【シュブハー】日本で生活するイスラム教徒を悩ませること

ある晴れた日、イスラム教徒のバングラデシュ人5人を車に乗せて富士山を見に行ってきた。その途中、軽食を買うためにコンビニに寄ったとき、こんな光景を見た。

良さげな新商品はないかと店内を探していると、ドリンクコーナーの前で3人のバングラデシュ人が話をしている。「どれがおいしいと思う?」といったライトな内容ではなさそうだ。真剣な顔をして、飲み物の原材料表示にスマホをかざして話をして、また別の飲み物にスマホを当てて3人で画面をのぞき込む。
これは一体何の儀式?

無宗教の日本人なら、自分の食べるものは自分で決めることができるが、イスラム教徒の場合、OKかNGかは神(アッラー)によって決められてうて、信者はそれにしたがうしかない。イスラム教徒をあらわすムスリムという言葉には、「神に絶対服従する」という意味があって、彼らに「拒否権」はない。
イスラム教でやって良いことは「ハラール(ハラル)」(許可)、ダメなことは「ハラーム(ハラム)」(禁止)という。

彼らは、原材料がハラールかハラームかをチェックしていたのだ。その結果、タピオカミルクティーが却下された。

ではここでクエスチョン。
イスラム教で禁止されている飲食物は何でしょう?

 

コンビニで原材料をチェックしていたイスラム教徒の女性。イスラム教のルールで、ヒジャブをつけて髪を隠している。

 

イスラム教では、豚肉とアルコールを摂取することが禁止されている。だから、イスラーム教徒は豚骨ラーメン、酒、ビールなどを口にすることができない。
以前トルコ人に、トルコにトルコライスがあるかどうか聞いたところ、彼は画像を見て「これトンカツじゃないですか。こんな料理がトルコにあるわけないじゃないですか」と即座に否定した。

ただ、ハラールフードを厳密に定義するとかなり複雑なので、くわしいことはここで確認してほしい。

豚の他、犬、獲物を捕獲するための牙や爪がある虎・猫などの動物、キツツキ、ロバ、ラバを食べることが禁止されているが、それ以外の肉であっても屠殺が正規の手順に従ったものでなければ食べられない。

ハラール

 

話をコンビニのイスラム教徒に戻そう。
いまでは、日本語で書かれた原材料名にスマホを当てると、自動翻訳して表示してくれるアプリがあるから、彼らはそれを使って口に入れていいかどうかを確認していたと言う。
でも、「タピオカミルクティーならOKだろ。豚肉やアルコールが入っているとは思えない」と疑問に感じて話を聞くと、イスラム教徒にとっては「乳化剤」が問題らしい。
ハラールかハラームか、どちらかハッキリ分からないものは「シュブハー(疑わしい)」といわれ、そのひとつに乳化剤がある。
イスラム教で乳化剤の摂取は禁止されてはいないが、できるだけ避けたほうがいいとされているという。

彼らが話し合った結果、そのタピオカミルクティーはハラールだと判明し、それを買うことにした。
一般的な日本人なら、コンビニの新商品を見て「これ良さそう!」と思ったら直感で購入することができるが、イスラム教徒は原材料を細かくチェックしないといけない。
しかし、それは神が決めたことで、彼らはムスリムだから仕方ない。
彼らは日本で生活していて、「シュブハー」について悩むことが多いという。

 

知人の在日イスラム教徒に日本で生活する困難についてきくと、ことばや文化の違いではなくて、食の心配が一番大きいと言う人が多い。
*彼らはほとんどインドネシア人やマレーシア人など東南アジアのイスラム教徒で、中東のイスラーム教徒とはちょっと違う。

相手のことばや行動、日本の習慣がわからなくて困るのは個人的な問題で、それならまぁ何とかなるけれど、イスラム教のタブーはムスリムとして絶対に犯してはいけない。
それはアッラーとの契約を破ることになり、死後、地獄に行く可能性が高くなってしまうから。

 

国際交流イベントで見たハラールのマヨネーズ
さまざまな外国人を相手にするなら、こういう配慮は必須だ。

 

さて、きのう2月22日は「にゃんにゃんにゃん」で猫の日だった。
ほかに「フーフーフー」と息を吹きかけて食べることから、「おでんの日」でもあった。
わが静岡県には、濃口醬油を使ったつゆや黒はんぺんが特徴の「しぞーかおでん」がある。

「静岡県に住んでいるなら、一度はこの名物を食べるべき」と数年前に飲み屋でイスラム教徒におススメしたところ、「たぶん大丈夫と思いますけど、だしや具のすべての原材料がわかりませんから、やっぱりやめときます」と笑顔で拒否られた。すこし傷ついた。
いま思えばこのとき彼は、おでんをハラームとハラールの中間にある「シュブハー」と考えたのだろう。

しかし時代は国際化だ。
4年前、ハラールの静岡おでんができたと「ハラール・メディア・ジャパン」の記事にあった。(2017年02月16日)
これを読むと、あのとき彼がおでんを食べなかったのは大正解。

魚を原料とする練り物には、意外にも豚由来の成分を含むものもあり、アルコールや豚由来成分を含まない原料での製造、ハラール対応のしょうゆなどの調味料で製造します。

ハラールの静岡おでんに取り組む「はの字食品」

 

もちろんこれはボランティアではなくビジネス。
最近はインドネシア人やマレーシア人などのイスラム教徒がたくさん日本旅行にやって来るから、彼らをターゲットにして「ハラールしぞーかおでん」を開発したらしい。

このニュースへのネットの声は?

・異教徒の日本人が作ってもハラールにならないんじゃないの?
・静岡県民だけど、駄菓子屋のおでんが一番美味しかった思い出。
・焼津の飲み屋で食ったおでんには、豚足が入っていたけどね
・どんだけ豚嫌いやねんw
・発酵食品が食えないなんて人生半分損してるよなw
・練り物って魚介類だから豚肉使って無いし良いよね

これに限ったことではないが、イスラム教について(おでんも)誤解している人がけっこう多い。
そう言うボクも、イスラム教徒との付き合いは長いほうだと自負していたが、ハラール・ハラームのほかに「シュブハー(疑わしい)」があるのは知らなかった。

多文化共生は強制じゃないから興味のない人はスルーでいい。
けど、いろんな国の文化や価値観を知るのはとてもおもしろいし、それを通じて日本の理解も深まるからおススメだ。
これはおでんと違って間違いはない。

 

おまけ

イスラーム教が国教になっているイエメンの首都サヌア

 

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 河津桜ですかね。何度か行きましたが「花より団子」ひとごみと屋台を楽しむだけでしたが今年はどうなんですかね

    何か所かハラール・ハラームごっちゃになってますねw

  • 河津桜です。
    これはピンクが濃いから、春先の桜より好きだという外国人が多いです。

    ご指摘ありがとうございます。
    ごちゃ混ぜでしたね。

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