きのう韓国の全国紙・中央日報(韓国経済新聞)にこんな記事がありやした。(2020.10.06)
韓経:「3敵」が攻勢…韓国産バッテリーの牙城は崩れるのか
世界電気自動車バッテリー市場を主導してきた韓国がいま、中国産バッテリーなどの追撃を受けていま大ピンチ!
というのはまぁ知ったことではないので、ここでは「牙城」という言葉に注目してほしい。
これは日本語にもなっていて、辞書(大辞泉)を見るとこんな説明がされている。
1 城中で主将のいる所。
2 組織や勢力の中心となる所。
「牙城」とは要するにもっとも大事なところで、ここを奪われたら「負け」という場所。だから牙城は死守しないといけない。
日本のメディアはこの言葉をこんなふうに使っている。
「日系企業の牙城」タイで静かに進む地殻変動
「携帯3巨人の牙城中古スマホは切り崩しの切り札か?」
面白かったのは、ヤフーの知恵袋にあったこの表現。
「ネトウヨの牙城であるYahooニュースコメント欄」
韓国でも日本でも、カジュアルに使われるこの牙城という言葉は、なんで「牙の城」なのか?
そしてそもそも何のキバなのか?
ということをこれから見ていきましょー。
日本語と韓国語には共通している言葉がいくつもあるけど、「大統領」や「民主主義」といった近代的な言葉は、西洋の言葉を幕末・明治の日本人が訳したものを韓国人が取り入れたケースが多くて、古い言葉なら中国語由来が多い。
先ほどの「牙城」もそのひとつ。
ただ中国語と日本語では「城」の意味が違っていて、日本だと天守閣のお城のことだけど、中国での「城」は都市を囲む城壁やその内側の居住空間(都市)を指す。
ここでの「城」はキャッスルではなく、シティーの意味と思ってほしい。
こんな城壁で守られた都市が城(中国・西安)
この城の中で、首都なら皇帝、地方都市なら太守のいる城(日本でいうなら本丸)を中国では「牙城」と言った。
つまり牙城とはその都市で最も重要な人物のいるところで、そこを取られたら完全なる敗北を意味する。
なんで「牙」(キバ)なのかは歴史作家の陳舜臣氏によると、むかし中国でこんな風習があったから。
ー巨人軍の牙城に迫る。
といった表現があるが、この牙城の語源は、そこに象牙の飾りをつけた旗をあげることになっていた風習による。「日本的 中国的 (祥伝社) 陳舜臣」
この象牙の飾りのある旗を「牙旗」と呼び、中国では皇帝や大将のいるところに立てることになっていた。
これは猛獣が牙で敵から身を守ることをイメージしている。
城の中の将軍や皇帝のいる居城が牙城で、そこにはいつも牙旗が翻っていた。
むかしは韓国もこれと同じだったはず。
「牙城」は日本と韓国ではいまでも現役で意味も同じだけど、発祥の地・中国ではどうなのか?
中国人にきいてみると、こんなメッセージが到着。
「古时军队中主将居住的内衙的卫城,即大本营、根据地的意思。日语有该词,意思一样,来自于汉语。」
牙城とは古代中国で城(都市)を守る将のいたところで、大本営や根拠地という意味らしい。日本語(日语)にもなっている。
ということは、牙城から発信される情報が「大本営発表」か?
日本語ペラペラの別の中国人はこう言う。
「正直、今日初めてこの単語知りました😂さらに調べてみると、こういう地名があります。これも初耳です。
この単語を中国人に投げかけても、多分せいぜい地名のこと?という反応でしょう。
よほどの本を読み漁っている人ではないと分からないじゃないかなと思います。」
「初めて聞く言葉だったので友達にも聞いてみたら、地名にしか聞こえないと言いました。中国語母語話者にはその意味が伝わらないかもしれません。確かにbaiduで検索しても地名が出ていますね。辞書には確かに昔軍隊の将軍がいるところって意味がありました。 」
「中国のニュースは使わないですね。
古代史ドラマや書籍ならどこかの軍師のセリフになり得るかもしれませんね。
あとは古文テストに出るぐらいのことですかな。
極限られた場合しか出会わない言葉だと思いますよ。」
ということで日本では「ネトウヨの牙城」、韓国ではニュースの見出しに使われる一般的な単語だけど、いまの中国で「牙城」は、歴史の知識がある人しか知らないようなマニアックな言葉らしい。
おまけ
城壁に囲まれた居住空間が中国や韓国でいう「城」
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