ない軍隊はあり得ない。そのようなことが現実に起きたら、仲間から、そして軍として信頼されるはずもない。

何故 、助けないのか!

これで「我々はSelf-Defense Forceであって軍隊ではない」と言い返したら、きっと世界の孤児となる。
かといって、自衛隊が国内法に違反するわけにはいかないから難しい。

 

2003~2009年まで行われた自衛隊のイラク派遣

中東でひげのない男性は未成年や同性愛者と思われるので、このとき自衛隊員は全員が口ひげを生やしたという。
こういう配慮はバッチリ。

 

 

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1 個のコメント

  • >アメリカ人は、「なるほど。日本人はかしこいな!」と感心するわけがなく、どう考えてもパチンコはギャンブルとしか思えない。(改行)個人的にも、間にボールペンをはさめば合法というのは日本人にしか通じない特殊理論で、外国人には通じない「チート」だと思う。(改行)イギリス人もあれはギャンブルだと言い切り、日本の主張はズルいと非難する。
    >「自衛隊は違憲でも合法だからOK。日本に軍隊は存在しないのだ」というリクツは「三店方式」並みに外国人には通じないだろう。

    うーん、この話ですが、基本的に日本人の言語に対する感覚と、欧米人(特にキリスト教徒)の言語に対する感覚の違いが、前提にあると思うのですよ。
    多くの欧米人にとって、言葉は表現したまま絶対のものであり、(言葉で)ウソをつくことは許されません。彼らにとって、「ギャンブル」と言ったらギャンブルを意味するのであり、「軍隊」と言ったら軍隊のことなのです。聖書に曰く、「はじめに言葉ありき。言葉は神とともにあった」のですから。
    でも日本人は、「言葉に表せないところ」に大きな意味を見出そうとします。例えば「行間を読め」とか、「語らずとも茶の湯の席では意志が通じる」とか、「阿吽の呼吸」とか、「沈黙は雄弁に勝る」とか、皆そうです。「物事の本質は言葉に表せないけれども、言葉に表せない点にこそ本当に大事なものがある。」という考え方はおそらく日本独自のものです。昔から単一民族だったから、言葉に頼らずとも意思疎通がしやすかったのでしょう。
    でもその価値観は、現代世界には通用しそうにないですね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。