【ヨーロッパ文化】死体を教会の壁に埋めるキリスト教の発想

 

雨漏りやカビの発生で悩んでいた学校が石川県にあった。
その学校が建設コンサルタント会社に修繕工事をお願いして、会社が工事をはじめたところ、校舎の壁の中から石こうボードや使用済みの軍手、木くずといった廃棄物が見つかって大騒ぎとなる。

調べてみると、この学校を建てた業者がこうしたゴミを壁の中に埋めていたことが発覚。「きっとバレない」と思ってやったんでしょ。
業者は学校に廃棄物の撤去を申し出たものの、激怒した学校側はこれを拒否して、撤去費用など約50億円を企業に請求した。

そんなことが日経クロステックの記事にある。(2020.09.29)

学校の壁の中から大量の廃棄物、建設会社に50億円請求

 

廃材や軍手を埋めてしまうというのもヒドイ話だけど、これでもし壁の中から死体が出てきたら?
日本ならホラー映画やアニメの始めのシーンでそんなことがありそう。

 

 

話は変わって、イギリス人と静岡にあるお寺に行ったときのこと。

死や血を穢れとする神社(神道)と違って、死を扱う仏教のお寺には、お墓が隣接していることが多いんですよー。
それとそのお寺にいた立派な僧侶には大きなお墓が作られたり、こうして像にして崇拝の対象になるんですよー。
てなことを話していたとき、そのイギリス人が思い出したようにこう言う。

「ヨーロッパでは教会の壁に死体を埋めることがあります」

 

 

そうそう。
日本でも壁に死体を…、え??

聞き返すと間違いなく、ヨーロッパでは教会の壁に死体を埋めることが行われてきたと言う。
それは殺害した死体を隠すためというコナン君的なものではなく、教会にばく大な寄付をするなどキリスト教に尽くした人や、社会的に高い地位にいた人が「名誉」として壁に埋葬されるらしい。
それって日本じゃ罰ゲームどころか、死者の名誉を冒とくする行為になるんじゃないか?お寺の壁に埋められたい人なんていないだろう。

イギリス人の話を聞いてそう驚いたことを、「学校の壁の中から大量の廃棄物」という記事を見て思い出した。

いまは母国に戻っているそのイギリス人にメールできいてみたところ、「これを見るといいです」とウエストミンスター寺院の動画を紹介してくれた。
これを見るとたしかに床や壁、柱に死者を埋葬している。

 

 

ウエストミンスター寺院は11世紀以降、イギリス国王が戴冠式をおこなってきたところで、英国内では最高の格式を誇る教会と言っていい。
日本でいえば、天皇の先祖神アマテラスを祀る伊勢神宮レベル。

くわしいことはここを読まれよ。

ウィリアム1世以来、エドワード5世、エドワード8世を除く全てのイギリスの歴代の王が、「エドワード懺悔王の礼拝室」で戴冠式を行っている。

ウエストミンスター寺院

 

イギリス国王の他に世界的学者のニュートンやスティーヴン・ホーキング、「種の起源」を書いたダーウィン、首相のグラッドストンにアトリー、詩人のチョーサーや音楽家のヘンデルなど、ボクが高校世界史で学んだような偉人がウエストミンスター寺院のあちこちに埋められている。
ただチョーサーは詩人だったからではなく、王室の書記官だったかららしい。

このイギリス人いわく、教会の中心部近くに埋められるほど光栄なこと。
(I assume that the closer to the heart of the church you are buried, the greater the honour.)

さらにくわしい情報はウエストミンスター寺院のホームページをクリック。

Poets’ Corner

伊勢神宮の壁や柱に歴代天皇の遺体が埋められていたら、怖くて行きたくなくなるけど、ヨーロッパ人は別の感覚をもっているのか。

 

ウエストミンスター寺院

 

同じことをドイツ人にもきいてみたら、かの地でもこの風習があって特別な人間だけが教会の中に埋葬されてるという。

教会を建てた人や、多額の寄付をして教会を飾る美術品や絵画、彫像などを購入した人などがその名誉を手にすることができる。
芸術作品のように教会に足跡を残す人もいたらしい。

彼らは少しでも神に近づくために、教会に埋められる特権を買ったのだとそのドイツ人は言う。

「Because of that, they bought themselves the right to be buried inside. Of cause its all for the porpouse to be closer to god.」

礼拝堂全体を骨で飾ることもあったけど、その理由は彼にも分からない。
ちなみにドイツでは、音楽家のバッハがライプツィヒの聖トマス教会に埋められている。

東ヨーロッパのリトアニア人にも聞いたところ、リトアニアにもそんな風習があってこれはヨーロッパのひとつの文化という。

『葬と供養』(五来重著 東方出版 1992)にはこう書いてある。

貴族に限ったことではないが、「支配者や金持は、教会の中に死体を埋葬することを望み、教会の床や壁に棺が埋められた。

 

教会の壁に死体を埋めるというヨーロッパ人の発想は、日本人にとってはこれ以上ないほど悪趣味。こんなことが起こるのはアニメや映画の世界だけだろう。
でも、いつも神のそばにいられるということで埋葬された人物からみても、キリスト教徒にとっては最高級の名誉だったはず。
日本ではホラーだけど、ヨーロッパではオナーだった。

 

 

追加情報

これはあとから知ったことだけど、「ノストラダムスの大予言」で有名なノストラダムス(上の人物)もフランスにある教会の壁に埋葬された。
床に葬られると他人から踏まれることになるから「謙譲さ」を表すけれど、ノストラダムスはそうではなく壁を指定したという。

 

サンタ・クローチェ聖堂(画像:Sailko)

 

イタリアで有名なのがフィレンツェにあるサンタ・クローチェ聖堂

この聖堂の中にはミケランジェロ、ガリレオ、マキャヴェッリ、ロッシーニといった世界的にも知られている人物が埋葬されていることから、「«pantheon» delle glorie italiane(イタリアの栄光のパンテオン)」と呼ばれているとか。

 

ここにミケランジェロが眠っている。(画像:Rico Heil)

 

グレース・ケリー

ハリウッド女優でモナコ大公と結婚したグレース・ケリーはモナコ大聖堂に埋められた。

 

 

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3 件のコメント

  • >教会の壁に死体を埋めるというヨーロッパ人の発想は、日本人にとってはこれ以上ないほど悪趣味なホラーで、アニメや映画の世界でおこること。(改行)でも、いつも神のそばにいられるということで、ヨーロッパのキリスト教徒にとっては最高の名誉、これ以上ないご褒美だったのだ。

    そりゃそうでしょうね。ローマ・カソリックの総本山であるバチカン主教庁は、イエスの最初の弟子であったペテロの墓の上に建っているくらいですから。
    で、現代では、殺人事件の証拠である死体を隠すために壁の中に埋めるという話が、海外の小説、TVドラマ、映画なんかにしょっちゅう出てくるのですが。どうも、彼らにしてみると、その「壁の中に埋める」という行為そのものにはあまり猟奇性を感じないようですね。これもそのような「キリスト教会」の影響か?
    あと、日本と外国では気象条件とか暖房方法(ペチカや暖炉)とかに違いがあって、壁の中に塗り込められた死体が乾燥してミイラ化してしまって、死臭もなく、意外と長期間にわたって発見されない場合が多いのです。日本だったらまず無理ですね。壁の中でもすぐに腐って酷い死臭が漂うだろうし。

  • 全然知らなかったです。だからドイツの教会には壁に墓石みたいのが埋め込まれてることがよくあるんですね!
    もう少しちゃんとヨーロッパの教会の事を勉強したくなりました。
    ありがたうございました。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。